三、見不(みず)のなまえ:彪の巻-い
きみ仁が昨日自分とした大発見を、仲間に実物を見せながら披露する。
「見えるか? あれが魔法陣。浄水タンクの内側にこんなもんが描いてあったなんて、びっくりするだろ」
「うえぁ……まじだ。これ何の魔法陣よ。きみ仁ならわかんの?」
浄水タンクを覗き込んで眉を寄せたトーヤに、胡座を組んでタンクに左手を当て、右手では魔法陣を写し取っているきみ仁が答える。
「水に混じった不純物を使って水を生み出す魔法陣。水の複製を作るというか……」
きみ仁の隣に座って手元を覗き込んでいたミッカが、嬉しそうに声をあげた。
「あ、これ魔法陣なの! きみ仁くん魔法陣はマトモに描けるんだね!」
一瞬空気が凍った。トーヤの後ろにのっそり立っていたネオが、ずずっと移動しミッカをはたいた。
彪はフォローするように尋ねる。
「きみ仁すげぇなぁ。手ぇ当てたら内側がどーなってっかまでわかんの?」
少しの間をおいて、きみ仁が頷く。
「へーぇ、透視みたいだね! それも魔法? 蓮李先生に教えてもらったの?」
ミッカは匂いを頼りに地中の骨を探す犬さながら、どこまでも興奮して掘り下げようとする。
ミッカの実家は、かつて貸本屋をしていた。今は読む人(というか字の読める人)の減少により開店休業状態だが、唯一、きみ仁のパーティメンバーの著書とかいう、『猿でもなれる魔法使い』を読んだことがある。
きみ仁は首を振った。
「できた」
きみ仁が左手をタンクから引いた。彼が手を当てていた場所を見た彪は、いつもの浄水タンクしか見えなかったことに落胆した。何か、魔法を使った痕跡かなにかがあるかと思ったのに。
少し離れたところで事態を静観していた讃良が、ミッカと同じようにしゃがんで、きみ仁の帳面を覗き込む。とんとん、と帳面をつつき、
「魔法陣の横の、これは何?」
「水の成分」
トーヤが二人の間に足を割り込ませ
「俺も見たい。見して」
きみ仁がぬっと帳面をトーヤに差し出した。その時、袖が下がって傷だらけの腕があらわになった。
(太い。やっぱ剣士なんだな。俺らとそう変わんない歳なのに……)
トーヤが手にした帳面を彪も覗かせてもらえば、そこには確かに今見た魔法陣の片鱗と似たものが描き出されていた。複雑な形をした陣の横に、端正な字で古い文字と数字が書かれている。あるふぁべっととかいう文字だ。
魔法陣が何を表しているのかさっぱりわからなかった彪は、ぐっと口をつぐむ。讃良が感想を口にした。
「花みたいな形な、その魔法陣。ラナンキュラスっぽい」
「自然物を陣形に見立てるのは、魔法陣ではよくある。自然物の形は数学的に理解しやすいから」
「へえええ! 数学と魔法ってなんか関係あるの?」
ミッカの目がキラキラ輝いている。
「魔法はイメージとか気の持ち方とか、そういう曖昧なものが深く関わってくる。曖昧なものを知性ある微生物・魔法粒子に伝達することで発動する。伝達には魔力が必要だが、魔法粒子だって、曖昧なものを曖昧なまま伝えられても形にしようがない。具体性が必要。
具体的に伝えるために用いられるのが、魔法文字だったり呪文だったり図形だったりする。
その時、ひとはそれぞれ自分の使える引き出しから自分の思い描く結果に結びつくものを持ち出すしかない。そこで、答えが一つしかない数学ってのは何かと便利。
そういう話」
「はっはー! 僕全然わかんない!」
「俺も」
ミッカは元気良く、ネオは控えめにそっと挙手した。トーヤは固まり、讚良が「もっとわかるように言ってよ」と図々しい要求をして、彪は「サラ」と窘めた。
「古い言葉を話すひとには、古い言葉で話しかけるしかない。
それと同じ。違う文化を持つひとには、わかるように例示して説明するしかない。
魔法粒子には知性があって、膨大な情報を持っている……と言われている。ところが人間とは文化も言語も違う。認知が共通していない部分も多い。
