第3章 ゼロから始める共同生活-2
数日更新できなくてごめんなさい
休みだからって一日中寝てたり仕事終わりさあ書くぞって思ったら頭痛で死にそうになったりしてました
昨日から今日にかけて書き溜めてきた+これから暇な時間も作れるようなので再開していきたいと思います
ただ今回は区切り悪すぎてむっちゃ短いです
* * *
校舎脇の駐輪場にママチャリを止め、鍵を抜くと校舎の入り口側へ向かって歩き始める。
まだ少ない登校中の生徒たちの隙間を無音で通り抜け、いち早く生徒用玄関の中へ。
どうして友人とぺちゃくちゃ喋りながら歩く奴って、あんなに進むの遅いんだろうな。何のための二足歩行だよ。
その上、数人で横に並んで歩くから邪魔なことこの上ない。特に女子。
この高校は居心地の悪いことに女子の比率が多めなので、いつでもどこでものんびり横歩き集団と遭遇してしまうのだ。
横を通り過ぎようとすると舌打ちが聞こえてくる過激派集団もいるから本当に怖い。
俺は確かに廊下でも階段でもそういう奴らと出くわしながら、やっとのことで三階端の自分のクラスへ辿り着いた。
『2年F組』と書かれたプレートの下のドアを静かに開け、誰に挨拶するでもなく、誰に気付かれることもなく、無駄のない動きで壁際且つ一番後ろという自分専用のパーフェクトな特等席へ着いて、黒板横の掛け時計を見る。
現在時刻は8時過ぎ。校則によって登校時刻と規定されているのは8時25分まで、遅くてもHR開始の40分までに教室内で待機していれば遅刻とはみなされないので、のんびりしていたつもりながらまだ十分時間がある頃だ。
さて、この持て余した時間で、昨日読めなかったラノベの続きでも読み進めておこうか。
と、机の横に取り付けられたフックに学生鞄を下げ、その中からお目当てのものを取り出してページをめくり始め、数分後。
そんな俺の日課を妨げる声があった。
「おはよう、ハルくん」
「……ああ、おはよう」
いつの間にか俺の机の前に立っていたのは、唯一の友達と言っていいクラスメイトであり幼馴染み、橘京花だ。
こいつもこんな早い時間に来ているのか。
朝から話しかけられることはそうそうなかったはずだが、何故今日に限って――と彼女の席に目をやると、なるほど。いつも彼女と談笑している周囲の席の女子がまだ登校していない。
そう、友人が来ていないから、先に登校していた俺の席まで来たのだ。
つまりこれは、俺にとって京花は唯一の友達であっても、京花にとっての俺の優先順位はその女子たちより下ということを示している。なにこれ泣きそう。
「ハルくん、どうしたの? もしかして調子悪い……?」
「いや。むしろよく寝たし絶好調だよ」
「……そう? ならよかった、のかな?」
胸の前で両手の指同士を合わせながら苦笑する京花。
その表情はまだ何か言いたげだったので、はぐらかすように話題を変えることにする。
「そういえば昨日、服ありがとな」
「……えっ? あ、」
おかげでリリアの着る服はどうにかなっただとか、お前あんな感じの服着てたんだなだとかは色々問題になりそうな気がするので抑え込みつつ、ただ簡潔にお礼だけ述べたところ。
「あ……あっ……!」
京花の顔は見る見るうちに赤く染まっていき、
「わっ、私は気にしてないから! ハルくんが私の服欲しがるとか、別に何も!」
「はっ……はあ!?」
「しっ下着も別にっ!? 男の子はそういう趣味の人もいるし、ハルくんなら私だってむぐ」
「ちょっと待て声がでかい!」
話題選びをいきなり間違えたらしく、唐突に暴走し始めた京花の口を右手で塞ぎつつ立ち上がる。
確かに服をくれとは言ったけれども! 断じてお前が想像しているような目的じゃないし俺にそんな趣味はない!
ああそうだ、京花とは昔からの付き合いだったからつい見落としていたが、こいつももう多感な年頃の女の子なんだよ気付けよ俺のバカ!
落ち着け、こういうのは焦った方が負けだ。
今のようなシチュエーションでこそ俺はクールに、巧みな話術で誤解を解いてやらねばならない。
なので俺は心をなんとか落ち着かせ、京花の口を押さえたまま、周りから距離を取るように窓際に追い詰める。
「……おい京花。お前は変な誤解をしている。これには深い事情があるんだ。後で話すから、今は落ち着いてくれ」
顔を近付けて耳元で囁くように言うと、京花は、こくこく。
何故か今にも爆発しそうなくらい更に赤みを増した顔で、勢いよく頷いてくれた。
よし、当人も納得してくれたようだ。これにて一件落着――かと思いきや。
「神代、お前、橘さんとそんな仲だったのか……?」
聞き慣れない声に振り返るとそこには、野球部特有の坊主頭が眩しい2-Fキチガイ代表、山田……えっと、山田ナントカ君!
「そんな仲って何のこ、と……」
言いかけて、初めて周囲の状況が目に入った。
俺に視線を投げかけていたのは、山田だけじゃない。
山田の後ろには彼と仲良しグループを組む鈴木や谷川、ドアの近くの席からは俺を同類だと思っているのか妙に馴れ馴れしいオタクグループ、そして教室中の至るところから、いつの間にか集まっていたクラスの半分以上を占める人数の女子の視線が、俺に突き刺さる――!
