第一話、山田太郎死す。
「よう! 俺はどこにでもいる男子高校生『山田太郎』! どこにでもいる顔の、どこにでもいる髪型をした、どこにでもいる肌の色の、どこにでもいる政治思想を持った、どこにでもいる宗教概念を貫く、正真正銘のどこにでもいる男子高校生さ! ん? 今、俺が何をしているかって? そりゃもちろん、いちごジャムを塗った食パンを口に咥えて高校へ向かって走っているところさ! 入学早々遅刻なんてマジでやべーぜ!」
……と、その時。一台の居眠り運転中のトラックが山田太郎の方へと向かっていく。
トラックの速度は時速100kmぐらいだろうか? 山田太郎はイヤホンで音楽を聞いているため、まだ気づいていないようだ。
もし、このトラックが山田太郎に衝突したとすれば一溜りもないだろう。
トラックはすごいスピードで山田太郎の方へと向かっていく。
山田太郎まで、残り100m。
残り80m。
残り50m。
残り30。
残り10m。
そして、ついに……。
と、その時。山田太郎は食パンを地面に落とし、絶妙なタイミングでしゃがんだのだ。
危機一髪、居眠りトラックは山田太郎の頭上を通過して無事に国道の方へと走り去っていった。
「ん? 今、何か一瞬だけすごい風が吹いたようだけど…… ま、気のせいか!」
そして、山田太郎は高校へと向かって走っていった。