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第2章 薄幸のふたり-2

第2章、その2。

ちょうどいいところで区切ろうとした結果かなり短めです。

土日中に投稿量より多く書き溜めたい。

 *     *     *


 路地の狭い市街地とはいうものの、慣れてしまえばどうということはない。

 北海道の高校生の修学旅行といえば、最もメジャーな行先は関西と関東に一か所ずつといったところで、それを見越してふとGoogle先生に訊いてみたことがあるのだが、ストリートビューで見たような京都の市街地における道や隣の幅や家との間隔なんかと比べると問題を見失う。

 ついでに個人的な感想だが、この町は北海道第二の都市とは名ばかりの田舎だと思っている。

 高校生の遊び場であり大抵のものは揃う大型ショッピングモールのイオンは三か所にあり、中心部の駅前にもそこそこ人は集まるから文字通りのド田舎って感じではないが……。

 駅を北口から出て進めば日本初の歩行者天国が続いているというのに、駅から離れれば離れるほど二度とシャッターの上がらなくなった店が散見できるようになるし、日が落ち日付変更が迫る時間帯にもなれば人通りは都会と聞いて鼻で笑えてしまうくらいまばらだ。

 市街地に移ってもその都会(笑)っぷりは明らかで、数の割には入居者不在の住宅が俺の家の周りにもちらほら。

 少子高齢化の縮図のような町でもあるので、ご近所さんがお年寄りばかりだと思って気に留めずに数年経てば、そのご近所さんの姿が見えなくなっていたりするんだよな。

 ここまでディスっているようにしか聞こえないが、別に生まれ育ったこの町が嫌いなわけではないということだけは信じてほしい。わかりやすく言えば、好きだからこそ目に映ってしまう不満って感じだ。

 勘違いしないでよね。もうっ。


 そんな都会の皮を被った田舎のような町なので、京花の家にだって人ひとりすれ違うことなく到着できてしまう。

 小学校低学年の頃は、毎日のように朝ここへ来て門の中へ通してもらっていた思い出があるが……お互い成長してからは、プライベートで会う機会はめっきり減ってしまった。

 それぞれ性格も性別も違うのだから仕方がないことなのだけれど、それでも友人関係が続いているだけ高評価をつけるべきだと最終判決を下したい。

 にしても、ここへ来たのは実に何か月ぶりだろうか。

 思い出の中とは異なるシチュエーションに僅かな緊張を覚えながら、門の前に取り付けられたチャイムへ手を伸ばす。

 ピン、ポーン――。

 昔はよく聞いていたはずの間延びした電子音におかしさを感じながら、待つこと数秒。


「はーい」

「神代です。京花に用があって来ました」

「はいな、ちょっと待ってねー?」


 チャイムの音に似てのんびりした声に、何故か冷や汗をかきながら丁寧に答える。

 こういう近しいようなそうでもないようなよくわからない関係の人って、会う機会が減るとすぐ関わり方を忘れるんだよな。

 あれ、俺だけ?

