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第3章 ゼロから始める共同生活-6

お久しぶりです。こぶらんです。

久しぶりってレベルじゃなくない? 7ヶ月ぶりって何、全人類がエタったと思ったでしょ

学生を終えてリアルが多忙になり始めましたが、急に自作小説の続きが読みたくなったのでゲーム時間を削って書きました(正直)

時間を見つけて連載復帰していきたいと思います、また何の脈絡もなく更新途絶えるかもしれませんがそれまではよろしくおねがいします(?)

*     *     *


 賑やかな食事時を終えて洗い物も済ませ、さて今日はもうゆっくりしようかと言いたいところだが、俺の一日はまだ終わらない。

 やらなければならないことほど後回しにしてしまう癖のある俺が、ひとまずやるべきことといえば、リリアに与えた部屋の整理だろう。

 自分から客人を招いた経験こそないが、なるべくなら不快な思いはしてほしくない。レビューの悪い旅館へわざと泊まりに行き、ちょっと盛ってるんじゃないかってほどこっぴどい感想を仲間内でぶちまけて笑い合っているクラスメイトの中田のような人間に、リリアは育ってほしくない。

 今のところ小動物っぽいという印象ばかり抱いているリリアに父性のようなものが芽生えつつある俺は、とりあえず彼女がこの先数日にわたって滞在するものと想定し、彼女が生活する上でなるべく不自由なく、余計なストレスを感じないように、部屋作りをすることを決意し、即座に実行に移した。

 とやる気を出したところで、まず何からすればいいのだろう。

 無難なところからいくと、やはり部屋の掃除からだろうか。

 一人暮らしをするにはあまりにも広すぎる二階建てに住んでいる俺は、誰かを招き入れようと考えたことは一度としてないが、使われることのない余った部屋も定期的に掃除するようにしている。最低限の清潔さは保っておかないと、その家にいるだけでもなんだか落ち着かないのだ。

 とはいえ、その掃除とは最低限の程度。知らぬ間に湧いている忌まわしき綿ゴミをかき集めて、窓の縁に溜まっている埃を拭い、余力があれば床の雑巾がけをするくらいだ。あれ、結構頑張ってない?

 細かいところ、例えばクローゼットの中だとか、部屋に放置されている箪笥などには一切手を触れていない。疲れ切った昨晩の俺がやったことといえば、箪笥に眠っていたシーツと布団を引きずり出した素人ベッドメイキングくらいなので、それ以外の全てをこれからやるつもりだ。ちゃんと掃除したのが先月なのか先々月なのかも覚えていないから、念入りに。他の部屋にも余っている使えそうな家具はあるので、それらもこの部屋に引き込んでしまおう。

「まあ、人が暮らせる部屋にすればいいわけだ」

 部屋の中を見渡してやることを頭の中でシミュレーションしてから、ドアの方へ振り返る。

 そこに立っているのは、やけにやる気満々な顔をした制服姿の京花と、彼女のお下がりを着た無表情なリリアだ。リリアちゃん、いい加減そのもぐもぐをやめなさい。さっき夕食済ませたよね?

 昨日うちに来たのはいいものの、まだ部屋を作っていないという旨の話を京花に伝えたところ、彼女は快くその手伝いを引き受けたくれた。この借りはいつか返さないといけない。

「さて、始めるか。まずは高いところからだな」

「高いところって……」

 見栄を張って慣れていますよアピール発言をしたが、高いところといってもそれほどない。目についたのは部屋を照らすシーリングライトのカバーの縁くらいだ。しかし、改めてそれに注目してみると、若干明るさが足りないように見えた。

「電気くらいだな。蛍光灯が一本切れてるっぽいからそれも替えよう。予備はあったはずだし」

 そんなに使ってないとはいえいずれ寿命は来るんだよな。自分で替えた記憶がないから、交換されたのは少なくとも二、三年は前だろう。

「京花はクローゼットの中を片付けてほしい。大したものは置いてないと思うから、服が掛けられる程度に綺麗になればいいよ」

「うん、わかった」

「リリアは……そうだな、下に降りるついでに水拭き用の水でも汲んでくるか」

 後者に関しては返事はなかったが、代わりにこくり、と頷いてくれた。

 初めにやることの指示を済ませ、俺はリリアと共に一階へ降りる。それから風呂場に隣接する脱衣所、洗濯機の隣にある水道で水を汲んでくるようリリアに言ってバケツを持たせた後、俺はリビングにある納戸、もとい物置スペースに首を突っ込んでいた。

 おかしいな、予備の蛍光灯はここにしまっておいたはずなんだけど。

 なんて、簡単に見つかるものなら苦労しないだろう。何せ、ものが多すぎる。物置とは言ったものの、もので溢れていて何が何だかわからない。これとかいつのキャットフードだよ。愛しい飼い猫は俺が中学生の頃に死んだぞ。

