四次元の部屋
その部屋は四次元空間を彷徨う
三次元の世界にいる人々からは見えない部屋だった
そして部屋には男が独りで住んでいる
たまに部屋に迷い込む人々がいるのだが
その日、迷い込んだのは一組の夫婦
迷い込んできた二人に男は少しだけ説明する
「ここは、どこだ? と思うだろう?
その疑問に答えよう
ここは四次元の部屋
三次元と同じように縦、横、高さ、があるが
それ以外に、もう一つの要素で構成されている
それは何か? それは、ここにいる人間の思念、情念だ
だから、誰かが、どこかへ行きたいと思えば、そこへ移動する
誰それのいる所を見たいと思えば、そこへと移動する。
ただし、三次元にいる人間との会話は不可能だ
こちらから何かを言っても相手には聞こえない
三次元にある物体を持ってきたりするのは可能だ
例えば、食べ物が欲しいから、今、自分が食べたい物が
ある場所を考えたとする」
男が語ると、とある高級料理店の厨房が部屋の窓の外に出現
男は窓から手を伸ばし完成して後は客に出すだけの皿をとり
「ここの料理は絶品なんだよね」
と言いながら食べて空の皿を皿洗いの人の前へと返した
それを見て、男みたいな外見の男らしい奥さんの方が語る
「他人の食べ物なのに勝手に食べちゃ 駄目でしょ。」
そうだな、と夫も同意し、一般道徳を二人そろって語りだす。
「じゃあ、どうやって生きていく?
四次元空間にいるとはいえ、何も食べなければ死んでしまう
道徳観の正しさを証明するために断食して死ぬのか?
ここには、ここの道徳がある、ルールがある
ただ今の所、そこの壁に書かれているくらいの
生きるために必要最低限度のシンプルなものがあるだけだ
で? 何をどうしたい?
何かルールを追加したいなら
君等が正しいと思うルールを追加してもいい」
夫婦の語る道徳に対して男は言葉を返した。
「だれかれかまわずに他人の食べ物を盗むんじゃなくて
金持ちから少し金や物を貰えばいい
金持ちだったら少しくらい無くなっても困らない」
女みたいな外見の女らしい旦那が語る
「それをルールとして加えたいんだね? いいよ」
しばらくすると、三人だけで過ごす日常
同じ事の繰り返しな日々に夫婦は飽きてきた。
ある日、夫婦二人同時に「元いた世界に戻りたい」と思った瞬間
部屋の壁に書かれていたルールの通りに
二人の視界から四次元の部屋と男の姿は消え
長年住んでいる自宅の部屋が視界に入った
だが三次元の世界に戻ると
四次元の部屋ルールで実行した事が二人を苦しめる事となった
金持ちの保管していた札束の番号が管理されていた事や
その札束についた指紋などで二人は窃盗団一味という事にされ
戻った途端に逮捕され刑務所へと送られる事となった。
数年後、二人が出所して家へと戻ると
家には金貨や宝石が積まれ
手紙が添えてあり、こう書かれていた。
「君等が作った部屋のルールに従って
歴史上の金持ちだった人々を見てきた
富と権力を手に入れた有名人達を
そして昔の大金持ちから少しずつ宝石や金貨を貰ってきた
一緒に過ごしてくれた礼として君等にあげるよ。
考古学にハマって宝を探し当てたとでも言って
自分のやりたい事だけをやって生きて欲しい
この部屋は一回出たら、二度と戻ってこれないから
君等からは永遠に僕が見えないだろうけど
僕からは君等が見えるので
気がむいたら何をしてるのか見にくるよ
たとえば、君等が贈り物を現金にする方法がわからない時
僕の顔を思い浮かべ、どうやったら現金にできるのかな?
と言ったら、現金化する方法が書いたメッセージを
足につけた伝書鳩が突然、訪問するとかね
それにしても、この部屋にいた時に
君等が正しいと感じた道徳観で作ったルールが
その世界へと戻った時に君等を犯罪者にするとは皮肉な物だ
永遠に誰もが正しいと考える道徳観なんて無いのかもね
でも君等が部屋にいた時に正しいと感じて壁に書いたルールは
永遠に部屋の一部となって生き続ける
いつか君等が完全に部屋の事を忘れ去ってしまったとしても」