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愛しのカウンセラー  作者: 高遠リョウ
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7話(会えないとき)

5月、新緑の木々が色づいている中、私は愛しの猫ちゃんこと、トパーズに会いにお寺へ出かける支度をする。そろそろ仕事のことも何とかしなければいけない、そんな不安やモヤモヤ感を払拭したいという気持ちもあった。トパーズのぬくもりに触れるだけで、そんなネガティブな思考を吹き飛ばすことができたからだ。トパーズに会えるだけで『頑張ろう』という気持ちになれた。


いつものようにお寺へ着くと、トパーズの姿を探す。でもこの日は、いつもと様子が違った。境内はどこを見渡しても写生会に来た地元中学生の姿でにぎわっていた。

「まいったな……これじゃ、トパーズも見つからないかもしれない」

そんな嫌な予感が一瞬よぎる。私はトパーズが身を潜めていそうな場所を探し回る。

「トパーズ、トパーズ……」

私の声が聞こえるとは思っていなかったが、それでも会えることを信じて探し続けた。


しかしこの日はやはり、トパーズの姿はおろか鳴き声さえも聞こえてはこなかった。代わりといっては何だが、お寺に出入りするボス猫のトラちゃんが私のそばへすり寄ってきた。

「君は誰にでも懐くんだねえ……」

ゴロン、ゴロンと私の前で寝返りを打ち、猛烈にかまってちゃんアピールを炸裂させる。

「仕方がない。おまえさんと今日は遊ぶとするか」 

そう言って私はトラちゃんの頭を撫でてやる。

でもトラちゃんも気まぐれな猫ちゃんで、私に愛嬌をふりまいたと思ったら、すぐに猫パトロールへと出かけていってしまう。


時計を見ると、バスの時刻が迫っていた。お寺へ来て2時間半が経過していた。ぼんやりと気温が上がった境内でふと手水舎の方へと視線を泳がせる。トパーズがよく水を求めてやってくる場所だ。ふいに姿を見せないか手水舎を観察するが、写生に飽きた中学生がバタバタと目の前を走り去るばかりで、この日はとうとうトパーズには会えなかった。

バス停までの帰り道、私は落ち込んだ気持ちを立て直すことができずにヨロヨロと快晴の空の下を歩いていた。

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