第3章 ゼロから始める共同生活-5
おひさしぶりです!!!!!実に三か月ぶりの更新になります!!!!!のくせして少ないし話も進んでない!!!!!いったい何してたの!!!!!
ぷそに復帰して時間を吸われてしまい、そのうちリアルが多忙になり、抜け出した時にはモチベも抜け落ちてしまってました チャージするのに三か月かかった
続きの展開は大体思いついてるのでエタらせるつもりはないですはい こんな調子なのにもう一本同時連載したくなってきてもうだめ
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『次のニュースです。イギリス出身の科学者、チャールズ・スクルド氏率いる研究チームのメンバーが血を流して死亡しているのを警察が見つけました。現地時刻20日午前10時頃、スクルド氏の研究室で、六人のメンバーが胸や頭部に傷のある状態で発見され、その場で死亡が確認されました。うち二人は日本人の――』
「はいはい、チャンネル変えるぞ」
朝から人が亡くなったニュースしか見ていなかったので、もっと楽しめる番組はないものかとチャンネルを次々切り替えていく。
朝の自殺者に次いで、今度は科学者の殺人と来たか。
時々ネットでニュース記事を流し見していた程度の俺でもわかるが、チャールズ・スクルドといえば、近年話題の有名な遺伝学者だ。
なんでも、まだ三十歳にもなっていない若さで、遺伝子操作による数々の研究成果を挙げてきた鬼才らしいが……記事の内容がハイレベルすぎて、全く頭に入って来なかった覚えしかない。俺は文系だ、理科は不得意なのだ。
そんなヒーローの研究所で事件が起きたとなれば、日本でも海外のニュースとして大々的に報じるわけか。
それとも、単に日本人の被害者が出たからだろうか。
どの国の人かという個で区別するのではなく、日本人か外国人かで区別する国民性ゆえか、海外で日本人が絡む事件が起きれば真っ先に報道するもんな。
ともあれ、今はより明るい番組をチョイスしなければならない。
何故ならば、食卓を囲む人数が、昨晩より更に一人増えているからである。
「うん、結構いい感じ! ほら、リリアちゃんも、あーん」
「ん……あむ」
正面に向き直ると、対面に座るリリアの口が、顔の前に差し出されたフォークを捕らえていた。
フォークを持つのは、俺とリリアの間、俺たちから見て横向きに食卓に着いている京花だ。
「どう、かな?」
「……おいひい」
「本当? よかった! イギリスの人にとって日本の味付けが合うのか、ちょっと心配だったの」
フォークを引き抜いて満面の笑みを浮かべる京花は、ナイフで丁寧にハンバーグを小さく切り出すと、続いて自分にも一口。
料理に関しては厳しい彼女でも、無事に満足がいく出来になったようだ。
男が異性に作ってもらいたい手作り料理ランキング一位ことハンバーグだが、その作り方はさして難しいものでもない。少々手間はかかるが、料理初心者から中級者への昇格試験待ちの俺にだって簡単に作れる。
そんなものに京花先生が苦戦するはずもなく、なのに『無事に満足がいく出来』なんて称したのは――、
「ハルくんは食べないの? 冷めちゃうよ?」
「いや。お前ら、いつの間に仲良くなったんだよ」
「え。さっき? 一緒に料理したし」
「なに、お前にとって料理はコミュニケーション言語なの? 家庭科の調理実習やる前に伝授してほしかったんだけど」
「ほら、ハルくんのこと、ご飯を作ってくれるから好きって言ってたから。一緒にご飯作って一緒に食べたら、私も仲良くなれるかなって」
「ほーん……」
つまり、そういうことだ。
誰に対しても優しいクラスの人気者でリア充寄りの思考回路を持つ橘京花さんは、何かと人と一緒に行動することを好む。その特性は初対面であるリリアを相手にしても発揮されるようで、先ほどまでは一か所のキッチンに三人集って夕飯を作っていたのだった。
にしても初対面で、それも明らかに好意的に見られていなかった相手を料理に誘うとか京花の行動力やべえな。メンタルもやばい。ぼっちには無理。つよい。かてない。
まあ、俺のスペックの低さについて語り始めたところできりがない。なので俺のこの先の人生は霧がかっていて何も見通せないしストレスで今から胃がキリキリしているまである。やだ、食事時なのに!
と、お先の真っ暗加減に絶望しながらも、ナイフを手に取ってハンバーグを切り分ける。
断面からはより一層濃く湯気が立ち上り、香り立つ煙幕の中から奏でられるのは空腹感を刺激する肉とソースのハーモニー。
さっきは俺もキッチンにいたとはいえ、いくらお高めの一軒家でも複数人が並べるような広さはない。そもそもたかが三人分の食事なので作業量もさほどない。以上の理由から、二人が仲睦まじく包丁や鍋を武器に具材と格闘している様子を見守っていることしかできなかった俺は、内心早くできないものかと待ち侘びていた。
長いので三行にまとめると。
腹減った。
やっとできた。
美味そう。
いただきます。
おっと四行になってしまった。でも挨拶は大事だよ! ちなみにこれで五行。
「……ん、美味いな」
「だって。よかったね、リリアちゃん」
そう言って顔を綻ばせた京花と、俺の評価などお構いなしに次の一口を切り分けていくリリア。
まあ、京花がいる時点で味の心配はしていなかったわけだが、何事もなく無事に終わったことを喜ぶとしよう。どちらかといえばリリアの手つきの方が危なっかしかった。恐らくは料理の経験もないんだろうな。
にしても食事中のこいつの熱心なこと。ぼーっとしている普段の様子(※出会ってから24時間前後)からはとても想像できない食べっぷりを見せてくれる。料理をする側にとっては美味しそうに食べてくれる相手が好まれるらしいから、ヒモ適性はやはり高いのかもしれない。見習わなきゃ!
