狂気 家 夜 宝物 嘘2
「狂気」 6・9・12 66
僕がここにいることができるのは
君がいるからで
君を失うと
僕はたちまち
どこかへ行っちまう
出口のない深い森の中
蒼い海の底
灰色の荒地
光のメガロポリスを見下ろす天空
ここではないどこか
夜の闇は永遠に続き
僕はずっと眠るだろう
次の日も
次の日も
そして
夢を見ることはない
いつも
夢を見ることはない
「家」 6・9・16 67
いつも冷たいナイフを突きつけられている
いつも薄い空気の中で呼吸している
目に映るものは暗く色褪せて、狭っ苦しい
僕の声は他人の声のようで・・・
ずれている
ずれている
明らかにずれている
時の流れに遅れているのか
時の流れに苛立っているのか
それすらもわからず
年をとる
存在自体が映画の1シーン
この不器用な手は
何も書くことができず
何も描くこともできず
何もつかむこともできず
涙をふくこともできない
まるっきり機能しない体
どうして生きているのだろう
どうして死ねないのだろう
僕は考え足らずで
形而上学的で
享楽家で
怠け者だからだ
ごまかし続けるペテン師なのさ
ああ
でも本当はまともになりたいのさ
いつか自分の家が見つかると夢見ている
「夜」 6・9・22 68
永遠に続く闇の中で
君は血の涙を流し続ける
小さな両手を差し伸べても
その手をつかんでくれる人はいない?
孤独と呼ぶには
あまりにも深く暗い夜
時は駆け抜けていくはずなのに
昨日も今日も明日も
そして次の日も
すべて同じ色に塗り潰されて
君は消えていく
いつの日か希望という光が
本当に
君の胸に生まれるのだろうか
君が消え去る前に
君は新しい言葉を見つけることができるだろうか
すべてのものが敵意を抱き
君すらも君を抹殺しようとする
絶望とはそういうものだ
だが君は血の流れる音を聞く
無音の闇の中
その音だけが響く
いつの日か君は気づくかもしれない
君自身が光だということを
君自身が希望だということを
君は信じられないかもしれない
君を愛する人は知っている
君は光であり希望なのだ
「宝物」 6・9・24 69
お前は自分を殺している
時を蝕み
少しずつ失い
一日を呆然と過ごす
何をやってもいいし
何もしなくていい
僕は確実に死につつある
寒いし
冷たいし
熱くて
鬱陶しい
疲れていて
不快だ
いいことなんてひとつもない
悪いこともないし
悲しいことはたくさんある
僕は狂っているし
君たちは馬鹿だ
君たちは知っているの?
世界には何もないってことを
そう
何もないんだ
ナニモ ナインダ・・・・・・
だから
僕はできる限り目を見開いて見た
耳をすませた
匂いを嗅いだ
何もないんだ
すべては錯覚、幻想
でも、お前は
美しいものを見つけるかもしれない
美しいもの
世界の成り立ち
僕は死につつある
「嘘2」 6・9・26 70
嘘をつく
テレビはすごく嘘をつく
小さな世界を全世界のように放送している
新聞も嘘をつく
訳のわからないように嘘をつく
週刊誌ももちろん嘘だらけ
薄い紙のような面白さのために嘘を書く
大企業の社長さんも嘘をつく
ときどき嘘がばれて、カメラのフラッシュの前で上手におじぎをする
一番エラい人も嘘が大好き
テレビに出るときは嘘は言わないけれど
みんなが注目していないところでは大嘘つき
だから
大人はみんな嘘つきだ
子どもも上手に嘘をつく
さわやかな笑顔で
良い子の仮面をかぶって
嘘をつく
血の涙を流しながら
手首をかみそりで切りながら
心臓をわしづかみしながら
脳が重くて沈みこそうになりながら
自分を守るために
嘘をつく