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かっこいい悪役を探して  作者: 中山恵一
21/51

獣性(にんげんせい) (祓い屋 No.1)


1 時を駆ける兵隊


その軍人は、ある帝国主義国の陸軍駐屯地にいた。


頃は、1943年9月。


世界的大不況から国民の不満を外国への攻撃に向ける国が増え

その国際流行は多くの国を巻き込んだ戦争となってゆき


軍人の所属する国は、敗戦して植民地となったり

自国領土が戦場になったりする事は無く


直前に発生して短期で決着した3つの戦争で勝利を収めたため


 戦勝国となって、数年前からの不況を払拭できた事を

 大々的に誇示し、それが受け入れられて賛美される政治家


 対岸の火事での戦争景気で経済が盛り返して儲かり

 成りあがった戦争成金と呼ばれる商人


 身分制度を超えて祖国を勝利に導いた英雄となった偉大な軍人


などが、保守支配層の階級に増殖し


有能で働き者の大企業で働く高所得労働者から、

無能で怠け者の低所得労働者まで、ほぼ全国民が

今度の戦争で、自分が成金や偉大な軍人になれると信じていた。



そんな帝国軍にいる18歳の一番下っ端な軍人

野木希典(のき まれすけ)


数百年前から専制君主制度で身分階級が定まり

同じ統治領の同じような身分階級の人間とだけ

先祖代々、関わってきていたが

野木の家は保守支配層の底辺


実際は、一応漁村で働く村の上役という名目で漁師と一緒に過ごし

保守支配層からの命令があった時に


 漁にいくかのように海路を辿って

 統治領内の邪魔な存在を毒殺したり

 社会的に抹殺するための風説を流したりする


といった保守支配層の皆様にとって

都合の悪い存在を消すのが仕事だった。


同じ身分の漁村で生まれた同じ年代の子供を集めた

同じ子供組に所属する人々とだけ

生まれた時から死ぬまで一緒に過ごし


身の程をわきまえて、目立たないように

保守支配層の指示通りに生きていくのが

当たり前とされた家で育ち

その世界を維持するための村の掟を刷り込まれて育った。



帝国軍が巨大化して、家柄が高貴な保守支配層の人々が

帝国貴族の軍人として出世してからは

その偉くなった軍人の指示の従って


名目上、水産加工物輸出入業者としてアジア各地の町に潜伏して

町の決定権所有者や、街を牛耳るマフィアのボスなどを探り

誰に話しを通したら要求が通るかを報告する日常を過ごす一族だった



野木希典も同じ一族の人々と同じように

義務教育を終えた後、そういった裏駆け引きの世界にいたが


”各地を放浪する生活なんて厭だ。

 偉大な軍人になって国のために戦う”


と宣言して軍人になった


漁村の世界では身体能力が、ずば抜けていて

体が大きく強い子供だった野木も

軍人の中に混ざると鍛錬の足りない子供


連帯責任だと言われては殴られ

上官に対する態度がなってないと言っては殴られ

気合いが足りないと言われては直属の上官に殴られる毎日だった。


"国の為に死ぬのが美しい" "欲しがりません勝つ迄は"


と有能な怠け者の上官が、無能な働き者の部下に掛け声をかけ

その掛け声に踊らされて、無能な働き者が素直に戦死していくのを見て


 自分も有能な怠け者に早くなって、無能な働き者を使い捨てる側になろう

 いや、そうならないと生きて故郷に帰れない


そんな事を想い浮かべる日常を過ごしていた。





そんな、ある朝、目がさめると起床ラッパの音が聞こえない。

タコ部屋のような営所の寝床にいたはずが、固い道路の上。

ふとまわりを見てみると見慣れない建物が、目に入ってくる。

木でできていない建物、敵国語で書かれた看板、

時間が早朝なのはわかるが全く見た事も無いような建物が並ぶ、

寝てる間に内緒で連行されたのかと勘違いした野木は


”ここは、ここにいる人間と同じ恰好をしておかねば、

敵国だとしたら怪しまれてしまう

幸いここは外見上は同じ人種しかいないようだ”