ということで、負けじと俺も箸を運んでいく。なんか京花が用意してくれたから流れでナイフとフォーク使っちゃったけど、別に箸さえあれば十分なんですよね。洗いものも増えるし。
ここまでさせておいてそんな失礼なことは言えないので言葉を喉元で抑え込みつつ、好みの硬さに炊き上げられた白米をかっ込む。
どの皿に箸を伸ばそうとも、京花が作る料理は間違いなく絶品だった。
単に俺のレベルが低いだけなのだろうが、例えばほうれん草とコーンのバター炒めなどは、簡素そうに見えてほうれん草というチョイスが一人暮らしの男子高校生には思い浮かばないまである。非常用に取っておかれていたはずなのにあっさり開封されてしまったコーン缶も、彼女の手で調理されて光栄だっただろう。知らないけど。
俺の生活では不足しがちだった野菜も、コンソメスープにふんだんに投入されており、これがまた美味だった。
以前、食材は冷える時に味が染み込みやすいだとか、急激な温度差を利用していくとよいだとかといったことが書かれた記事をネットで読んだことがある。つまり、彼女は温度調節も上手くやっていたということなのだろう。俺なんて味噌汁作る時は火を止めることなく沸騰中のお湯に長ねぎぶち込んでドロドロにするマンだぞ。
そんなどうでもいいことを考えながら食べ進めていくと、気が付いた時にはご飯の茶碗が空になっていた。一粒の米にも七人の神様がいるとかなんとか言われるが、それは置いておくとして、当然米一粒たりとも残っていない。
「ハルくん、おかわりいる?」
「ああ、頼む」
狙いすましたかのようなタイミングで尋ねられたものだから反射的に茶碗を渡してしまったが、数瞬後に京花が客人であったことを思い出す。
いや確かに炊飯器の真隣を陣取ってはいたけれども。あまりに自然すぎて自分でも驚いている。家族じゃないんだから。こんなに料理上手なお嫁さんだったら欲しいけど。
ちくしょう、今から将来的に京花とお付き合いすることになる男が妬ましい。
「ふふ。なんだかこういうの、昔を思い出すね」
茶碗に元通りの量のご飯を盛り付け終えると、京花はそれを差し出しながら語る。
「ほら、小学生の頃はさ、どっちかの家にお呼ばれして、一緒にご飯食べさせてもらうことってよくあったじゃない? 本当、あの時は楽しかったなって」
「ああ、そんなこともあったな」
なんだかお茶碗補給システムが自然すぎると思ったらそういうわけか。
小学生時代などという遠い昔のことは、ぼっちを極めすぎて記憶領域から排除されかけていた。遠い昔というか遡っても十年ないんだよなあ……。早くも痴呆の心配をしなければならないのかもしれない。
そういえばあの時なんかは、炊飯器が近くになくても、京花が必死にお母さんの優しさを振りほどいて俺のご飯をよそってくれたっけな。微笑ましい思い出だ。
「リリアちゃんもおかわり、いる?」
かつてそんな我が儘を見せた京花も、今はこうして年頃の少女らしく成長し、周りに気を配れる人間に育った。
彼女が次に見やったのは、既に茶碗もメインディッシュの皿も空けていたリリアだった。美味いのはわかるが落ち着いて食えよな、口元にソースついてるっての。
京花の呼びかけに反応して顔を上げた隙に、「じっとしてろ」と一言添えてからティッシュで口元を拭ってやる。よく見ると頬に貼ってある湿布にも僅かに染みてしまっているようだった。どうせもう剥がすからいいけど。
まるで手のかかる妹でもできたかのようだ。むしろ幼い娘でも通せるレベル。いずれにしても多少手がかかるくらいの子は嫌いじゃない。自分が必要とされている気もするし。
あとこれ、ラノベだったら「悠久と京花、お父さんとお母さんみたい」とか言われてるやつ。自分で考えてて何だけど俺如きがみんなの憧れ京花先生ととか気持ち悪いわ自重します。
「……ん」
おかわりをするべきか否か、数秒かけて悩んでいたらしいリリアが、ようやく口を開く。会話する時は目を見つめてくる癖のある彼女にしては珍しく皿に目線を落として固まってたから多分悩んでた。悩んでたんだと思う。悩んでたんじゃないかな。
「お腹いっぱいだから、いい。ごちそうさまでした」
文字だけなら無愛想に感じられるかもしれないが、そう返した彼女の表情はどこか満足気だった。食い意地張ってて燃費も悪いくせに食事時になると少食なのかよ、都合のいい腹してるな。確かにさっき、自分の体質について「すぐお腹が空くから好きじゃない」と言及していたけど、マジだったらしい。それって不便じゃん。都合よくない。
「そう? じゃあ、お粗末様でした……って言うのも変かな。二人で作ったんだし」
苦笑しつつも嬉しそうな京花は、個々が空けた汚れの少ない皿を重ねながら続けた。
「改めてこれからよろしくね、リリアちゃん」
短期間だけ泊まりに来ているという設定上、彼女に取って「これから」があるのかどうかはさておき――
「……うん。よろしく、京花」
京花先生による料理コミュニケーションは、ひとまず成功に落ち着いたようだった。
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ここまでありがとうございました
一日一本はさすがにハードルが高すぎたと三か月前に思い知ったので、次回からは週一くらいで更新できたらなと思います