おいしい生活 (トリッキー・サーカス前日譚2)
「どうして、こうなった?・・・」
タキシード姿のカーンは、ドアの前で一人つぶやいた。
結婚式なんて万座の中で、さらしもんになるように思えて
嫌だから挙げないつもりだった
「カーンさん主催でパーティーをしましょう!!」
などと、たわけたことを言ってきた、おせっかいな誰かさんを
ハリセンビームでぶちのめしたのが発端だった。
奴は珍妙なパーティーの開催は、あきらめたらしいが、
今度は「せめて、お二人の記念写真を!!」などと言いだした。
「ウエディングドレスは女の子の夢なんですから・・・」
毎日しつこく言ってくるのに辟易し、
根負けしたカーンが承諾したのが先日、そして今日
撮影場所と称するドアの前でカーンは待たされているわけである
「あ、ミンファさん来ましたよ」
タキシードを着るときから ぴったり張り付いているインフィニティが言う
─────おそらくは逃亡を防ぐためだろう
─────そして向こうから来るウエディングドレス姿のミンフを指さした
どこから調達してきたのか、ベール付きの白い清楚なウエディングドレスは
正直、ほどよい緊張感なのか化粧なのか、よく似合って綺麗だと思った
そうは思ってもカーンが、そんな感情を口に出すことはないが
「さ、花婿さん、花嫁と腕を組んでくださいね♪」
楽しげにインフィニティがミンファの手をカーンの腕に絡ませた。
(ここまで来たら仕方ないか)
カーンは少し天井を見上げた後、覚悟を決めると、ドアを開けた
輝くスポットライト、そして鳴り響く結婚行進曲
「カーン君 あーんど ミンファさあーん 結婚おめでとう!!」
ずらりと並んだ知り合い全員に囲まれ、カーンは一瞬パニックにおそわれた
綺麗に飾り付けられ、パーティの準備が整った会場には
ウエディングケーキらしきものが中央にあった
どう考えてもこれは結婚式である。カーンはインフィニティの方を振り返った
相変わらずの笑顔、カーンには誰がたくらんだかわかった
おそらくはインフィニティの仕業であろう
インフィニティ達が絡んでいる時点で疑ってかかるべきだったのだ。
(はめられた・・・)
カーンはがっくりと肩を落とした。
会場を見渡すと艦内警察らしき人間が要所を押さえているのが見えた。
もはや逃亡の余地はなかった。
「はっはっはっ、この幸せものめっ!」
ジャディンが笑顔で、からかいに来た。
「うるせぇ、この野郎っ!!」
カーンは、どこからともなく取り出したハリセンビームで
八つ当たりを込めてはり倒した
「結局バカ騒ぎしてえだけじゃねぇか・・・」
主賓のことなど忘れ騒ぎまくる周囲を見ながらカーンはため息をついた
結局あの後、リーボック神父代理による誓いの言葉やら
ケーキカットなどやらされ、記念写真も大量にとられ
後はお定まりのコースだった。
「カーンさん、怒ってます?」
隣にいたミンファがおずおずといった。
「・・・怒ってねェよ」
「結構むちゃくちゃになってますね」
「ああ」
「でも・・・」
ミンファが微笑んだ。花がほころんだような笑顔だった。
「やっぱり嬉しいです。」
「・・・そうか」
カーンはミンファの頭をふわりと撫でた。
「なら、まあ、いいか」
「はい」
周りが狂乱していけばいくほど、
二人には今までにない共有感情が湧いていった。
・・・・・・
「ったく、通る奴、見る奴、イチイチ驚きやがって」
左手に幼児を抱かえ、通路でブツブツ言っているのはアリ・カーン
目付きの悪い彼が幼児を抱かかえている姿は
誘拐犯以外の何者でも無く、どう見ても親子には見えない
「そろそろ バカが見えてくる時間だな」
そう言って通路の先を見ていると、
正面から派手な音をさせた船内車がやって来た
「わははははは」
「助けて~」
笑いながら船内車に乗って走らせているのは、暴走王ことジャディン
助手席には 無理やり つきあわされているらしき綿貫が掴まれている
アリはそれを見ると、ハリセンビームを取りだし振りかぶる。そして叫ぶ
「止まれぇえ! やぁあああっ!」
そう叫ぶとハリセンビームをジャディンの方へ伸ばした。
「わははは、そう何度も当たるものか」
ジャディンはそう言ってハンドルを動かしハリセンビームを避けると、そこに
「え?」
投げた直後に距離を詰めてきたアリがジャディンの眼前に、そして
スパァァァァァァン
新しく作ったのか二刀流ハリセンビームがジャディンの顔面へ直撃
ドンガラガッシャァァァン
派手な音をさせてジャディンは綿倉と転倒した
「ぐわ、目が、目が~」
「やっぱり避けた直後ってのは気が回れねえもんだな」
「キャキャ」
「……」
顔面を押さえて叫ぶジャディン、冷静に見ているアリ
それを見て笑う幼児、それぞれ違う行動をとっている奇妙な光景
「ジャディンさん、何を寝ているんですか?
