四次元の部屋 - 英雄と天狗 -
その部屋は四次元空間を彷徨う
三次元の世界にいる人々からは見えない部屋だった
そして部屋には男が独りで住んでいる
たまに部屋に迷い込む人々がいるのだが
その日、迷い込んだのは一人の男だった
「ここは、どこだ? と思うだろう?
その疑問に答えよう
ここは四次元の部屋
三次元と同じように縦、横、高さ、があるが
それ以外に、もう一つの要素で構成されている
それは何か? それは、ここにいる人間の思念、情念だ
だから、誰かが、どこかへ行きたいと思えば、そこへ移動する
誰それのいる所を見たいと思えば、そこへと移動する。
ただし、三次元にいる人間との会話は不可能だ
こちらから何かを言っても相手には聞こえない
三次元にある物体を持ってきたりするのは可能だ
例えば、食べ物が欲しいから、今、自分が食べたい物が
ある場所を考えたとする」
男が語ると、とある高級料理店の厨房が部屋の窓の外に出現
男は窓から手を伸ばし完成して後は客に出すだけの皿をとり
「ここの料理は絶品なんだよね」
と言いながら食べて空の皿を皿洗いの人の前へと返した
「で、君は? どこに行って何をしたい」
そう聞かれ、しばらく考えて男は言う
「古い空想上の生き物、伝説として言い伝えられる生き物になりに
迷信深い人々がいる昔話の世界な山村に行きたい」
そう新しく部屋に来た男が言うと、時空を移動して到着
迷信深い山村の村人を騙して
山の神として御供え物を持って来させて過ごしていたが
食っちゃ寝なダラダラ生活に飽きて、当時の都を見物するようになった
御家柄とか地位と名誉で一生を中世貴族な公家社会で暮らしている人々の
御家柄を維持するための陰謀や権力争い、延々と続く内輪もめ
それにも飽きて再び農村へ
住民の事なんか考えずに自分の利益しか考えていない領主による
不満を抱えさせないための住民教育というか村の掟を繰り返し
語っているのを見学
・身の程を弁えて、親と同じように農村の農民として生きる事が素晴らしい
・不平不満は言わずに黙って農民として野良作業をする人生は美しい
・よそ者の物売りがやっているような口先だけで商売したり
仲介料を取ったりするような事は農民な自分達には出来ないから
やらない方がマシだし、やろうとすらしないのが正解
・先祖伝来の田畑を耕すのに邪魔な酒や博打は御法度
・同じ農村で同じ農民として生きる仲間とだけ関わり
同じ子供組に在籍する同年代の人間との人づきあいを大事に生きるのだ
というような農村社会を統治するのに便利な村の掟を作り
農村を仕切る村長や庄屋や村の上役
農村社会ピラミッドの上にいる人々が
下を嘲笑って差別する側として生まれた事を誇る日常を見る内
新しくきた男は前からいる男に言う
「なんだかなあー、農民を奴隷くらいにしか考えていない
傲慢なコイツラ、なんか気にくわないなー
昔噺で鬼とか妖怪とか伝えられた物体の真似でもして
痛い目に合わせてみたいんだけど、それってルール違反?」
もう一人が応える
「ルール違反じゃないけど、
僕は、この時代に干渉したくないから
君が独りで妖怪や鬼のような現象を起こすのを鑑賞させてもらうよ
でもね、この時代には、この時代の絶対的に否定される常識や感覚と
絶対的に肯定される常識や感覚があるんだからね
それが気にくわないと言っても、
その常識や感覚で世の中が回っているのを壊せばいいってもんじゃないかもよ
少なくとも、僕は時代の常識を破壊しようとは思わないから、やろうとは思わない。
さて到着したよ。で? どうやる? 説明したように相手から我等は見えない
特定の条件に該当した時
”伝説として言い伝えられるような姿形に見える”
というルールでも追加するかい?」
「そうだなあ、じゃあ相手から何かを奪い去る瞬間に
相手が祖先から一番怖い生き物として最初に聞いた姿
言った言葉が、そこの国の言葉で言った事が聴こえる
という事にでもしようか?