自転車にのって通りかかった人間をぶん殴って気絶させ、

着ている服をはぎ取って通りかかる人と同じ恰好をする野木。

しばらく、そこらを歩き回り、ここはどこなのだろう。

と疑問だけが頭の中で鳴り響く。



通りすがる人々の言ってる言葉を聞くと母国語に似ているが、

よくわからない言葉が混ざっている。

うかつに話かけてはいけないと、そこらへんに落ちていた新聞を広げる


1973年9月15日と書いてある。

その時、軍人さんは気づいた、ここは30年が経過した同じ場所なのだと



歩いていると故郷の漁村にあったのと同じような建物が目につく

漁業協同組合と書かれた看板がついている建物だ

一番、入口近くにいる人に話しかける野木


「自分は軍人であります。

 帝国陸軍の歩兵第46連隊に所属しております


 上官からは南方への転出予定と聞いておりますが

 現在、歩兵第46連隊が駐在する場所をお教え願います」


何を言っているんだ? このガキは? と顔に丸出しにするオバサン


「帝国陸軍? 28年前に戦争に負けて無くなったよ

 そういえば爺さんが言ってたなあ


 昔は、ここらへんに、そんな連隊があって

 その分隊だかの歩兵第145連隊とかいうのが

 南洋の兵団に配属されて全滅したってね


 とにかく1973年の、この現代には存在しないよ

 帝国陸軍も、歩兵第46連隊も、今は無いから


 馬鹿なサバイバル・ゲームだかの冗談で

 遊んでるのかい? いい御身分だねえ


 ちょっと忙しいんだから、どっか行ってくれないかい」


冷たく、あしらわれる。

祖国が負けたという事実は衝撃的だったが

何が、なんだか、わからないので一言言う


「いや、ここらへんに図書館とか歴史博物館とかありますか?」


「図書館なら、ここを出て真っすぐいったすぐそこですよ

 市内地図をあげるので」


とぼとぼと図書館へと向かう

おかしなコスプレをした変なガキという眼で通りすがる人々が見てくる

道路が土ではなくて、全てコンクリートで固められ

見た事が無い形態の車が大量に、その道路を走り

建物は木造ではなくて、やけに四角っぽく木以外の建材で建てられている。


戦争で負けて外国文化が入ってきたからなのだろうか街中は外国語だらけ


静かな図書館で過去30年に起こった事を調べる

まずは、自分が所属していた師団について


-----------------------------------------------------------------------------------

第46師団 (帝国陸軍師団)


1943年10月に南方への転出が命ぜられ、

所属の歩兵第123連隊がジワ島東部の小スダ列島スバワ島に上陸、

二ヶ月後には歩兵第147連隊がスバワ島に上陸した。


残りの歩兵第145連隊は、輸送船の関係で進出することができず、

1944年6月、黄島の笠原兵団に配属され硫黄島の戦いに参戦し全滅した。


師団主力は、1945年4月、スバワ島からマレ半島警備に転用されたが、

大きな戦闘を交えることもなく終戦を迎えた。


-----------------------------------------------------------------------------------


部隊にいた人々の内、スバワ島に行かされマレ半島警備に転用された人々は

生き残りがいるというような記述、とはいえ終戦から28年が経過しているのだから

今さら、同じ部隊にいた人を探すのも無理だし

そもそも、同じ部隊で親密に関わった人が戦死していなくて

ここにいたとしても、この人間が増えた世界で探すのは無理だろう


という事は地元の漁師町に帰って、昔ながらの漁村生活そのままに

漁業協同組合に所属する漁師か仲買人として働く親族を探して

自分が時代を超えてきた人間な事を証明して相手にしてもらうしかない


まずは地元に戻るための金をどうするか、どうやって移動するか


移動手段は鉄道が走っているので、それを利用すればいいようだ

運賃を見て驚いた。30年前なら家が買える値段だ。

どうやって、こんな金を手に入れればいいんだと想ったが


あれこれと調べていく内、1アドル 4本円だった30年前と違い

現在は、1アドル 360本円らしい、少なくとも貨幣価値が90分の1


通りすがりに見かけた米の値段が眼に入ったが

物価は1000倍以上になったようだ


 何をして働いて金を手に入れればいい?