仕事をしましょう。あ、アリさ…」
後ろからいつものように仕事をさせようと
追ってきた沖田トモが
両手にハリセンビーム、背中に幼児を抱えている
アリの姿を見て絶句して硬直した。
「いい加減に邪魔するのを止めろアリ。ってお前…」
やっとダメージが抜けて起き上がったジャディンは絶句の後、
「だあっははははは。なんだその格好は!」
爆笑した。それを見てアリは
「想像はしていたが、やっぱり笑いやがったか」
舌打ちして、そう呟いた
「な、なんだ奥さんに逃げられたのか?」
「アリさん。なんで子供をオンブしているんです?」
ジャディンは笑いながら、硬直から回復したともは普通に
そう聞いてきた
「ミンファの育児休暇が終わっったんだ
それで今日は俺が面倒を見る日だからなだけだ」
アリは子供の頭を撫でながら、不機嫌そうにそう答えた
「ミンファさんって育児休暇を取ってたんですね。
退職したのかと思ってました」
「なんでだ?」
「だってアリさん一度も育児休暇取らなかったじゃないですか?
だからてっきり、ミンファさんは退職して
ココの居住許可だけを取ったんだと思ってましたよ」
「それはな…」
説明しようとしたアリは、何か思い出した顔をすると、
いきなりジャディンに蹴りをいれる
「なにしやがる!?」
「ハリセンビームを毎回使うのも芸が無いから
蹴りをいれたんだよ」
「そうじゃねえだろ。なんで蹴られなきゃいけねえんだ!」
「手前のせいで育児休暇が取れなかった事を思い出したからだよ」
「どういう意味だ。おい!」
「育児休暇を申請しにいったんだ
そしたらなあ、ジャディンが野放しになると危険だからっって言う
ふざけた理由で取れなかったんだ!
しかも、そのことで抗議に行ったら全員揃って
その理由は当然だって言いやがって
俺の仕事は手前のお守じゃねえよ!」
「なんだとぉおっ! そんなのは俺のせいじゃねえよ!」
「ジャディンさん、アリさん、それくらいで
子供の情操教育にも良くないですよ」
アリとジャディンが言い争いをはじめようとしていると
トモは子供の事を出して仲裁しようとした
「そうか? コイツ、喜んで見ているぞ」
アリの言葉通り、子供は二人の喧嘩を笑って見ている
(この子、こんな日常で自意識を形成して育って大丈夫かな?)
