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愛しのカウンセラー  作者: 高遠リョウ
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4話(桜散る)

寺の桜が開花して1週間が過ぎ、私はまた猫ちゃんの元へと急いでいた。

まだ桜は咲いている。また一緒に花見をしたい、そんな淡い期待を胸に境内まで小走りになる。

参拝客の合間をぬって猫ちゃんを探す。天気は上々、猫ちゃんもいるはず……が30分探し回っても姿が見えない。

不安になった私は少しだけ落ち込み始める。でも、そんな私に猫センサーはきっちりと反応してくれた。なぜか広場の方が気にかかり、ふとのぞいてみると、やはり猫ちゃんはそこにいた。


ホッとした私は涙目で近づく。

「また会えたね、探したんだよ」

私の心中を察してか、猫ちゃんはあくびをしながら「ニャーン」とひと鳴きする。広場のベンチに腰をおろすと、すかさず定位置に猫ちゃんが飛び乗る。

「はあ~ 幸せ……幸せ」

猫ちゃんの重みが心地良い。桜の花びらがひらひらと散ってゆく。

「もう桜も終わりだねえ」そうつぶやいて猫ちゃんの頭を撫でてやる。

と、そこへ桜にも劣らぬ美しいカップルがやってくる。またまた花嫁さんと花婿さんの登場だ。国宝に指定されてからは、お寺のご利益と人気にあやかってか、こういった撮影も以前にも増してずいぶん増えた。


「きれいだねえ……」

近くにいた高齢のご婦人に話しかけられる。

「おたくの猫かい?」

老婦人が目を細め猫ちゃんのことを聞く。

「いえ、ここによくいる猫ちゃんみたいで」と答えをにごす。そういえばこの猫ちゃん、よく見れば首輪もしていないし、まるで野良のようだった。でも寺に来れば会えるということは、寺猫? そんな疑問を胸に私は猫ちゃんのふくよかな体を愛おしそうにさらに撫で回す。


こうして、私と名も知らぬ猫ちゃんとの花見はあっという間に終わってしまう。

「次に来る時は、もう桜は散っているねえ」

そう言って私は、名残惜しそうに桜の木を見上げた。


つづく

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