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三、見不(みず)のなまえ:きみ仁の巻

「こいつが、きみ仁。昨日会った冒険者。顔こんなだけどうつる病気じゃないから」

きみ仁は、彪のどこか誇らしげな紹介に、「初めまして」と微笑んだ。サラが「言い方!」と彪の脇に肘を入れた。きみ仁は今日はきちんと顔に包帯を巻いているが、逆にそれが病人感を醸している。実際のところは病人ではなくけが人だ。

彪の家に浄水タンクを直しに行ったら、彪とサラのほかに、3人の友人たちが待ち構えていたのだ。玄関を開けてきみ仁を迎え入れた彪は、揚々ときみ仁を紹介しだした。部屋は昨日よりだいぶ片付いていた。

きみ仁の挨拶に最初に反応したのは、眼鏡をかけた小柄な少年だった。ぱっと立ち上がって右手を差し出す。

「はじめまして! 光塚みつつか哉豊なりとよです! みんなミッカって呼ぶ! きみ仁くんもそう呼んで? よろしくね!」

きみ仁は、笑顔で差し出された手を握り返した。彪が隣でホッと息を吐く。

ミッカは大きな目を眼鏡ごときらめかせ、初対面らしい遠慮もどこ吹く風、興奮気味に両手で手をとりシェイクした。そばかすの散った顔は紅潮している。

「きみ仁くんは剣士? 顔痛そうだねぇどうしたの? 今日は、剣は?

ああ〜、なんか嬉しいなぁ、こんな、俺たちと年変わんないコが世界中旅してまわってるなんて!

世の中に不可能なんてないって気になる!」

きみ仁はそつなく返した。

「光栄です、ありがとう。俺は剣士ですが、街中では見えるところに佩刀はしません、目立つので。

顔の怪我はもう痛みません、戦闘中の事故です。前線で戦う職業ですから、よくあるんですよ」

「敬語なんていいよ〜! 大体同い年でしょ!」

大体同い年、というのは、何歳から何歳までの範囲だろう。それもう同い年って言わなくないか、という疑問の代わりに、きみ仁は嬉しそうな笑みを作る。細やかな変化こそ、人間関係構築の基本だ。

「そう。じゃあ、ミッカ。よろしく」

「よろしく〜!!!」

ミッカは放るように手を離した。

チ、と舌打ちがした。

一等体格の良い少年がこちらを睨んでいる。

「俺はトーヤ。透夜真継(とおやまつぐ)。こっちは崎裏(さきうら)単緒(かさねお)。ネオでいいから」

トーヤが、一歩後ろに控えていた短髪の少年をぞんざいにさした。ネオはひょうろりとした体できみ仁を見下ろし、ぺこりと頭を下げた。はかるようにじっと見てくる。

(警戒心が、強いタイプだろうか)

「さきうら……」

きみ仁は、少し驚いたようにネオを見返してみせた。ネオが首を傾げる。ミッカが「どうかした?」ときみ仁を覗き込んだ。

「いや……失礼。雅な音だと思って。俺の地元にそういう木がある。それはきれいに花をつけるのにあっという間に散らせてしまう。だから潔さの象徴としても語られる。麗しく咲くと書いて、咲麗(さきうら)

少し懐かしくなった」

ネオは少し照れたように俯くと、「その話、ばあちゃんが喜びそう。うち、生薬とか扱うから……どんな木?」とぼそぼそ問うてきた。

きみ仁が答えようとすると、サラが遮る。

「桜っていう木。咲麗(さきうら)は桜の語源と目される言葉の一つ。あくまでそういう説があるってだけの話!」

サラはぶっきらぼうに続けた。「嫌いなんだよなー私、満開になるとぼたぼたして重っ苦しいのにみーんな騙されて大喜びしてさー、花も葉っぱも散らかすし、毛虫だってわくし、登ったら折れるし」

きみ仁は苦笑すると、懐から帳面と筆記具を出して、「こんなの」と描いてみせた。

みなが帳面の周りに集まる。

そして覗き込んだ瞬間に、言葉を失った。

次に、互いに顔を見合わせる。もしや心当たりがあるのだろうか……この辺りが桜の咲く環境とは思えないのだが。あるなら是非とも見に行きたい。

「きみ仁……」

意を決したように、彪が呼びかける。どこか少し、ためらいがちな声だった。

きみ仁は、なんとなく居住まいを正した。

彪がつばを飲み込むのが見えた。

「これ木? その……砂じゃなく?」




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