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学園に入るとそこはゲームの中で見た景色と全く同じだったことに私は感激する。オリヴィエとの関係性がゲームの中とは少し違うためもしかしたら変動がある可能性も否めないと考えていたが全くの杞憂だったみたいだ。

入学式の様子も一緒だった。学長の長い話が続いて、新入生代表のステファンが挨拶をする。クラスも予想通りだった。私はステファンと主人公と同じクラス。全部が同じ。隣がステファンであるということを除いて。私が知っている限り主人公がステファンの隣になるはず。…でもまぁ、運命であれば隣の席ではなくても惹かれ合うに違いない、少し違う展開だけどゲームにはない展開を楽しめていいんじゃない?!そのことに私は少し顔が綻ぶ。ふと顔を上げると隣のステファンと視線が合う。


「まさか社交界にも出ない謎の伯爵令嬢がこんなに可愛らしいとは、参ったな」

「…」


誰に言っているのだ、もしかしてー主人公?!と思い後ろを振り向く…が、そこには男子生徒達が談笑している姿しかない。


「挨拶が遅れました。ジラーノ家の一男、ステファン・ジラーノです。これからよろしくね、エリザベータ・スコロホドフ伯爵令嬢」

「何故私の名前を…?」

「貴方は1度私の婚約者候補として名前が上がったしね、それに社交界に出ていれば周りは自ずと知り合いになる。この中で知らない顔は君だけだしね」


いや、それだけの情報で私まで絞れるのか…というか、こんな所で私とお話してないで、主人公とお話するべきですよ、全く。主人公の所に行けという念を送ってみる。


「そんなに熱心に見つめられると照れるな」

「え?!いや、そういう訳ではなくて!」

「恥ずかしいんだね、そんなに真っ赤になって」


えっ、と思い両手で私は自分の頬を触る。そういえば少し熱いような…いやいや、と頭を振る。仕方の無い事だ。前世からずっと彼氏いない歴=年齢なのである。彼にとっては普段の言動かもしれないが、耐性がなさすぎる。私は防御力0なんですよ、舐めないでください!!


「そうだ、これから昼食の時間だね。よければ一緒に…」

「申し訳ございません、お嬢様は先約がありますので」

「え、オリヴィエ?!」


私の上から聞き慣れた声が降ってくる。彼は私の腕を掴み、何も言わず足を進める。力が強く、どうやら着いていくしかなさそうだ。さっきまで話していたステファンは小さくなり距離があったがとりあえず頭を下げておく。



「オリヴィエ、どこに行くんですか」

「…」


返事はない。一体何なのだ。クラスで何かあったとか?…いや、それはないだろう。彼が問題を起こすということは考えにくい。

そうこうしているうちに屋上近くの階段まできた。屋上…そんなイベントはなかった。なんなら屋上は閉鎖されているはずだ。ゲームをしている時はそんな所を現実的にするのになんの意味が?!と机をバンバン叩いていた記憶がある。屋上といえば学園モノの鉄板だというのに…

ふとオリヴィエを見ると彼は階段に座っていた。


「お嬢様、お座り下さい」

「は、はい」

「そこではなくて」


彼は自分の膝をぽんぽんと叩いた。


「え…いやいや」


いやいや、それはないだろう。


「お嬢様を床に座らせるわけにはいかないでしょう」

「それだったら教室に戻って…」

「もう皆さんお昼を食べてるでしょうから机をとられてますよ。ほら、小さい頃一緒によくこうしたでしょう」


いや、小さい頃の話であって今はお互い15歳。なんていう羞恥プレイなのだろう。


「ほら」

「わっ」


手を引かれて私は彼の元へ引き寄せられ、彼の膝の上におさまるように座らされた。


「…本当にどうしたんですか、クラスで何かありました?」

「クラスで…そうですね。お嬢様は随分とあの男と仲がよろしいようで」


彼の冷たい瞳に一瞬びくりと肩を震わせる。


「…怒ってる?」

「いいえ」


いや、絶対怒ってる!!クラスで何かあったんだ!!オリヴィエはずっと私の傍にいたし、他の同年代の人達と話す機会がないし緊張して…はないか。もしかして周りにはもうグループが出来上がっていて、とか?

ゲームを思い出してみるがオリヴィエの孤立ルートなんてなかったはずだ。一段と仲の良い友人、というのは彼にはいなかったが、別段誰かと仲が悪かったという描写もなかった。まぁゲームの描写しか知らないからその裏側というのは製作者しか分からないわけだから断言はできない。


「オリヴィエには私がいるから大丈夫ですよ」


友達ができない期間は私に任せて、という熱い視線を送る。すぐに主人公と運命的な出会いを果たして夢中になってしまうんだから安心でしょう。


「お嬢様にも私だけ、ですよね」

「そうですね」


まだ仲良い人いないし。というか、出来るのか。ゲームの中では取り巻きみたいなのがいたけど取り巻きを連れて歩くなんて性にあわない。まぁ、私は影からひっそり見守り、楽しむという目的がある。友人がいなくてもいける!


「そうです、お弁当を用意しました。お嬢様の好きな物ばかりですよ」


おや、怒ってない。なんでか知らないが良かった良かった。


「わ~、ありがとうございます!これから寮生活なんで、お弁当を食べるのはこれで当分食べられなくなってしまいますね…」

「作ってきますよ、お屋敷に帰れる距離ですし」

「いや、お屋敷まで2時間以上かかりますけど!?」


一体いつ休むのだ。学園で勉学に励み、終わったら2時間かけて家に帰りお弁当を作り、また2時間かけて寮に戻る…そんなの続くはずないだろう。


「体調を崩しては元も子もありません。もっと自分を大切にして下さい」

「好きでやろうとしています。それに私はそんなにヤワではありません」

「駄目です」

「それは命令ですか」

「うっ…」


それを言われると何も言えない。彼は私の従者であるが、命令という事を今までしたことがない。そこまで望んでいたことがなかったという事もあるが、命令をして他人を動かすという事がどうにも私にはしっくりこない。目の前にいる彼はたしかにゲームの中にいたが、今は対等な人間である。お人形さんではないのだ。


「命令ではありませんらお願いです。私はオリヴィエが体調を崩すと悲しい、分かりますね?」

「…では週に一度だけ、という約束で手を打ちます」

「まぁ、それなら…」


オリヴィエの作るものは何でも美味しいし、私も食べたいという気持ちは山々だ。しかし、体調第一。体調を崩せば何も出来ないだろう。


「本当に無理しないで下さいね」

「私がお嬢様のために無理をしている、と思ったことは1度もありませんよ。でもまぁ今日は少しだけ…疲れました」


そう言って彼は私の方へ少し体重を預けた。

急にいろんな人と接したからだろうか、そう考えると無理もない。

なんとなく彼の髪を撫でてみた。


こうして彼の傍にいるのもあとすこしだ。主人公と出会って恋に落ちるその時まで。


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