 物価と同じように労働者に払われる賃金も上がったんだろうから

 働けば、なんとかなるんじゃないだろうか


そんな言葉が頭に浮かぶ



図書館の人に頼みこんで、着替えを恵んでもらう

こんな軍服じゃ仕事なんか見つかるわけもないので

最初に行った漁協に行って世間話を立ち聞き


 身分制度がどうとか、もう、そんな事は、どうでもいい過去の事になって

 同じ仕事をやっている人間で競争して

 中小企業が集まった、地域密着型の同業者団体内で競争に勝ち抜いて

 生き残った会社にいれば、なんとか普通に過ごせるようだった


漁港、というか港湾地域で働く、昔は漁村だった地域密着型の同業者団体が

どんな仕組みで、昔と何か変わったかを調べてみる事にした

数日調べると、そんなに何かが変わったわけでは無かったようだった


 漁村を守るためという名目で、、村の漁師を逃がさないようにするために

 あれこれと掟を作って、掟破りを見せしめに村八分にしていたり

 漁村の掟が漁協制度になっただけで、

 漁村の上役が、漁業協同組合の幹部になっていただけで

 各地の漁港で働く密偵が水産卸商社になっただけだった


 魚の仲買人というか卸問屋の世界などは

 首都にある何百年も前から続く卸問屋だらけの町が

 問屋街として300年も400年も前と同じように

 同族会社として経営されているから

 300年前とか200年前から家と家のつきあいがある

 同族会社同志が、同じルールで経営していて

 経営者一族は、ずーっと同じ一族

 その一族が戦後、漁村を取りこみ


 首都では戦後、戦勝国と交渉して総合卸商社になった数社が

 巨大財閥を築いているという事だった


そんな仲介卸世界の歴史を図書館で眼にした


潜り込んで小銭を稼ぐのは、この卸問屋世界での丁稚奉公が正解なようだ


というか、丁稚とか番頭、職人と親方といった常識自体も無くなり

戦勝国から別の商習慣が入り込んで、それが当たり前になったらしい


どんな常識に変わったのかは、よく、わからないが


市内の海で漁をしている漁師を言いくるめて魚を安く買って

魚料理などを出す店などに高く売れば儲かるという魚の仲買人の世界は

30年前や40年前と同じようだったので

働かせてくださいと、お願いして、その漁港で働く事になった。




2.台風シーズン


子供の頃、昔から秋になると農村は豊作祈願祭、漁村は大漁祈願祭をしていたが

この1973年では、祭りとかは無くなっているのかと想っていたが


1515年から続く神社の秋の例大祭が地域をあげての祭りとして開催され、

漁村の漁師、いや漁業協同組合に所属する組合員の人々も協力する事になっていた


その組合員になっている仲買問屋で雑用というか

見習い仕事をしているヨソ者の自分ですら


 若くて体力がある君たち力作業をやってくれたまえ

 そして地元の祭りを通しての地域づきあいというものを理解するのだ


というような、掛け声の下、祭り準備に関するアレやコレやをやる事になった


とはいえ、台風が襲来する季節

初回の集まりの予定だった日に台風が上陸して祭り準備の打ち合わせは中止になった

漁港で働く人々が台風対策をしないといけないほどの台風、という予報だったからだ


漁港で働く人々が、クチグチに金をかけて新しくしないと危険なんじゃないか

と同じ事を語るほど、昔々に整備して放置され、海風に晒され

