序章 空から銀髪美少女が降ってきたので養います。
初めましての方は初めまして、そうでない方も初めまして、COBRA@米石 和希ことこぶらんです。
中学から高校にかけてPixivに二次創作小説を書いてはエタらせていましたが、今回は絶対にエタらせたくない強い覚悟を持って完全新作オリジナル小説を書き始めました。付き合いの長い方であればご存知でしょう、米石家と同じ世界線になります。
なろう初投稿になります。
クソ素人ですが、暇で暇でどうしようもない時間にでも読んでいただければ幸いです。
なおこれはプロローグなのでかなり短いです。ご了承くださいませ。
――また夢の続きを見ているのだろうか。
――それにしては中身が長すぎるような。寝坊の恐怖は既に身に染みついてしまっているのでそろそろ勘弁していただきたい。
――でも、久しぶりの明晰夢となるとテンションが上がるな。しかも前に見た夢の続きともなると激レアでは? 多分4話か5話くらいになる。起きたら忘れずに夢日記に書き留めないと。
――待てよ。一度明晰夢と認識してしまったからには、今これから何でもやりたい放題なのではないか? ええい、夢とはいえこのチャンスを逃すわけにはいくものか。
――さっきあいつに頬抓られて痛かった気がするけど、そうなれば夢じゃないっていうのは迷信だったんだな。だって、こんな状況、現実だなんて信じられないし。
そんなどうでもいい思考が、時を計ることすら忘れた俺の頭の中でぐるぐると高速で回り続けていた。
自分でもどれから処理すべきなのかわからず、行き場を失ったくだらない思考たちはぶつかりあって混乱を引き起こす。
俺は、いつだってあるべき現実を直視したい。
たとえどのような悲劇のワンシーンに遭遇しようと、都合のいい嘘に逃げることだけは絶対にしたくない。
だから、現実的で平穏な生活がしたい。過度な刺激なんていらない。
ただ、適当に出世して、適当に稼いで、適当に好きなことをして、身体がもたなくなったその時に楽に死ねたらそれで満足。
数年前、『ある事件』が起きてからずっとその思想で生きてきたし、今後も変わることはきっとないだろう。
ドラマや映画じゃこれでもかというくらいに美化され感動の的にされているが、人間は過去に縛られる生き物であり、生き方を変えるなんてことはそう簡単にできやしないのだ。
それ故に、俺は現実的に生きたい。
手に入らない理想なんていらないし、失望するくらいなら夢なんて抱きたくない。
そうやって、嫌いな自分を抑えつけてきたのに――。
この状況は、俺に何を伝えたいのだろうか。
無駄な思考に脳のリソースを無駄に割いてしまっているために足を一歩踏み出すことすらできなかった俺の前で、『それ』はむくりと起き上がった。
ほとんど働かない脳での分析によるが、『それ』は、確かに人の形をしていた。
病的なほど白く細く伸びる手足に、アニメのキャラクターを現実に映し出したかのような銀色に煌めく綺麗な長髪。
その首から下は凹凸の控えめな一糸纏わぬ姿――であれば嬉しかった、いや、一糸纏わぬ姿のようにも見えたが、少しだけ冷静になって凝視してみると、膝丈ほどのワンピースを身に着けているらしい。
全体的にか細く、弱々しいそのシルエットは、俺に背を向けながら上半身を完全に起こすと、今度は右手を握ったり開いたりし始めた。アニメか何かで見覚えのある『私、まだ生きてる?』みたいな確認といったところだろう。というか指ほっそ。
そう考えるくらいには余裕を取り戻してきた俺は、これから自分が取るべき行動を考える。
落ち着いてきたかと訊かれれば肯定はし難いが、さっきよりはマシだ。これは夢じゃない。だって頬抓ったら痛かったもん。
そして俺は今ここで、何もしないでこの状況を放置しておくわけにはいかない。
何を隠そう、『それ』が現れたことで先ほどまで正気を失いかけていたが、ここは確かに俺が生まれてからずっと住み続けている一軒家の庭なのだ。常識的に考えれば、見覚えのない『それ』は不法侵入者と呼べる。しかるべき機関に訴えれば勝てる。
数回両手をグーパーし、『それ』がなぜか満足気に頷いたタイミングで、俺は半開きにして外を覗いていた窓を思いっきり全開にし、
「アッ……あの! そこのひみ! 俺ん家の庭で何ウォ」
……確かに俺の声に反応した『それ』は、太陽光に反射して煌めく長い銀髪を靡かせながら、上半身を回して半分ほど振り返る。
シルエットの時点でわかりきっていたことだが、『それ』の正体は小柄な少女だった。
やや幼さの残る顔立ちで、中学生か高校生かその境目くらいと察せられる。
しかしその顔のあらゆるパーツは有名アイドル顔負けというほどに日本人離れして大変整っており、この一瞬だけで魅了されそうになる。顔だけに顔負けってね。
水面から海の底を見通そうとしているかのような青い瞳に吸い込まれそうになって、踏ん張るつもりで俺はその美少女に続けてかけるべき言葉を探った。
「エン……っとですね! あの、あなたは、俺ん家の庭で何ウォしてね、してるんすか!」
少女は変わらず無表情で、銀髪を地に垂らしたまま、小首を傾げて見せた。
そして、俺たち二人の視線が真正面からぶつかり、また時が止まってしまったかのような錯覚に陥る。
少し駆け足な心臓な鼓動が、いつもよりうるさく聞こえて非常に耳障りだった。
この少女は何者なのか。
なぜここにいるのか。
どうして俺はこんなにも噛んでしまうのか。
すべてが謎のまま、沈黙の数十秒が経過した。
唯一理解できたことといえば――何はともあれ、これが俺と彼女の最悪なファーストコンタクトだったということ。
たったこれだけの出来事が、平穏に暮らしたい俺の日常を狂わせることになってしまうだなんて、この時の俺は知る由もなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続きも時間があるときに随時投稿していきたいと思っておりますので、よければまたどうぞよろしくお願いします。
わたしはたのしい