 更に待つこと十数秒、玄関の灯りが点いて鍵の開く音がしたかと思うと、ガチャ。

 ついにその扉が開かれる。

「ハルくん、こんばんは。 久しぶりじゃないかしら?」

「そっすね。お互いの都合もそう上手く合いませんし」

 扉の中から現れたのは、二十代後半くらいに見える、若々しくも大人らしさ溢れる女性。

 玄関のドアに手を添えながら静かに閉めた彼女は、三つ編みにされた桃色の後ろ髪を揺らしながらこちらへ歩み寄り、門に手をかけながら困り眉で微笑んだ。

「あら、忙しいのにごめんなさいね。まだ高校生なのに一人暮らしなんて、私だったら耐えられないわ」

「忙しいのはそちらの方でしょう? 京花の奴、部活に勉強に一生懸命みたいですし」

「心配は無用よ? 私の娘はオンとオフの切り替えはよくできている子だもの」

 くす、と緩む口元に右手を添えながら、反対の手で門が開かれる。

「ならよかった。あいつ、人気者だから、無理してないかなって時々気になるんですよね」

「ふふ、ハルくんはやっぱり優しいのね。その言葉、本人に言ってあげたら喜ぶと思うわよ?」

「俺じゃなくても、あんないたいけで可愛い幼馴染みがいたら誰だって気遣いますよ」

 思い返してみれば恥ずかしくて死にたくなりそうな言葉の羅列をすらすらと述べていくが、何一つ嘘はついていない。

 京花は人気者で、頭も良くて、みんなに頼られがちで、だから過度に頑張り過ぎるものだと思っていた。

 誰より彼女のことを知る人物がこう語るのだから、その点に関しては安心してもいいのだろう。

 長い付き合いであるとは言いつつも、意外と京花のことを知らなかったのかな、なんて思ってみたり。

 そんな時。

「わ、あ、おか、あ」

 気付けば、彼女の向こう側、開けられたドアの陰で、全く安心できないといった表情の少女がこちらを見ていた。

 よく似た桃色の髪を持ちながら大人っぽさにはどこか欠ける少女は、ショート寸前というか、既にショートしているかのように顔を真っ赤にさせている。普段綺麗なあいつのあんな表情、久しぶりに見たかも。

 電気回路系の専門科目は履修したことがないので、爆弾処理はやりたくないんですけど。

 俺の視線に気付いて、大人っぽい方の桃色髪が振り返ると、大人っぽくない方の桃色髪が急速で駆けてきて、その勢いを殺さぬまま大人っぽい方の桃色髪にしがみついた。

 普段おっとりと綺麗な紫色をしているその瞳は、漫画やアニメならぐるぐる目になっていそうな様子だ。

「お、お母さん! ハルくん来たら私出るって! 言ったよね!?」

「んー、このくらい別にいいじゃない? 私とハルくんが会ったら嫌?」

「い、嫌! 絶対あることないこと包み隠さず言うもん!」

 包み隠さず、ねえ。それって全部本当のことですってバラしているようなものじゃないのかな。

「落ち着けって、京花。何も変なことは話してないから」

 レアな京花のあらぶり方がなんだかおかしいので、茶化す気分で仲裁に入ると。

「は、ハルくんも! あんな、恥ずかしい、コト、……っもう!」

 何故か俺に対しても怒っているようだった。何で?

 頬どころか顔全体を真っ赤に染めた京花は、返す言葉も見つからないくらいテンパっているのか、その続きを紡げずにいた。

 つーか聞いてたのかよ。最初からすぐ出てくればこうならずに済んだのでは?

 これ、橘京花から学ぶ女のよくわからないポイントその一としよう。

 毎度メモってシリーズ化してまとめてみるか。多分真面目に探せば百八式まであるぞ。

「あらあら。うふふ」

 意味深に笑って見せた大人っぽい方の桃色髪――京花の母さんは、ちらりと娘を横目に見ながら、会話を再開させてくる。

「ほら、心配に及ぶまでもなくうちの娘は元気でしょう? きっとハルくんのおかげなのよ。今日の夕べもね、久しぶりにハルくんとお出かけできたってはしゃいでて可愛くてね?」

「お母さん!!」

 母親にいじめ抜かれてもう限界といった表情の京花が、悲痛な叫びをぶつける。

 ここまでくるとなんだか可哀想だな。

 そろそろ助け船を出してやるか。

「京花が可愛いっていうのはもう十分よくわかりましたから、そろそろやめてあげましょう。泣きそうじゃないですか」

「あらら……京花、ごめんね? 悪気はないのよ」

 娘の目を見るなりバツの悪そうな顔になった京花の母さんは、優しく娘の頭を撫でる。

 十六にもなって親に撫でられるがままにしている京花の方は……嫌がってはいない模様。

 高校生の娘を持つくらいだから、それなりに年齢は重ねているはずなのだけれども……あまりに見た目が若すぎるんだよな。

 おかげで微笑ましい歳の離れた姉妹に見えてしまう母娘である。

「でも、ハルくん、本当にそういうところなのよね~……」

 一般的な逆接から理解不能な文章を繋げて呟いた京花の母さんは、振り向きざまに、もう一度俺たちを見た。

「じゃあ、私は戻るわ。ハルくん、京花をお願いね?」

 そう言い残すと、彼女は先に玄関の扉を開けて行ってしまった。

 お願いね、と言われましても……。

 ここは京花の家で、俺が案内される側のはずじゃないのかしら。

 何、これも女性特有の考え方だったりする?