ボロボロに錆びてしまった漁師小屋のような施設もあるが漁協は言う


 そんなものを修繕するような金はウチには無いから

 壊れて、どうにもならなくなったら、しょうがないから修繕補修するが

 それまでは他を優先するので、そういった施設は各自で対策して下さい


なので毎回、台風が直撃するたびに一時しのぎな台風対策をして

どうにもならなくなるほどに壊れないで大丈夫な事を内輪で祈る

という馬鹿げた作業が必要になっていた

その力作業に下っ端のガキな自分のようなのが駆り出されていた。



若い労働者な人々は大都市で大企業本社で働く高所得者となる事を目指して出ていくので

残っているのは、主に昔ながらの漁業や農業従事者一族や

先祖代々の家業がある商店、卸問屋の一族だけらしい


100年ほど前に生まれた爺様のように、村の掟を何より大事にして

同じ漁村に生まれた同じ年代の人々と子供組を作ってから死ぬまで

同じ漁村で過ごしたのと同じような世界はあるようだ


 人間は一人では生きていけないものなあ。


などと、しみじみ思う。


いや実際には、村の都合だけを考える村の上役に


 下っ端漁師な御前等、お上から依頼された事を

 いかに言われた通りにできるかだけが大事なのだ


 と子供の頃に刷り込まれた事に従って生きるだけで終わる人生


そういった一生を過ごす事に誰も疑問すら持たず

それ以外に生きていけないと宗教のように信じている人々が

多数派で、疑問を持って何か言ったら

村八分にされて村から叩き出されるというのは同じなようだった


 漁師の子は漁師、仲買人の子は仲買人と

 40年くらい前の港湾労働者の世界と同じように全ては世襲制


それらの港湾労働者と呼ばれた人々が

大々的に差別されるような事を言われて

身の程を思い知らされる異常な生贄を捧げる儀式めいた事は

さすがに無くなっていたが、社会階層ピラミッドは同じだった



地引網などを仕舞っておくための海辺の漁師小屋も

1950年代に作られた時のまま

錆止めには余ったコールタールが塗られているだけで

潮風にさらされて、留め具などは錆びてボロボロ、


台風のたびに今度こそは屋根が吹き飛んでしまうんじゃないか

と語られるくらいにガタガタなのだが


毎回、屋根に重しの石を置いて、屋根や扉の一時しのぎ補強をして

いつかは壊れて無くなってしまうだろうが、今は、これでいいのだ

こんな漁師小屋の修繕に使う金は無いし、もったいない


と漁協の偉い人は言っていた


食品会社の決定権所有者を招いて

毎週、週末に使われる交際接待費は、もったいなくないが

こういう事に金を使うのは、もったいないようだ


まあ、ヨソ者で下っ端な自分が何を言っても

何が変わるワケでも無い


まわりで同じように安い補強材を使っての台風準備をしている

同じ年代の人々も、同じような心境なのだろう

というか、そういった事にすら無関心なのかもしれない。



漁業で長老格に指示された親方風の人間が

漁村の漁師が港湾労働者になりましたという感覚を作り上げて

その感覚に嵌る事を勧めて煽る


”俺たち、しょせんは港湾労働者、漁村の漁師”


 ガラの悪い非常識な礼儀知らずだから、なんだってんだ

 どうせ舟に乗って漁に出ている同じ漁村の漁師としか関わらねえ


 なにより大事なのはヨソ者の漁師や仲買人に

 なめられたり足元を見られるような事が無い事だ”