そんなルールでも可能なのか? 結構な無茶だけど」
「うん、大丈夫、何も無茶苦茶でもない
相手が一番、恐怖を感じる姿に見えて
一番、怖く感じる脅しの呪文を言っているように聴こえ
出現した地域で永遠に語り継がれるような残像を
何かを奪い去る時に残すというルールだね? いいんじゃないの?」
そして最初に色んな物を奪って過ごした昔話の世界な山村では
天狗伝説が作り上げられた
「君の望んだ通りに伝説の存在を人々の心に作り上げられた
で? どうする? そろそろ、この時代のこの地域から
引き揚げて他の時代の他の地域に行って同じ事をする?」
「いや、もうちょっと、この時代の各地で
空想上の生き物として生きてみたい」
「そう? まあ いいけど」
しばらくの間、色んな所で色んな物を奪って過ごしていると
都みやこにいる偉い人の耳にも存在が伝わり
その天狗を退治するための武家集団が結成された
自分が武家集団を結成し率いて退治して見せます
と偉大な武家の御家柄な一人が言い出した瞬間
結成許可した貴族が出る瞬間
武家集団が退治のために訓練をする瞬間
そして武家集団の中で力関係や立場が固まった瞬間
それらを部屋の二人は見て聞いていた
「面白いね。最初、こいつら何をするために集まったんだっけ?」
「世のため、人のため、伝説の化け物を退治するため。だろ」
「延々と退治した後、誰が一番いい想いをできるか
誰が一番、権力を手にできるかを争ってね?」
「どう見ても、そうだね、人が二人以上集まると
内輪もめを始めるものだというけれど」
どういう作戦で仕掛けるかも直接、見学できたのだから
退治部隊は全く退治ができず。
失敗した事を認めて結成許可をしてくれた貴族に詫びを入れるか
誰かを空想上の生き物という事で退治した事にして
その首なりなんなりを見せて自分たちの存在価値を示すか
どちらかの選択を迫られた時、武家集団の中で偉くなった男が言う
「ここらへんの山村で一番、化け物に近い外見の者を探せ
見つけたら殺してクビを持ってこい
クビから下は、どの人間も同じようなものだからの」
それを見て部屋の男の一人が言う
「あーあ、どうするんだろうな。
この世界で醜い化け物と判断される外見の人間を探して
数人で殴って腫れた顔にでもして、そのクビでも持ってくるのか?」
各地に行った武家は、その男の予想通りに行動した
ただ、その武家集団の中で怖く醜い化け者とされて
人々に伝わっていたのは命令を下した偉い男の顔だった
全員が同じように偉い男のような顔の人を撲殺しクビを持ってきた
その中から、一番怖く醜い顔のクビを
武家集団の中で偉くなった男が退治した化け物として選び
偉い貴族に報告して、悪い化け物を退治した英雄となった
だが、部屋の二人組みは、この時代から引き揚げず
当然、どこかの村から化け物出現報告が伝えられ
また武家集団が出動されて、悪い化け物を退治した事にして
その武家集団で一番偉い人間の親族に似た人間が退治されていった
「ひょっとして? 俺らって歴史? 変えてね?」
「いや、変えてない。」
「でもさ、退治されてるのって?
あの武家集団で一番偉くなったのの遠縁の親族じゃね?
御家柄とか家と家の、つきあいの世界とかが嫌になって
俺らが出没している山村とかで仙人生活してた
あの頭領の親戚ばかりだよね? 退治されてるの?
なんでだ? なんで こうなった?」
「一番、怖い者と畏怖されるのは
群れの中で一番偉い人間だからなんじゃないの?
群れの中にいる人間が
一番、この世から消したいと想う存在も」
「そうなのか?」
「そんなもんだろ」
そして、その武家集団と、その武家集団の頭領一族に似た化け物は
伝説となって、この地域に伝えられ人々の心に残っていった。
頭領本家以外の頭領一族を滅ぼしながら