ぷろろーぐ:でこぼこみちでもいく
セリアは砂の上で白む空気を見ながら、涙が湧くのを感じた。
また今日が始まったんだと思った。
昨日と同じ、どうしようもない事に、どうにかしようと挑みかかる日だ。
おとなの半分の大きさの手で。
**
抹元は妻子を思うことで胸に暖をとり、笑顔を浮かべた。
「へらついてんじゃねーよ白篭族。先祖同様、盗みに成功したのか?
両手あげろ、ボディチェックしてやるから潔白だったらさっさと出てけ」
馬車を止めた門番が、臭う雑巾にするように、抹元に向かって両手を伸ばした。
お手間とらせます! 抹元は天を射るように両手を挙げた。
**
きみ仁はフードを被り直し、御者席を降りて真直ぐに立つと、礫砂漠に敷かれた街道を見据えた。
風化した道は旭に向かってのび、果ては光にかくされてわからない。街道脇に等間隔で立てられた柱の頂部に、灯篭の灯が灯篭守りに消される刻限を待っている。
ピアスで針山のような耳は、門番が抹元にかける言葉を拾っていた。
馬車を負って待つ馬が不安そうに前足を揺らしたので、いたわるように撫でる。
「車輪。取られないようにするから」
**
蓮李は。
蓮李=大飛は、馬車の中で爆睡していた。
走行中にばらばらになりそうな馬車の、硬い座面に長身を畳んで横たえ、酒の抜け切らない寝息を吐いた。
しあわせな夢を見ていた。
いたいけな子ども達が蓮李を囲んで、柔らかそうなほっぺを上気させながら、黄色い声で戯れている夢だ。
うぇへへへ、と寝言が漏れた。
夢の中で、蓮李は胸の高鳴りで心肺停止するんじゃないかと思うほどときめいていた。