そんな1930年代に戦場となった後、無法地帯だった地で

色んな国の裏組織が暴力で支配して

資金源のために抗争を繰り広げていた街にいた

ガラの悪い人々の感覚に近い感覚を広めていた


数年に一遍、本当に犯罪者が発生して刑務所行きになるが

それまでは、暴力支配の裏組織のような感覚をエスカレートさせたら

同業者団体が、とてもスムーズに回ったらしい


それいらい、あーゆー長老格が同じような掛け声で

若い者の過激な競争というか内輪もめを煽るのが

当たり前になったという事だった。


なので酒の席で語られる武勇伝というヤツも


 海を越えた無法都市な港町を暴力と恐怖政治で仕切っている

 地元マフィアのボスとの裏交渉話や

 恐怖政治を維持するための見せしめ虐殺実行犯が

 どれだけ残虐のかぎりを見せびらかして

 自分たちの強さを誇示しているかの話


 とかを語っていた1930年代の海賊なのか漁師なのか

 わからないくらいに無法暴力組織になっていた人々が語っていた


 強い俺様が見せしめに弱いヨソ者を締め上げて黙らせた話


 と同じような無法者の暴力自慢話


1930年頃のように、密輸入や人身売買が、はびこり

マフィアや麻薬や売春宿やタコ部屋も

呼び名が変わっていただけで


博打で借金を抱えさせて重労働底辺労働者に嵌めこむ世界すら


形式を少し変えただけで存在していた


 暴力組織のボスになりたがっているチンピラと

 ボスになりそうな強いチンピラに金目当てで群がる売春婦

 その二種類の人々が、力強い獣性(にんげんせい)で生きている街


というものが成立していた。


漁協の組合員や、その関連会社の人間といっても

”ギリギリ合法な資金源になる事”をする世界に

引きづり込む罠を仕掛ける無法者というのが消えたワケではなく



毎週水曜には、金になるなら、なんでもいい

という感覚の人間は探せばいると考える人々が

30年くらい前、現地マフィアと、ズブズブの関係だった

商人や軍人のような事をするために

口が堅そうな使えそうなのを選ぶために酒の席を設け

二次会や三次会と進む内に、仲間にするかどうかを選別していた



そんな酒の席で居合わせた

表向きは水産会社という事にしている

裏社会組織の子会社で働く人と二次会に行ってみた


会社について語っている内容を聞くと、どう考えても

上納金を親会社という事にしている上部組織に渡しているだけの

裏社会組織の子会社なのに本人は自覚していないようだった

たぶん、全てを仕切って社長だけが裏社会組織の人間なのだろう


1930年代のマフィアが仕切る町でも良くあった事だ


 町長や町の幹部が全員マフィアの一員で

 一般の住民は誰もマフィアが資金源のために住人を使うのが当たり前

 マフィア経営企業の企業城下町な事に住民は誰も気づかない

 気づいて文句を言ったら、その住民と家族は謎の行方不明

 そのたびに神隠しとか神罰だとか適当な迷信をデッチあげるという世界


今、想えば、とんでもない堂々巡りを無理やり作り上げて

邪魔者は消すという世界だったのだが

実際の所、この漁港の港湾都市も同じようなものなのだろう


 ただ、どんな資金源を継続するために、どんな迷信があって

 見せしめに行方不明になってしまう内輪の刑法が、よく、わからない


わかっていても関わるのは危険なのだが

戸籍も無ければ、学歴も無い。職務経歴も経験年数も無い

無い無いづくしの自分が働いて稼げるのは

そういった裏社会に近い普通の人が敬遠する世界しか無いようだ。





3.視えて聴こえる女



ある夜、一晩中、酒の席につきあわされて店から店へ行く途中

帝国の軍服を着た人間が道端で物乞いをしているのが見えた

よく見てみると28年が経過して高齢になっていて

右手と左足が無くなっていて、ガリガリにやせ細っていたが

軍にいた時、何度も殴られた直属の上官だった


「かわいそうに、お国のために戦った末路がアレじゃあな」


一緒にいた誰かが憐れんで言う


軍にいた時の愚行や暴言を見ていた自分には自業自得に見えたが

もし自分も、あのまま、どこかの激戦地へ歩兵として送られていたら

ああ、なっていたのかもしれないという考えが脳裏に浮かび

かける言葉も浮かばず。他人のフリをして通り過ぎた


とはいえ、何を今さら話しかければいいのかすら言葉も浮かばず

本人も遥か昔に軍で偉かった時に殴っていた下っ端の兵隊の事など

覚えてすらいないのだろう。眼があったが何も言ってはこなかった。


というより、眼も悪くなったか何かで見えていないのだろうか

虚ろに空を眺めるような表情で焦点があっていないようにすら見えたが

通りすがりに元上官殿が何かを絞り出すような声で呟くのが聞こえた


「貴様等にだけは二度と会いたくなかった」


帝国陸軍が無くなったのに

軍で偉かった時と同じ態度を周囲の人間にとって

見捨てられて誰にも相手にされなくなったのだろうか?


毎日、死ぬまで、ここで物乞いをするのかもしれない

酔いが覚め、二度とこの道を通るのをやめようとすら思えたが

後日、再び怖いもの見たさに


とういか、10代後半、20代の全てを帝国陸軍で過ごして

あの当時31歳だったから、たぶん61歳

あの時からの30年、いや終戦からの28年

どんな人生を過ごしてきたのか聞いてみたくなって行ってみたが

いなかった。どこか他の所へと移動したようだった。


たぶん偶然にしろ二度と会う事は無いのだろう。




そんな夜から数日が経過して

また、元上官がいた歓楽街の裏路地へと行ってみると

そこには一人の女が佇んでいた。その女に話しかけてみようとすると

女の方から話しかけて来た


「ひょっとして? 貴方も視えるの?