時すでに遅し。
「おい待てそれはあらぬ誤解だ。いや何を指して言っているのかはわからないがお前が考えていることは恐らく誤解だ」
「何言ってんだよ意味わかんねえ。ただ神代のくせになんで橘さんと仲良さげなんだろうなって思っただけだよ神代のくせに」
「俺と京花は幼馴染みなだけだ、変な関係じゃない。あとお前喧嘩売ってんのか」
こいつ俺と仲良くもないくせにやけに冗談なのか本気なのか判断しにくい馴れ合い方してくるな。友達だと思っちゃうだろやめろ。
「あっそ。橘さん、こいつ嘘ついてない? 付き合ってるわけでもないの?」
そこ疑う余地ある? あと付き合ってるって情報はどこから出てきたの。
あまり何でも根暗ぼっちの俺が誰にでも優しい人気者の橘京花さんの彼氏扱いとか彼女が不憫すぎる。
高校球児の純粋で瞑らな瞳がその一言に祈りを込めて輝いているように見えるんだけどマジで気持ち悪いからやめてくれ。
山田が京花へ視線を移したのをいいことに、俺はこれでもかというくらいに山田を睨めつける。
漫画で読んだことがあるんだけど、視線で人って殺せないのかな。
というか早くどこか行ってくれ。このまま周りの視線が刺さり過ぎると数ターン後にはライフが尽きてしまう。
特に女子からの俺を非難しているかのような視線が辛い。辛すぎる。
お願い、死なないで神代悠久!
「あ、私、は……」
山田の気持ち悪すぎる視線に怯んだのか、京花は言い淀み、前に立つ俺の制服の袖を軽く摘んできた。
ほら、基本的に男子慣れしてない奴だから怖がってるだろ、可哀想に。
昔から京花は臆病で、何かある度に俺が庇ってきたものだ。
成長して彼女も人並みには勇敢になってきて、高校生になってからはそんな体験もほぼなくなってきたというのに、山田め、許せん。
ここはひとつ、幼い日を思い出して、俺が守ってやるべきだろう。
「山田、お前、その辺で――」
「ねえ男子。あんまりうちの京花をいじめないでくれる?」
一歩踏み出した俺の声に被せてくる、女子にしてはやや低く攻撃的な声があった。
それが聞こえたのは、山田の後ろ。志村だったら完璧だったのになあ。
「うっ……」
山田が振り返ったその先に立つのは、毎日京花と仲良さげに談笑している、……誰だっけ。名前は忘れた。
とにかく、身長は女子の平均より高めの160台半ば、態度からも声からも見てくれ以上に強大な威圧感を放つ彼女だ。
彼女はたった今登校してきたばかりらしく、肩に学生鞄を下げている。
また、彼女が教室へ入ってくるや否やギャラリーは退散していたらしく、近くにいたはずの鈴木や谷川も見て見ぬふりをして席へ着いていた。
よって、未だに俺に鋭い視線を突き刺してくる輩はいなかった。
たった一人、彼女を除いては。
「ねえ、聞いてんの? 山岡」
「ハイ、ゴメンナサイ」
追い打ちをかけるような一言に、敗者は縮こまってそそくさと立ち去っていく。あとそいつ山田。
実際に互いの武器を交わす前、威嚇の時点で相手に負けを認めさせる彼女の姿勢は、まるで百獣の王、獅子のように勇ましく、さすがの俺も賞賛したくなる。
だが、
「あんたも京花に何してくれてんの? あたし、来る時廊下から見てたよ」
彼女の攻撃態勢が解除されることはなく、ターゲットが俺に移される。
見ていた、というのは口元を押さえて窓際に追いやったことだろうが……確かに、周りから見ればまずかったかもしれない。
「いや、俺はだな」
「何。なんか文句あんの?」
怖ッ。
何この目つき。確実に何人か手にかけてるでしょ。いや怖。
有無を言わさぬ威圧をそのままに、彼女は自身より10センチほど身長の低い京花を若干見下ろして言う。
「ほら京花。そんなところにいないで出ておいで」
「う、うん」
呼ばれた京花は俺の袖から手を放し、こう見えて仲のいいらしい彼女の方へ。
出ておいでって何だよ。親子かな?
もしくはこれ騙されてて狼とかに食われるパターンでしょ。童話で何度も見たよ。
しかし、彼女はというとそのような様子もなく、むしろ京花を俺から庇うようにして振り返った。
「あんな奴ほっとこ。ね、京花」
「……えっと」
一応京花の味方ではあるらしいけれども、味方歴としては十年以上勝っているはずのこの俺を放っておいてとはどういうことか――などと勇ましい後ろ姿に文句を言いかけるが。
「神代。京花をいじめたり悲しませたりしたら、あたしがマジ許さないかんね」
先制して一瞥し、そう言い残した彼女に、俺は何も言い返すことはできなかった。
何故か。
めっちゃ怖かったから。
「京花も、あんな男のどこがいいわけ? 意味わかんない」
「でっ、でもね、さっき、ハルくんは――」
今度こそ一件落着して着席したところ、そんな会話が聞こえたような気がしたが。
キーンコーンカーンコーン――。
8時15分、登校時間終了十分前を示す予鈴に掻き消され、俺は諦めて読書に耽ることにした。
朝はいいスタートを切ったのに、学校生活としては最悪のスタートだね。
早く帰りたい。
* * *
山田
悠久のクラスメイト。
野球部。なんだかんだ友達は多い。
麗奈
悠久のクラスメイト。
京花と仲がいい。なんだかんだ友達は多い。