物語の始まり 回転する世界 風が止まるとき 海の見える街 神が与えたもの
「物語の始まり」 6・7・11 61
自分自身を失いつつある僕は
夏を待ち焦がれる
暴れそうな雲が僕に襲いかかる
熱線は情け容赦なく降り注ぎ
むせかえる大気の中を
僕は歩く
背中から胸から
大腿の裏側から
こめかみから
汗は流れ落ちる
僕は水を飲む
夏の青い空がある限り
新しい物語が始まる
僕は
いつまでも
少年のままだ
「回転する世界」 6・7・12 62
休もう
世界の隅っこにあるふきだまりで
眠ろう
異臭のするボロ布のベッドで
遊ぼう
落ちこぼれたうつろな眼をした奴らと
世界はぐるぐる回っている
ぐるぐるぐるぐるぐる・・・・・・
死ぬ気で走らないと
あっという間に振り落とされて
宇宙の果てまで飛んでいってしまう
青白い皮膚に落ち窪んだ瞳
シャツの襟は油まみれの汗がしみついて
屍は累々とあり
いつものようにそれらを踏み越えていく
血はすでに干上がって
大気は暗く澱んでいる
立ち止まると殺されてしまうよ
立ち止まると殺されてしまうよ
世界は狂気の叫びをあげて回っている
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる・・・・・・・
知っているくせに
知っているくせに
知っているくせに
シッテイルクセニ
シッテイルクセニ
シッテ・・・
僕はここにいる
僕はここにいるよ
僕はここにいる
「風が止まるとき」 6・7・26 63
僕の心は
生まれたときから
いつも寒々としていて
虚しい風が吹いていて
腹の底から笑った瞬間も
一生懸命怒ったときも
鼻がつーんと痛くなるほど泣いたときも
頭の中が白くぼやけたときも
いつも乾いた風が吹いている
自分自身であることは不可能だ
みんな嘘つきで
僕も嘘つきで
嘘をつかない正直者は馬鹿で
馬鹿な正直者は殺される?
ヒトの顔をした血を吸う奴らに殺される?
そう、決まっていることだよ
だけど
君は僕を怒らせる
君は僕をイライラさせる
君は僕を呆れさせる
君は僕を悲しくさせる
君は僕を傷つける
君は僕を落胆させる
そして
ときどき風が止む
僕はまだ生きている
「海の見える街」 6・7・29 64
海の見える街に住んでいると
ときどき素敵な出来事がある
まだ夏の匂いが少し残っている日曜日の午後
僕は女の子と出会う
君は麦わら帽子と水色のワンピース
白いサンダルは手に持って
砂浜を歩いていた
僕らは海を見る
元気のない波が押し寄せて
引いていく
雲は少し空と混じり
曖昧だ
ほんの少し冷たさを含んだ風が
君の前髪を通り過ぎる
君は夏の終わりを告げるために現れたの?
僕は少し不満だけど
妙に納得した
君と二人で
また夏を待つことにしよう
「神が与えたもの」 6・7・2 65
与えられたものを
むさぼり食らうと
少しずつ毒が脳を侵し
わけがわからなくなる
それは危険なもの
あなたはよだれをたらし
うつろな眼をして
笑っている
ただあてもなく歩き
彼の言いなりになり
教えられた歌を唄う
選び取ることを忘れ
ただぼんやりと聞いている
鈍い光を放つ眼は
限定された世界を眺めている
あなたは狂って死んでしまうのか
狂う前に死んでしまうのか
わからない
美しいものが覆い隠された場所では
毒に侵された脳の方が
都合がよい
おそらく
都合がよい