 次に伸ばした右手が掴んだのは、百均の木工工作キットで作られた小さな椅子や本棚、を模した何か。確か俺が小学生の時、夏休みの自由研究の内容を考えるのも面倒だからと、適当な工作で済ませようとして作ったものだ。ただ組み立てるだけでは味気ないからといって絵具を持ち出してしまったのが終わりの始まりで、画力に乏しい当時の俺が滅茶苦茶な色彩に仕上げてしまったのを覚えている。改めてピカソってすごいんだなって思った。小並感。

 他にも、納戸の中には様々な思い出の品が無造作に詰め込まれていた。昔の俺が好きだった変形するロボットの玩具、小学生の時に書いた書初めの掛け軸、影が薄いのか大して写っていない卒業アルバム、襟元に懐かしい校章が縫い付けられた中学校のブレザー、他諸々。捨てられないからって何でもかんでもここにぶち込むのはどうなんだろうな。ビニールの紐でくくられた古本の束とか、あとはあとは処分するだけなのに何で納戸にしまっちゃうかな。

 しばらく思い出に浸ってしまっていたが、今回の俺の目的を思い出して再びがさごそと思い出の山を漁り始める。元々はいずれ使うであろう必要なものを保管しておくための物置だったはずなんだけど。こう改めて見てみると、ゴミの山にしか見えなかった。蛍光灯、割れてないといいな。

 家族が残していったゴミ山と悪戦苦闘していると、奥の方から一辺だけが極端に短い直方体の箱を見つけた。探していた丸型の蛍光灯が入ってあるだろう箱だ。蛍光灯一本見つけるためだけにどんな労力使ってんだよ。

 山に足を踏み入れながらなんとかそちらへ手を伸ばしていると、たったったったと、階段を下りてくる足音が聞こえた。蛍光灯の箱を掴んで納戸から身を出すと、目が合ったのは京花だ。

「ハルくん、これ、クローゼットの中から見つけたんだけど……」

 尻すぼみになっていく幼馴染の声に、まさか見られてはいけないものが!? と一瞬身構えてしまったが、それは余計な心配だった。俺の部屋ならともかく、母さんがいなくなってからずっと使っていなかった空き部屋だ。「大丈夫、私は気にしないよ」と困り眉の作り笑顔でフォローされるような私物があるはずもない。

 ならばなんだ、と京花の手に目をやると。

「これは……」

 そこにあったのは、一枚の写真が飾られた小さな写真立て。

 やや色褪せた写真には、若々しく微笑む女性と一見無表情だがどこか嬉しげにも見える男性が正装で少し間を空けて並んでおり、その真ん中やや手前に、子供用の慣れないスーツを着せられた黒髪の少女と、その少女より頭一つ高くこれまたスーツ姿の、少しだけ顔立ちの似通った感じのする小学生の男子が緊張した面持ちで写っていた。

 ああ、懐かしい記憶だ。これはちょうど八年前に撮影された写真。小学校の入学式の日に、スタジオで撮ってもらったものだ。

 この慣れてきたランドセルを背負って誇らしげにポーズを取る少年は見紛うことなく昔の俺自身。つまり、彼の周囲に写るのは――、

「あ……えっと……」

 沈黙が苦しくなったのか、京花が遠慮がちに声を出す。

 その表情はなんだか怯えているようにも見えて、俺は慌てて言葉を返した。

「ああ、ごめん。別に気にしてない」

「うん……その、ごめんね」

「京花が謝ることじゃない。それは預かっておくよ、ありがとな」

 京花から写真立てを受け取ると、彼女はほっと頬を緩めた。

 実際、ここで彼女が責められる理由などない。懐かしい写真を見せてキレられるとかどんな生き方してきたんだ。流石の俺でも黒歴史を量産し始めたのは中学二年生の頃からだ。それ以前の思い出は大体何を語られようがノーダメージ。それ以降は詮索しないでほしい。

 なんだか気まずい雰囲気になってしまったので、話題を変えよう。

「リリアはちゃんとそっちに行ったか?」

「ううん、まだ来てないけど」

「相当経ってないか? 俺、水を入れ始めるところまでは見届けてきたぞ」

「そういえば、今降りてくる時、まだ水の音が――」

 ――バッシャーーーーン!!