例えば、魔法粒子は二十四進法の生き物で、十二進法を理解しないとする。すると昼の十ニ時の次は零時だつっても理解しない。彼らの中では二十四進法しか意味を為さない。十二の次は十三。だったら十三時って伝えるしかない。十二進法に十三がないなら、二十四進法で話す。魔法っていうのは、そうやって、魔法粒子の認知に合わせるところから始まる。
その点数学は、文化も言語も違っても、解は一つしかない。数学はあらゆる具体の抽象化から始まる。文化が違っても魔法粒子が越えられる概念の表現方法といえる。解が一つなら、魔法粒子も同じ解に辿り着きやすい。だから数学は魔法陣に多用される」
なんとなくわかった、とネオとミッカが頷いた。
「数学は、言語みたいなもんってことね」
ほぅ、と讃良が頷き、トーヤは「俺は一発で理解できたけどな」と明後日の方向を見ながら言った。
「数学で使う記号やなんかは、元々曖昧なものを可視化して、象徴的に言語に置き換えてあるものだから」
ばっとミッカが両手できみ仁の左手をとった。
「すっっごいよきみ仁くん! 魔法に詳しいんだね!」
彪は呆れた声で返した。「有名な魔法使いのそばにいたらそんくらいわかるんだろ」
ミッカは大げさにあんぐりとする。
「言われてみれば、そうだよねぇ! ねぇもしかしてきみ仁くんて、蓮李先生の本に出てきた少年Aだったりするの!? 蓮李先生の直弟子だから、こんなに詳しいんでしょ!?」
いたずらの犯人をあぶり出そうとする母親のように、笑顔の奥でミッカの目が光った。
ミッカの話では、『猿でもなれる魔法使い』は先天的に魔法が使えないと思われた少年Aと、蓮李=大飛が艱難辛苦を経て魔法使いになるメソッドを見つけるノンフィクション実用書なんだそうだ。
本の中のキャラクターの思わぬ登場に、その場の空気が気色ばむ。皆の瞳に期待が宿る。
しかしきみ仁は首を振った。ミッカがわかりやすく落胆を顔に書いたので、きみ仁は「なんか申し訳ない」と謝った。
讃良がすかさず「こっちこそ、ミーハーな野郎で申し訳ねーよ。オラミッカお前が謝れよ」とミッカを小突く。きみ仁がたしなめるように両手を浮かせた。
「いや、厳密には少年Aじゃないってだけで、ミッカの予想はそう遠くもないから」
どういうことだろう、と彪は首をひねった。
ミッカの話では、『猿でもなれる魔法使い』で、少年Aと蓮李=大飛は何度もぶつかり、罵倒し合い、それらを作中で何度も愚痴り、その庶民臭さが魔法の手引書特有の敷居をなくした、とのことだった。確実に魔法使いになれる方法を紹介しつつも、ひとりの少年の育児日記でもある。それが評価されて大ベストセラーになり、ミッカの家もそれなりに稼げたそうだ。
かの本が出版される前は、魔法は生まれつき使えるか使えないか決まっているものだった。体質的に魔法が使えない、というのは、つまり当時の基準で、魔法使いの資質がないと判断されたひとだ。そんな人間、掃いて捨てるほどいた。きみ仁でなかったとしても別段おかしくはない。きみ仁であっても何もおかしくはないが。
ミッカが切り込む。
「……まさか、少年Aは実在しないってこと? きみ仁くんをもとにしたフィクションでした、て?」
その声は不安に揺れているようでもあり、好奇心にせっつかれているようでもあった。彪も、きみ仁から目が離せない。
ヒィと、高く空から鳥の声が落ちてきた。
空気が固唾を飲んで、彼の返事を待っている。
きみ仁は、じっとミッカを見返して、言葉を選んでいるようだった。
「少年Aは……それこそ数学的な記号に過ぎない。蓮李=大飛の弟子という意味の。
言うなれば、少年Aは二人いた。ふたり……だった」
過去形。はっとしたように、讃良の肩が動いた。きみ仁の口に、讃良の手が押し当てられる。きみ仁はじめ、その場の全員が面食らった。讃良はひどく真剣な目で、きみ仁を見据えていた。
