戦場居住者
とある時代の、とある地域では
覇権主義という武力制圧で周辺国を屈服させる主義の下
たくさんの国が戦争をしていた
これは、そんな覇権主義国家の兵隊さんの物語
ある日、その兵隊さんは上官に呼びだされた
応接室へと行くと同じように呼び出された数人がいて
整列させられて言葉を待つこととなった
いつものように指令を話す上官の隣りには
見慣れない老兵がいた
老兵は前回の戦争で戦勝国となった時に活躍した軍人らしく
その過去の栄光と、その頃に関わった有能で勤勉な軍人の事を
讃美歌を歌うように延々と語った後
「名誉ある軍の一員としての
諸君に栄誉ある使命を授ける」
という言葉を最初の枕言葉にして語りだした
その使命の内容とは
”語学力が達者な君達に翻訳作業をして欲しい”
という事だった
挨拶が終わると学校の教科書のような教育資料を、
章毎や言語別に担当分けして我が国の現代語から
隣接する国々の言葉に翻訳する作業が始まった
資料の内容は、
・覇権国家主義や植民地獲得競争時に、
戦争中に敵国で革命を起こすように扇動して
敵国の体制を崩壊させるために活躍した人々の記録と賛美
・敵国体制崩壊のために手段を選ばずに実行した
反政府運動を扇動するための群集心理操作
・不満分子を扇動、後方支援する方法と実例
・今まで馴染んだ常識を破壊して、新常識で洗脳する方法と実例
・我々の勝利のための行動だけが全ていう思想のもと。
一切の良心を捨てるのが当たり前だ。
というような価値観が含まれた道徳観
・反政府クーデターを成功させた後、埋蔵されている地下資源などを
新体制の政府高官から安く取得できる権利を取得した実例
というような覇権主義国家の軍人ならば
理解していて当たり前な内容に
軍事訓練の予告編が組み込まれたような ”教科書”だった
”教科書”を翻訳する作業が終わり、
検閲作業や印刷後の確認を編集責任者の指示の元に実施
完成した”教科書”を”教室”へと運び、
工作員候補への受け渡し儀式と老兵の演説。
”教室”にいる工作員候補は、同じくらいの年齢で体格が見事だけれども
外見が地味で特徴が無く、この地域の、どの人種にも見えるような
各地の各人種から選抜して寄せ集めたような人々だった
共通語は全員、話せるものの、様々な言語の訛りがゴチャ混ぜ
このままだと潜伏させるにしても潜入させるにしてもバレバレ
なので、全員に訛りの無い共通語会話を教育するのが次の職務だった
・・・
覇権主義戦争は終わって数年が経過し
次の戦争が始まって戦争特需ででの好景気が発生した頃
”教室”で教育された軍人を次の戦場に送り込むための
身分照会や記録整理をする仕事をするために
元上官が管理職をする会社で働く事になった
同じような職務を担当していた数人の資料に目がとまる
その数人は同じ部隊の全員が戦死している中で
一人だけ生き残っていた。
内心、ふと思った。何故、こいつらは生き残れたんだ?
国のために軍のために生きて
戦って戦死する事が美しいという教育を受けたはずなのに
しかも、敵国の兵隊が押し寄せる中を、どうやって?
