8話(ネコおじさん)
前回、私はトパーズに会えなかったことで、ひどく落ち込んでいた。自宅へ帰り着いても『きっと、もうどこかへ行ってしまったに違いない』とか『事故にでも遭ってしまったのかも』など、よからぬ想像をして、いてもたってもいられなかった。
「ダメだ! トパーズの生存確認をしなければ落ち着かない」
そう思い立つと、私は数日後再びお寺へ出かけた。
境内は季節柄、人手が多くにぎやかだった。私はひたすらトパーズを探した。そして意外と人がやってこない穴場の広場へ向かい、『チェッ、チェッ、チェッ、チェッ』と舌先を鳴らし呼んでみる。するとトパーズが奥の茂みからひょっこり顔を出した。
「いたー! 生きていた! 良かった!」
と、私は心の中で大泣きしながらトパーズに飛びついた。
「この間は、どうしたの? 心配したんだよ~」と、会えなかった心の内を切々とトパーズに訴えた。
トパーズの生存確認をした私はすっかりご機嫌になり、しばらく広場のベンチで一緒に過ごす。やがて昼になり、自転車に乗ったオジサンがやってくる。オジサンを見たトパーズは、膝の上から飛びおりると、オジサンの元へ走っていく。
「あっ、トパーズ!」
私はすぐにトパーズの後を追う。トパーズはオジサンの足元で何かを待っていた。
「今やるから待ってろ」
そう言うと、オジサンはトイレ棟の裏にネコのえさを置いた。す
すかさずトパーズがそれにありつく。
「こんにちは。あの……ネコちゃんにえさをあげているんですか?」
私はオジサンのことが気になり声をかける。
「ああ。こいつらにえさをやりにな。それとゴミが落ちているだろう」そう言いながら、オジサンは広場に落ちていたタバコの吸い殻を拾い上げる。オジサンは決してダンディとはいいがたい、メガネをかけた白髪の年配のオジサンだった。
「ほらっ、あそこの茂みにも子猫がいるんだ
そう言ってオジサンは、大きな袋を手に茂みの中へと消えていく。昼ごはんを食べ終えたトパーズは満足そうに舌舐めずりをしていた。
「ネコおじさんだ……」こうしてネコおじさんとの出会いが始まる。