正国 vol. 8 ドキュバラ 或る外国人
この国のテレビ局で我が社が色んな権利を所有している映画を全国放送するというので
飛行機に乗ってやってきた。
空港に降り立って最初に感じるのが、不思議な国民性だ
今は工業国になっているが、昔、農業国だった頃の農村文化
目立たないように地道に先祖代々の田畑を耕す事だけに生涯を捧げ
百姓としての身の程をわきまえて、百姓以外の仕事をしたい誘惑を撥ね退け
農村の掟を守って、農村内の人間関係を何より大事にして
農村の村長や、村の上役が言った事には絶対服従
百姓は余計な事は言わずに農作業だけに専念する事が素晴らしい
家も村の一部なので村が大きな家、村人は家族、よそものと関わってはいけません
テレビ局で色んな交渉を事務的に消化している内はいいが
家族とか生活習慣とかの価値観についての世間話になると
農村文化の農村がテレビ局に、百姓じゃなくて映像技術者になっただけで
道徳観とか選民意識とか色んな価値観が農村だった頃のまま
なので映画の放映権、放映権料などについての交渉や契約も
テレビ局の映画関連事業をする村の村長さんとだけする事になる
そして数週間、滞在する事となったわけなのだが
最初に聞いていた農村文化以外にも色々と独特だ
独自の宗教があって、その宗教による決めごとが全てなので
クリスマス、正月、ハロウイン、お盆、お彼岸、夏休み。
などの国民祝日が価値観レベルで無い
週休一日制で、朝8時から夜8時までの12時間労働が基本的な勤務時間
大きな国営企業グループがあるだけで民間企業は一切ない
この国営大企業が我が国でいう所の真っ黒なブラック企業らしいのだが
あまり詳しい事は知らない
国営企業社員は、有能な働き者、有能な怠け者、無能な働き者、無能な怠け者
の4種類に分類され、
無能な怠け者と判定されたら一生、底辺労働者
無能な働き者と判定されたら有能な怠け者が使う作業奴隷
有能と判定された人間が賛美されて出世できるという社内評価システムになっているらしい
なので交渉に出てくるのも有能な働き者なのだが
有能な働き者の世界にも内輪もめがあって
無駄な事や無意味な事をするように誘導して
仕事がわかっていないのに、ただ、やろうとしてカラ回りするだけな常態に押し込んで
”全ての失敗は、この無能な働き者のせいです。
今まで うまくいっていたのは、この有能な働き者の私のおかげです”
と言い張るという茶番劇が繰り広げられた
私の前任者にしても、最初に映像放映権取引の国際ルールやタブーを
やけに聞いてくる担当者がいるので何故かなあと思っていたら
同僚の同じような放映権取引担当者にタブーというか違反行為をさせて
残りの人生が底辺労働者になるように陥れるためだったという事があったらしい
仕事の合間に一番、この国で人気のある、”ドキュバラ”という番組を見る
農村社会の、”恥をかかないように、目立たないように言われないように生きる”
という感覚からすると、晒し者にされるかのように目立つ事が何より恐ろしい
自分が目立って晒し者になるのは嫌だが、誰かが晒し者になって恥をさらすのは面白い
なので、誰かが晒し者になる番組を作ろう
というコンセプトで作られている番組だ
この国で唯一の国営大企業の社内監視システムで常駐監視している社員
社宅で生活する社員の家族、学校に通う社員の子供、定年になった人々が暮らす老人介護施設
などなどにも配備されている監視カメラで記録された国民の中から
こういう国民社員になっては、いけません
こういう国民社員に、なるべき、いや、なりたいでしょう?
というような国民を選んで取り上げ毎週、放送しているという番組だ
この番組が唯一の国民的娯楽で、共通の世間話のネタらしい
なので、最初、我が社の映画で放映されたのも
その一生を延々と実況生中継されて見世物として生きる人間
が主人公な超監視社会国家の物語と、そのシリーズだ
他の国からは総スカンに近かったが、この国でだけは絶賛された。いや今も人気がある。
今年度の放映権取引について交渉と契約締結が7月末に終わり
8月になる明日には、飛行機に乗って帰国する事になった夜、送別パーティーが開かれて
そのパーティーには何故かドキュバラのスタッフも数人いた
酔っぱらって、そのスタッフ内輪の村長さんらしき存在に聞いてみる
「そういえば、この国では君等の作る番組が一番、人気があるんだって?」
「そうですよ。この国では一番、人気があります。
ただ、国際映像として海外にコンセプト販売とかをするのは
人道的に問題があったり、個人情報保護上の問題があったりして駄目でしょうけれどね
そこらへんをクリアしているのが、貴方方の会社の、人生実況中継シリーズですよね
よく考えつきましたよね。あんな物語」
「あー、知らなかったんですか? あの映画のプロデューサー・脚本・監督
全て貴国の出身ですよ」
「いや、そうだったんですか、知らなかったなぁ。ははは。
外国についての情報が一切、入ってこないんで」
というワケで、その農村国を後にした。
一回、担当すると何故か二度と担当してはいけないという決まりな国なので
二度と訪れる事は無いのだが、不思議といえば不思議
どんな常識でも多数派が常識と判定したら常識になるという事を知れた体験だった。