 ここで死んだ帝国軍人の彷徨える魂」


何を言っているんだ? この女とは想ったが

綺麗な色気のある何か引きつけられるような空気を纏っていたので

相手にされたくなって、想わず上辺だけ口裏をあわせる


「ああ、視えるよ。帝国陸軍の軍曹階級章つきの軍服を着た

 右手と左足を無くした軍人が」



「寡話い僧尼、早く誰か成仏させたあげればいいのにね

 とはいっても、何か余程の未練か遺恨が残っているからか


 昔、歩兵第46連隊の駐留場所だかだった

 あの場所から離れられなくなったのよね


 まあ、地縛霊になろうが私には関係ないけど」



「ある場所に囚われて動けなくなって永遠に彷徨える魂・・哀しい話だ」



「視えているのが相手にわかると、アレコレ話しかけてきて、うるさいよねー


 って、当たり前か、ほとんどの人は、コイツラが何かを言っても何も聴こえてないし

 何か淀んだ変な空気で変な匂いがするって感じる程度だろうから


 たまに自分の言っている事が聴こえる人間がいたら

 やたら、めったら、アレコレ語ってしまうものだのかもねー」



実際には何も視えていないのに同じ場所の方を向いて話しを合わせる



「この魂とかは祓っても金にならないし

 悪霊化していないから放置しているけど

 悪霊化して、それに誰もが気づくくらいになったら

 依頼がくるかもしれないなー


 まあ、こういったのとかを祓う仕事をしているワケ


 ひょっとして貴方、”時空を超える魂”を持っている人?

 なら、祓うのを手伝ってくれない?


 この時代にいる間だけでいいから」



「え?・・・・なんで? わかる?」



30年という時空を超えた事を言い当てられ驚く野木



「まだ次の時空へと(うつ)ろうまで時間があるんでしょ?

 あ、初めて時空を超えて偶然、漂着したのが、この時空?

 なら、いいじゃない。どうせ、この時代に知り合いなんていないでしょ?」



「次の時空って、じゃあ、いつか、また違う時代に飛ばされるって事なのか?」



「それは、そうでしょ。自分で時空を超える力を操れなけりゃ

 ま、一回とぶのも、二回とぶのも変わらないから

 そうだ。私がやっている祓い屋の場所も教えとくから

 もし、また時空を超えて、私が生きている時空だったら訪ねてきてねー


 そうだ、もし時空の超え方を自分で操れるようになったら・・・」



「え? 操れるのか?」



「いや、私が、”時空を超える魂”じゃないから

 知らないけど、昔、”時空を超える魂”を持つ人が仲間にいて


 死霊で悪霊になって呪いの言霊を発射するだけになってた霊が

 悪霊化する原因を過去に行って消してくれたり


 魂が肉体から離れて彷徨える浮遊霊のような生霊になった人が

 彷徨いだした時空まで戻って、魂が肉体から離れて彷徨いだすのを止めたり


 とかをしてくれたから、もし貴方にも出来たら

 仲間になって欲しいなーと想ったんだけどねー


 ためしに、その人が、この時空にいた時の

 訓練記録みたいな日記があるから読んでみる?


 もしかしたら、”時空を超える魂”を自分操れるようになる

 ヒントが書いてあるかもしれないし


 もし最初にいた時空に戻りたいなら戻ってくれてもいいし」



あの世界へ? 暴力や武力で戦って勝つために強くなる事だけを追及して

自分の考えた通りにするための呪術を上達させる事を追及していた

ある意味、原始的で単純な世界へ? 戻る? 今さら戻っても・・


とはいえ、こんな、チンピラと売春婦しかいない街に長期滞在ってのもなあ・・


アレコレと色んな言葉が脳内で爆発して、真っ白になった脳裏をよぎる。



「とりあえず。今日、暇なら、ちょっとした小銭稼ぎしない?」


「小銭稼ぎって?」


「一緒にやってくれれば、いいだけだから、簡単かんたーん」


「そう? 簡単なのか、なら、いいかな」


そして、”簡単な作業”というのは3時間ほどで終わった



「依頼主が気に入った使える若い者に憑いている

 呪いの言霊を呟いて霊障を与えるようになりそうな生霊を剥がして


 気にくわない使えなくなったオッサンに

 その生霊を憑かせるだけの簡単な作業だったでしょ?