「……わかった。私はわかった。もういい」
絞り出すような声に、トーヤが心配もあらわに「サラ?」と呼んだ。
きみ仁の表情がふっとゆるんで、空いている右手で口元の手をとった。
「いいんだ。サラ。ありがとう。
少年Aは、俺と、もうひとりいた蓮李の弟子を合わせた……象徴みたいなもん。かな。
俺は辛くなるから、蓮李の本は読んでない。でも少年Aの言動は、大部分俺だと思う。聞いた話じゃ、結構ひどい書かれようなんだって?」
きみ仁は、ニガウリにいきなり噛み付いてしまった子供のように、笑った。
全員の沈黙が回答になった。
「じゃ俺だ。もう一人はね、俺とレンが喧嘩すると十中八九レンの味方につくタイプだった。ひどく書かれる理由が見当たらない……それに蓮李は、女の子を悪し様に書くような男じゃないから」
ああ女の子だったんだ、と彪は思った。おそらくその場の全員が思ったが、口に出せるものはなかった。
彼女がどうなったのかは、誰も追求できなかった。
ゆっくりと、ミッカの両手がきみ仁を解放する。
ミッカは俯いて、ひとりごとのように呟いた。
「じゃあ……どうして蓮李先生は……そういう風に二人だって、書かなかったぁいてっ」
スパンといい音をたてて、讃良がミッカをはたいた。きみ仁が「サラ」とたしなめたが、聞く耳を持たない。
「察しろよこれだから男は馬鹿だっつんだ! 蓮李先生にとっては! 可愛い弟子だったんだろ! ……書かなかったんじゃなくて書けなかったんじゃないのか。………傷がまだ、癒えてなかったから………」
最後のひとことは讃良自身と母親のことなんだろう、と彪は思った。
讃良の危惧をよそに、きみ仁は浄水タンクの修繕をしながら語ってくれた。
「なんで旅してるのかって、よく聞かれるから。仇を討つんだ。少年Aの、片割れの。
魔物を統べる女王、涙海の魔女アルマの首を落とす。この世界から魔物という魔物を一掃する」
彪はきみ仁に道具を提供しながら、世界の歴史について思いを馳せた。
神々が穢土をかき混ぜて世界を作ったとき、世界は神が降りられないほど穢れていた。
だから神はまず、世界を浄化する生き物を作ることにした。八つの頭を持つ巨大な蛇、八岐大蛇だ。
大蛇は八方に頭をのばし、世界をすっぽり覆った。そして鱗から神の息吹を吹き出して、世界を清めた。
うつくしくなった世界に、神は自らを模してひとを創った。神は天地を行き来し、ひとと交流して導き、ひとは世界を覆うほど殖えた。
ひとはときに悪感情を言霊にのせ、それは神と地を穢したが、大蛇が浄化し続けるから、神の毒にはならなかった。神は悪感情を持ったひとを諭し、慰め、癒した。
世界は完全を得たように見えた。
しかし永い永いときの中で、大蛇は疲弊し、発狂した。
神を贄に魔物を創り、魔物はひとを喰らった。
神は天に逃げ、世界は穢れを取り戻した。そこに神の降りる場所はなかった。神は大蛇退治に須佐之王を遣わしたが、須佐之王は大蛇を倒し、涙海と呼ばれる異界に鎮めた。しかし命までは奪わなかった。
その後神は浄化能力を持ったひとを創ったが、この試みはうまくいかず、魔物は出続け、悲しみや憎しみは穢れとなって、八岐大蛇の眠りを覚ます。
その八岐大蛇に仕える人間の巫女——邪神に堕ちようと、八岐大蛇が神である以上、神に仕えるものは巫女と呼ぶのだという——が、アルマだ。
大蛇が眠る間魔物を統べ、約二千年に一度目覚める邪神に付き従う。強大な魔力を持ち、彼らによって世界は六度滅ぼされた。
灰と瓦礫のなかから、生き残った人間達が築いているのが、今の世界。邪神に対抗するべく各国の代表で組まれた組織を、世界議会という。
(その世界議会が倒しあぐねている敵、巫女の体裁の魔女、アルマの首を落とすだって?)