 京花の声が、聞き慣れない音に掻き消された。

 とても嫌な予感がした。数秒間、京花と顔を見合わせ、時間の流れを自覚すると、脱衣所の方へ駆け出した。


「……何やってんの、お前」

 脱衣所に数秒とかからず辿り着き、開口一番に出た言葉がそれだった。

「水、こぼれた」

「ぶちまけたと言え」

「ぶちまけた」

「よし」

 素直に俺の言葉を繰り返したリリアは、どういうわけか全身びしょ濡れになって、バケツを抱え込みながらちょこんと座り込んでいた。

 長い髪はまとまって水を滴らせ、お下がりの可愛らしいピンク色のブラウスは肌に張り付いて華奢な身体のラインを浮き彫りにさせている。それに伴って露わになった意外な膨らみが、昨夜の記憶の消去が失敗していたことを悟っていた。その下に何も身に着けていないように見えるのは多分気のせいだろう。ピンクでよかった。ブラウスが。

「しかしどうなったらそうなるんだよ。水遊びは外でしような」

「遊んでない」

「じゃあこの惨状は?」

「水、こぼれた」

「さっき聞いたよ。どう考えてもこぼれたって量じゃねえだろ、どんだけ汲んだんだ」

「いっぱい?」

「雑巾を濯げる程度にか?」

「バケツいっぱい」

「一杯ってそっちかよ! お前これから掃除するってわかってる?」

 俺の問に、ここへ来て何度目かの首傾げを見せるリリア。この子、雑巾がけってしたことないのかしら。だったら確認不足だった俺が悪いのかもしれない。そんなことってある?

 それ以前によく一杯汲んで持って行こうだなんて考えたな。いや、何も考えてなかったのかもしれないけど。

 なんて考えている場合じゃない。まだ夜はそれなりに冷える春先だし、このアホの子は頭から水を被ったようだからこのままでは体を冷やしてしまう。

 それに、せっかく処置してやった傷口のガーゼも剥がれてしまっていて……、

「……結構治りかけてるな」

 粘着力の弱まった医療用テープと、それに止められていたガーゼの中から顔を出した左膝の擦過傷のかさぶたは、痛々しいのは変わらずとも既に固まっていた。剥がれるのはまだ先だろうが、この状態なら多少の水の影響はないはずだ。昨日は風呂にも入れてあげられなかったし、軽くシャワーを浴びてもらう程度は問題ないだろう。

「ここは俺が始末するから、お前はシャワー浴びてろ。風邪引くぞ」

「……うん」

 悲しいかな、たった今起きた惨状によって彼女がこの場にいても足手まといだとわかってしまったので、早々に戦線離脱を告げる。

 何と言ったってこっちには家事万能の京花先生がいるんだ。部屋の掃除くらい二人分以上の働きを見せてくれるだろうよ。今のうちにお礼を考えとかないとな。

 苦笑を浮かべる京花を一瞥してから、こんなところで使う予定などなかった雑巾を洗面台の下の棚から取り出そうとすると――、その視界の端に、無表情のまま裾を引っ張り上げてブラウスから頭を引き抜こうとするリリアの姿が映った。

「待て! ここで脱ぐな! そっち行ってドア閉めてから脱げ!」

 見えてはいけないものが見えそうになる直前に、裾を引っ下げて白く艶やかなお腹と可愛らしいおへそを覆い隠す。薄々そんな気はしていたけど、本当に羞恥心とかないのねこの子!

 不思議そうな顔をして小首を傾げる彼女に、俺は真正面にある脱衣所を顎で指し示す。知り合ったばかりだから当然だが、彼女の奇行にさすがの京花も唖然としていた。

「というか着替え、持ってこないと」

 固まっている京花を余所に、頬を掻きながら呟き、振り返って一歩踏み出す。と、水溜まりの中心に立つリリアも一歩、こちらへ歩を進めてきた。

「いいかリリア、お前は動くな。そこにいろよ」

「私も行く」

「着替え取りに行くだけなのに二人もいらないから。頼むから動かないでくれ、俺はこれ以上疲れたくないんだ」

「今朝のニュース、日本人は働きすぎって言ってた。休む?」

「お前自分が元凶だって自覚ある?」

 いいか、時間は有限なんだ。ついでに言えば俺の体力も有限なんだ。リリアの行動は、この双方を浪費することに他ならない。その証拠に、一歩後ずさった俺に合わせて右足を踏み出したリリアが、水溜まりに足を取られて滑らせているのが見えた。

「ほら見ろ、だからお前は――ッ!?」

 本来であれば、右手は蛍光灯の入った箱で塞がっているとはいえ、俺がここで体躯の小さな女の子一人を抱き止めることくらい容易、なはずだった。だった、というのは、今回が例外と捉えられるからである。

 いつの間にやら足元に身を潜めていた雑巾が、よりにもよって暗くて狭い棚の中から救い出してやった俺に対して牙を剥く。

 それからの展開は、お察しの通り。

 せめてリリアは庇うようにと、反射的に利き手を床に伸ばしてしまったのが運の尽き。

 耳を劈く轟音と共に共倒れになる少年少女と、流れについていけず傍観していることしかできない少女がひとり。


 ――ああ、日本人って、本当にいつになったら休めるんだろうな。


*     *     *

感想をいただいて反省はしておりますゆえ!

次回からたぶん進みます 展開は全部頭の中にできてるのであとは書くだけ(書くだけ)

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