 たった、あんな単純作業をするだけで

 作業者に一ヶ月は暮らせる金が手に入るんだから


 いい仕事だなあー、だよねー」



「ってか、キツイっていうか、気持ち悪くならないのか?」


「え? 何が?」


「あの生霊のドス黒く薄汚く淀んだ感じとか」


「いやー、慣れ慣れ、それに視える力を貸した間だけでしょ

 はっきり自分の視界で視たのって

 作業が終わったら二度と見る事なんて無いんだから」


「ん、それに力任せに引っぺがして押しつけるために

 一瞬、触らないとならかった時の感触とか」


「んなもん、終わった後に手を浄化すりゃいいんだから

 気にしない、気にしなーい」



そんなワケで、しばらく小遣い稼ぎをする事になった。

漁協をやめ、数ヶ月、小銭稼ぎをしながら

”時空を超えられる魂”を持っていた人の記録で勉強し

時空の超え方を自分で操る練習をしてみる事になった


とりあえず、10年後に祓い屋が、どうなっているかを見て欲しいという事で

10年後の時空に魂と肉体が両方、着地できるかどうかを実験的にしてみる事にした


記録に書かれた通りにしてみると今まで目前にあった景色が消え

間違い探し程度に変わった同じ港湾都市が視界に入った


また、捨ててある新聞を見て年月をみてみる

日付には1983年9月15日と書いてある

ここは以前いた時空から10年が経過した世界な事を確認して

祓い屋が、どうなっているかを見にいった。


「いやー、あの時に跳んだ時と同じ外見、同じ服で来たねー」


女が、変わらぬ口調で店の外で待ち構えて話しかけてくる

店の外観も間違い探し程度にしか変わっていない。

潮風で錆びた部分が変色しているくらいだ。


「じゃ、俺、戻るんで」


「いやいや、少しは未来に何が起きるか聞いていきたいとか思わないの?」


「聞くと、面倒事というか、未来が変わるから良くないとか言わねーの?」


「いや、だって、そんな未来の歴史が変わるような事が

 この港湾都市の、しょうもない住民しかいない世界であるワケじゃないし

 やってる事だって、できても、できなくても、やっても、やらなくても

 いーよーな事しか、やってない人間しかいないんだから

 いーんだよ、別に未来を多少は知って、アレコレと予防してもさ


 たとえば、だよ


 最初、遭った時に視た帝国陸軍の軍曹の霊体がさ

 死霊じゃなくて生霊だったから、軍曹本体が死ぬのと同時に

 無事、成仏して、あの場所から消滅したから


 あの場所近辺に住んでいた人で

 気合いだの根性だの連帯責任だのって

 帝国陸軍人語が、いつのまにかペラペラになる人が何故か発生して

 そんな人々が家庭内暴力での女子供虐待とか

 その影響を受けた子供の校内暴力とかが減ったらしい


 てな事を知ったからって、何が、どうなるワケでもないよね」


などなどと言いくるめられ小一時間ほどアレやコレやを聞かされた。


この地域限定のローカル・ニュース


せこい町工場から世界的グローバル大企業になった会社の話とか

逆に時代遅れになって衰退して株式上場企業だったのが倒産した会社とか

それらの会社の株価が、1983年までに、どんな変動をしたかとか

おもわず、口をはさむ


「ん? 何か? ひょっとして・・・

 その情報を10年前の御前に伝えて

 株取り引きで金儲けしろって事か?」


「そーだよ、だって、こーんな祓い屋なんかを一生できるワケじゃないよ


 たぶん、今に霊魂とか誰も信じなくなって

 インチキ詐欺師とか言われるようになるだろうから


 今は一族に一人くらい誰か視えて聴こえる人がいるから

 祓い屋の依頼があるし金が入ってくるけどね


 自分が視えないモノや自分が聴こえない声は

 誰でも信じられないし、この世に存在するなんて想わないもんだろうから」


「まあ、今回の昔の自分への伝言は、そういった事でいいんだね」


「そ、だって一応ここって会社なんだしさ、探偵事務所って名目の

 車はガソリンで動くのです。じゃないけど会社は金で動くんだから」


「そんな俗物な事ばっか言っていると

 視えなくなって聴こえなくなるかもしれないよ」


「それなら、それでいいよ。いつ視えて聴こえる事が原因で

 霊障の直撃をくらって、親戚の祓い屋みたいに再起不能になるか

 わからないから早く一生、遊んで暮らせる金を作って引退したいんだから」


「え? 再起不能?」


「あー、気にしなくていいから

 そうそう一応、このブラックリストも10年前の私に渡して

 同じくらいのレベルな同業の人が再起不能になった案件一覧だから

 ここらへんから依頼が来ても無理だから関わるなって」


「ん・・・・わかった。じゃ10年後に」


「10年後に」


最初の自分でワザと時空を跳んで、元の時空に戻るという行為は

記録にあったコツの通りにしたら無事に終わった。




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