浄水タンクの修繕はそう時間がかからずに終わった。
きみ仁はテキパキと、迷うことなく作業を進め、皮剥ぎ業を営む彪の家には、さいわい多くの工具が揃っていた。
作業がひと段落し、片付けまできっちりこなすと、彪たちは街を見に行くというきみ仁の案内を務めることにした。
技研の周囲に発達した食堂街で、讃良おすすめの甘味処に入る。
真新しい建材の匂いと、甘いクリーム、そしてバターの香りが、瀟洒な店内に充満して食欲をそそる。壁紙はパステル調のピンクと白のストライプで、ミントグリーンを基調としたテーブルクロスがいかにも女好みだ。強い陽光が壁紙を退色させでもしない限り、男一人では入りづらい。
昼時の店内は、技研で働く地元の人間で賑わい、数人しかいないウエイトレスが忙しそうに立ち回って、注文をさばいている。客のほとんどが女性だ。
讃良はフルーツソーダに、ミッカはハニートーストに、トーヤがコーヒーに注文を決めると、ネオが「トーヤくんと同じのがいい」と追随する。彪は決められず、メニューと睨み合いを続けた。
今日のオススメのバニラアイスは彪の好物だが、先月、アイスの屋台でバニラアイスを注文して、「オルは冒険しないよなー」と呆れられたばかりだ。それに、新作の野いちごタルトも美味しそうな絵とともに紹介されていて、心惹かれる。
けれど、財布的に助かるのは、シフォンケーキの蜂蜜かけだった。今なら無料でクリームのトッピングができる。とはいえ讃良推薦の店のバニラアイスへの好奇心は尽きない。
そしてそれを客人の前でからかわれるのは避けたい。自分をよく知らない人間にまで、自分がグループでどんなポジションにいるかなんて知られたくない。いじられやすい、弱腰な男だという印象を持たれたくない。堂々めぐりだ。
外食なんてなかなかできないから、一等好きなものを食べたいだけなのに……そもそも、トーヤだって讃良の前では格好つけてコーヒーばかり頼む。苦味が苦手で、本当はコーヒーなんて好きじゃないくせに……そしてネオは、トーヤの真似をする。
今日は客人がいるからか、トーヤはトッピングのクリームを注文しないようだった。
「オルー、決まった?」
にやにや笑いながらミッカが訊いてくる。オルはどもりがちに「もうちょっと……」と答えた。
隣に座るきみ仁も、メニューを睨んだまま黙っている。彪は、仲間に何か言われる前にきみ仁に話題を振った。
「きみ仁はどうすんの? ずいぶん迷ってんじゃん!」
自分も迷っている事は棚にあげる。
「いや食べるものは決まってるんだけど。メニューにそれが見つからない。見落としたかと思ってめっちゃ探してんだけど」
きみ仁はメニューを睨んだまま答えた。きみ仁の向かいで、讃良が立ち上がり、反対側からメニューを覗き込んだ。
「なに、きみ仁なに食いたいの」
きみ仁が、讃良にも見えるようにメニューを卓におろす。その顔は真剣そのものだった。
「パスティラってやつ。この国にいる間じゃないと、食べられないから。あれって甘味にカウントされないの?」
讃良は吹き出し、トーヤ達は顔を見合わせる。
パスティラは、移民が来る前からある郷土料理だ。
みじん切りにしたタマネギや砕いたアーモンドを鶏ひき肉と合わせ、砂糖とスパイスで味付けし、パイ生地で包んで揚げたり焼いたりする。丸く成形したそれに、最後に粉砂糖なりシナモンなりをまぶすので、ケーキに見えなくもない。おもてなし料理なので、彪の家では上客が商談に来る時にしか作らない。作ったとしても、余り物を食べさせてもらう程度で、年に何回もチャンスはない。
「アレは……メインだろ。甘味じゃないって」トーヤが答える。
「え。あんなに甘いのに?」きみ仁は不満げに言った。彪は(食べたこと自体はあるんだ)と思った。