不思議に思ったものの、上司の指示通りに作業する内に
その疑問は薄れていった。
照会書類に添付された写真を見ると
覇権主義の軍で厳しく訓練されたからなのか
謀略と権力闘争の中でモミクチャにされたからか
外見は感情が無いマシンのようだった
自軍側から照会が来なかった残りの生存者は
寝返って敵国軍に入隊したものとして
全員、我が国とは二度と関わりが発生しないだろう
という事で全ての記録が闇に葬られた。
・・・・
その戦争も終わり
元上官の会社を退職してから数年が経過、
戦前に稼いだ金で親族へと依頼して
買っておいた不動産を借家にしての家賃収入と
知人と経営する小さな町工場で
農村郡部からの出稼ぎ労働者を
忙しい時期だけ期間工として雇って量産作業。
といった
アパート大家 兼 町工場オーナー生活をしている所に
今は覇権主義国策企業だった事などは
痕跡すら消えていた会社から呼び出しがかかった
そして嘱託顧問として半年だけ仕事をする事となった。
不動産は奥さんに任せ、工場経営は共同経営者に任せ
嘱託勤務に従事するために首都へと出かけていった。
”教室”で教育して特殊部隊へと
送り込んだ人の生き残りは20人を割っていた。
今回発生した資源争奪戦争での傭兵部隊に入隊させるため
今までの戦争時、軍で何をしていたのかと
戦争での従軍記録と、配属希望先の整理
といった軍需産業の兵隊派遣会社での仕事は
一年くらいで全員の配属先が決定し完了しそうな業務内容だった。
傭兵部隊志願者の内、数人に傭兵部隊の面接官が聴く
「”教室”にいた頃、20歳くらいだったはず。
もう30歳を過ぎているのに地上戦や密林でのゲリラ戦は大丈夫か?」
というような事を聞くと
今までの経験での習慣が体に染み付き。
一般社会の常識からは、遥か彼方に乖離したような
どのような非人道的な残虐非道行為だろうが
上官命令ならば一切の抵抗が無い事や
今更、戦場以外では生きられないくらいの攻撃用戦闘員であり、
敵部隊を殲滅させるための訓練で身につけた以外は何も知らない事や
今までの経験から、どんな作戦でも対応可能な事をアピール、
そして傭兵として雇ってください。と誰も口ぐちに同じような事を語る。
毎日、それらの人々の言動を書面に記録していく内に日々は過ぎ
数ヶ月で全員の配属先が確定。謝礼を受け取り、その世界から去った。
・・・・・・
覇権国家同志の、どちらが覇権を手に入れるか
という戦争が過去のものになり
マネーゲームでの経済戦争が発生するようになった頃
男の所へと、”教室”で関わった内の一人が訪れてきた
傭兵生活をした後、除隊して帰国した人間と一緒に首脳国首都へ渡り
帰還兵の内輪で経営している同業者団体で生活しているという
文字にすると、ほんの数行の頼み事を言いに来たようだった。
「ちょっとした御願いなんですが、
もし、首脳国から身分照会が来ても
軍の特殊工作部隊にいた事をやっていた事を連絡せずに
別の仕事をしていたように連絡してくれませんか?」
と頼み事をすると、口止め料を払い。去り際に一言、語る。
「もし、あなたが余計な事を報告したせいで、
あの世界に戻らなければならなくなったら、
もう一度、この国に来ると思います。
あなたと、あなたの一族を、滅亡させるために。
と、いうのは冗談ですが
首脳国の首都で成功して金と権力を手にいれた我々にとって
こんな国の町工場を寄せ集めた同業者団体を壊滅状態にするのも
地方自治体の不動産や家賃相場を暴落させて
あなたや回りの人間が長年馴染んだ世界を破壊し
一族ごと敗戦国の破壊された都市生活に戻すのなんか
簡単な事ですからね。」
と、脅迫するように語るので
「今、あの軍需産業会社は時代遅れとなって
斜陽産業になっているから
そこに所属していた兵隊に関しての
戦前記録なんか廃棄して無いと思う。」
そう言うと
「そうですか、では、その会社へと連絡してみます」
と語り男は去った
数年後、その会社はゴミのような株価になり
外資系会社に買収されて消えた。
・・・・・・
最初に関わった戦争の終戦から30年が経過した頃
”教室”で軍人教育をした内の1人が再び訪れてきた
「経済戦争の代理戦争が発生した地域で、外人部隊へと入隊したいのですが、
両親は両方とも亡くなり。親戚も行方が、わからず
戦場でだけ暮らしていたために身元保証人というか遺品受取人がいない。
軍へと登録上の名前貸しだけでいいので身分証明書にサインしてくれ。」
と語った。
「もう50歳を過ぎているのに大丈夫か?」
と聞くと
「命令通りにターゲットを、この世から消すのに年齢は関係ない」
とだけ言う。
身分証明書を受け取り、謝礼金を渡してくる。
「他の人間は実行部隊からは退いて引退したみたいだが。
君も、そうせんのか?」
と言う言葉に男が言い返す
「何故、引退しないかって?
もう戦場以外に居場所なんて無いから
今では戦場以外の場所の方が地獄だ。
戦場で闘う以外の人生なんて考えられない」
そう言って男は去り、それきり生きて姿を現わす事は無かった。
数年後、その男の代理人から遺品が届けられた。
消印は紛争地帯から
開けてみると、それは訓練所にいた時の名札と、
戦前、”教室”で渡された教科書だけが入っていた。
男は望み通りに戦いの中だけに一生を生きた
それが、”教室”で ”教育”され
刷り込まれた願望だったとしても
男にとっては幸せな人生だったのだろうか?