 何といいますか、大人の女性って怖いな。小並感。

 後々の研究のため、女のよくわからないポイントその二ということにでもしておこうか。

「え、えっと……お母さん、昔から変わってなくて。なんかごめんね。失礼なこと言ってなかった?」

 完全に玄関のドアが閉まったのを確認してから、京花は上目遣いにそう問うてくる。

 失礼なことを言ってくるような性格の人でもないとは思うんだ。

 ちょっとばかし、何を考えて発言しているのかわからない面はあるけれど。

「別に。それに、人間は簡単に変われるものじゃないさ。気にすることじゃない。ソースは俺」

「……もう。何それ」

 そう言って、母親と似た仕草で口元に手を添えながら微笑む京花。

 この時の彼女の様子はいつもと比べるとどうしてか大人っぽく見えて。

 ああ、少女ってこうやって女性になっていくんだなあ、なんて。

「とにかく、時間取らせてごめんね。急いでたんでしょ? 上がってよ」

「ああ。そうする」

 落ち着きを取り戻した京花は踵を返し、少しだけ小走りに玄関の前まで行くと、ドアを開けて待機していてくれる。

「ど、どうぞ」

 慣れていないこの動作に何の意味があるのだろうか。

 これに関してはわからなかったが、

「レディファーストだ。入れよ」

 彼女より20センチほど身長の高い俺が、京花の手より高い位置でドアを押さえる。

 俺にはギャクセンスが欠如しているらしいから、たまにはこういう小ボケに付き合ってやるのも悪くない。

「あはっ……ほんとに、何なのさ」

 訝しげな言葉とは裏腹に嬉しそうに笑う京花は、「では、お言葉に甘えて」と一言添えてから、先に中へ。

 続いて、客の俺が玄関に足を踏み入れ、そっと閉めてから二つの鍵と、それからチェーンを掛けた。

 なんだか、こんなアホみたいなやり取りも久しぶりにやった気がする。

 ふたりが中学生、高校生と成長してから、忘れかけていた慣れ合い方だ。

 確かに京花は男女問わず人気者で、学級委員長に推薦されるくらい人望もあって。

 対する俺はどんな時もずっと孤立していて、『好きの反対は嫌いではなく無関心』の対象を地で行っている人間だけれど。

 なんとなく、確証はないのに、彼女とは長くいい友人でいられそうだな、とか。

 そう心の中で思って、京花の後を追った。


 *     *     *


「えっと……聞き間違いかな? もう一回言ってくれない……?」


 午後六時半、橘家二階、京花の自室にて。


 あらゆるモノがピンク色メインのパステルカラーで統一された癒しの間の床に、京花に差し出されたクッションを座布団代わりにして座っていた俺は、ベッドの上に腰かける彼女に奇異の目を向けられていた。


 あれ、どこかで噛んだかな。

 今日の夕方は史上最高レベルで意味のわからないやらかし方をしたが、流石に付き合いの長い京花の前ではそんなミスはしないはずだ。

 俺は対人関係が苦手だとも、そしてコミュニケーションが下手くそだとも言ったが、それは慣れていない多数の相手と仲間の輪を築こうとする際の話であり、喋り方そのものには問題ないはずだと思っている。

 例えば、オタクの特徴と言えば、『デブ』『早口』『チェックシャツ』『瞬足』『コーナーで差をつけろ』などを挙げているテンプレがある。ちなみにネットを巡っていたら偶然目にしたものだ。

 俺はライトノベルを読んだり、アニメを鑑賞するのは好きだから、ややライトな層ではあるかもしれないが、オタクという区分には含まれるだろう。

 しかし、このオタクのイメージのテンプレと照らし合わせてみると、俺は標準体型だし、早口ではないし、私服は拘りがなさすぎて無地ばかりですらあるし、瞬足は生まれてこの方履いたためしがない。

 最後はわからんが。

 サッカーの授業で、目立たないキャラをしているくせにコーナーキックで得点を決めてしまい陰口を叩かれたことならある。陰口のはずなのに本人の耳にまで届いてしまうのが怖いところよね。

 ……自分で言っていて呆れるが、これじゃまるでイキリトだ。

 大きく話が逸れてしまった。

 ともかく、俺はコミュニケーションが下手とはいえ、はっきり明瞭に発音して会話することはできる。

 だから、言い直しは拒否してもよかったのだけれど。

「わかった。もう一度言う」

 目の前の京花があまりにも信じられないようなものを見たような表情をしているので、若干動揺しながら、よりゆっくりと繰り返すのだった。


「今、小さくなって着られなくなった服や下着がもし余っていたら、ぜひ譲ってほしい」


 *     *     *

次回もよろしくおねがいします!!!!!

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