「わかる〜! 外から来た人間にとっちゃ、アレは甘味、パイだよな!」がははっと讃良が笑った。
ミッカが興味深そうに「外の感性だねぇえ」と目を輝かせた。さっきからミッカはきみ仁が何を言っても感嘆している気がする。
「この店にパスティラはないよ。手間暇かかった高級料理だし、頼んですぐ作れるもんでもないから、暁市で食べた方がいいんじゃないかな」
彪がいうと、きみ仁はしおれて「こういうのはあるのに?」と、ベルベルオムレツの項目を指差した。
一同吹き出す。
「なに言ってんの、オムレツは甘味でしょー!」ミッカが言った。
「ま、わかるけど。オムレツはメインよな、外から来た私らみたいのからしたら」讃良は笑いをこらえようとして失敗していた。
「なーんだきみ仁、男のくせにパスティラなんて甘いもんが好きなのか?」
トーヤが少しバカにした口調で言う。
きみ仁は遠慮がちに答えた。
「や、俺は甘いもんはちょっと。でもこの辺のレストラン持ち帰れるし。蓮李が好きなんだ、郷土料理食うの。だからパスティラがあるなら持って帰りたかった」
じゃあベルベルオムレツとコーヒーでいい、ベルベルも郷土料理だし、と妥協もあらわにきみ仁はメニューを解放した。
讃良とミッカが感心したように、ほぉぅっとため息をついた。
「仲間思いだなぁ、きみ仁。仲いんだな!」讃良はどこか嬉しそうだ。
「別に。レンのグルメ欲求は満たさないと旅が脱線するから。日程計画ガン無視でうまいもん食えるとこ行こうとするんだ、アレは。それで何回も旅程が狂って……だからこんなの、一種の処世術」
「え〜! 冒険者のパーティーってそんな感じなんだ〜! え、もっと聞きたい、根掘り葉掘っていい?」
「ミッカはもう既に根こそぎ掘り返してんじゃん」
讃良の指摘に「そんなことないよ〜!」とミッカが膨れた。
彪がトーヤを盗み見ると、きみ仁いじりに失敗した彼は居心地悪さをごまかすようにひきつって、周りに合わせて笑っていた。彪の視線に気づいたネオが、「で、オルは結局どうすんの」とぞんざいに訊いてきた。
「………バニラアイスで」
ネオが頷き、ウエイトレスに手を上げる。
彪は久しぶりに、誰にいじられることなく、好物にありつけた。
きみ仁の話は、彪にとってはまさに冒険譚だった。
途方もない目標のもと、パーティを組んで未知の場所に行き、想定外の事態にはパーティメンバーと協力して対処し、時に迷惑をかけられ、迷惑をかけ、その度感謝と反省をしてまた次の未踏の地を目指す。
きみ仁の話の中で、蓮李=大飛は大発見をした偉い魔法使いではなく、我が儘で勝手で愚痴と弱音と小言を忌憚なく吐き、物事の好き嫌いが激しくて恥も遠慮なく癇癪を起こす、血の通ったひとりの人間だった。
甘味処を出て、街を案内する間も、ミッカは遠慮なくきみ仁に質問し、きみ仁は忌憚なく答え、興奮するミッカに便乗して全員が聞き入った。
「ここは薬草屋! 浄化木の葉っぱも扱ってるよ! 外から来たひとはお土産に買ってく事もあるみたい」
ミッカがはきはき説明した。
「ああでも蓮李先生が回復魔法使えるから、薬草とかは必要ないかな?」
「そんな事ない。回復魔法は頼りすぎると自己治癒能力にさわるから、濫用するものじゃない。小さい怪我なら薬草を使う。特に俺みたいな、体が未完成な人間は、回復魔法に頼りすぎるのは良くない」
「へええぇそうなんだあぁぁ!!! ああ〜、なんか冒険者って感じ!」
「そら、きみ仁は冒険者だからな」
トーヤが茶々を入れるが、ミッカと同じ気持ちでいるのは興奮で赤みを帯びた頰から伺えた。今や全員の目が、ミッカ同様輝いている。
彪は内心「俺が連れてきてやったんだぜ」と胸を張っていた。