トモは、そう思わずにいられなかった。
・・・・・
その日の深夜 通信室、アリがキーを叩いていた
『以上が、今回分の火星移住者に関するデータ及び報告日誌である。
なお火星移住者の集団心理サイクルについてはツール不足と言う事もあり、
次の寄港地で心理学者にデータ分析を受ける予定、そちらから心理学者の派遣を求む』
(それにしても相変わらず高く買ってくれるよ
このデータを高値で買うって事は、
上の方にとっては、まだ火星移住者市場は宝の山か
土星開拓市場があるんだから、商用ベースに移行しちまえば良いのに、
予算や世論が問題なのかねえ)
作業を終えると席を立った。その後、自分の思いつきに苦笑して、
「ま、そーゆー事を考えるのは 俺の仕事じゃないか。」
そう呟いてアリは部屋を出た。
・・・・・・
食堂にて
妙に決意に溢れた顔をしたカユマが、アリ・カーンへ近づいていった
「アリさん。プロポーズの言葉を教えてください!」
「そんなものは無えよ」
一瞬の沈黙の後、カユマがアリにしがみついた
「お願いします~。照れないで教えてください~」
「え~い、鬱陶しい。
自分の記述欄を埋めた婚姻届を渡しただけだ。
プロポーズの言葉なんて
何も思いつかなかったから言わなかった。悪いかぁ!」
ガーンという効果音が聞こえそうな表情をするカユマ
「し、信じられません。
プロポーズというのは、一生、心に残る大切な言葉じゃないですか
それを言わないで済ますなんて、アリさんは人間じゃありません!!」
「人外の趣味を持ったお前が、人間について定義するんじゃない」
ショックを受けた表情のカユマに突っ込みを入れる
「だいたい、お前がそんなもの聞いてどうするってんだ」
「そ、それはその、将来の参考に」
「だったら、他をあたれ。俺の経験が普通の人間の参考になるか」
・・・・・・
その夜、アリの私室
「…てなことが言われたんだが、
そんなにプロポーズの言葉ってのは重要なのか?」
食堂での出来事を当人であるミンファに話す
「…わかりません。
求愛、求婚の言葉は何度か聞かされましたが
心に残るような言葉を語った人は、いなかったので」
「さすがご令嬢。美辞麗句には慣れているし
生まれてから、ずっと接待される側だっただけあるな
ま、でなきゃ結婚式逃亡なんてしねえよな」
「…アリさんから美辞麗句を聞いた事はありませんが?」
「言っても良いが、感情のこもってない
形式的な言葉を並べて言ってみただけになるんだろうよ
でも、それじゃあ、心に何かが残るわけでも無いんだろ?」
それを聞いてミンファは苦笑いした後
真剣な顔になってアリに言う
「…アリさん、一つお願いがあります」
「ん、なんだ? 珍しいじゃねえか」
「いつか、自分が幸せになれというような事を言ってましたね?
その言葉をお返しするようですが・・・」
「はい?」
「…もう二度とアリさんの
” 数ヶ月間、俺は、この世に、いないのと同じだからな
俺は俺の、やりたい事だけに没頭する
やりたい事、以外の全てを頭の中から、はじきだしてでも ”
ってセリフは聞きたくありません。
自分が、貴方の心の中から追い出されたような感じがして
嫌なんです。それに、毎回、その没頭でする無茶も控えて
健康とかにも気を配ってください
無茶をする自分に酔うなんて馬鹿な真似をする事は
立派な余裕のある大人がする事じゃありません」
アリは少し驚いた顔をして含み笑い
「だったら、もっと気のきいた言葉で言ったらどうだ?」
「…これ以上の言葉は、たぶん言葉にしても
貴方が陳腐と感じる感情だと思う事でしょう
なので口にして言葉にして言いません
それに、色んな思いやりの言葉は、逆の意味にも通じるような気がして
…最近では人間の心の距離は神が決めてくれるのだと思っています」
「心の距離か なるほどな。わかった、努力はする」
そう言ってアリは寝室の電気を消した。
「いつか、この言葉にしなかった感情も理解して下さいね?
陳腐だなと笑わずに」
「そうだな、いつかな。いつとな保証できないけど
心の距離が今より、もっと縮まったらな。」
「そうですね、いつか、きっと」
そして沈黙が訪れ、二人は眠りについた。




