3話(桜咲く)
4月に入ると桜の花も開花し、誰もが浮き足立った陽気が続く。窓の外を見れば天気は良好、こんな日はまさにネコ日和だ。そう思い立った私は、あの猫ちゃんとの約束を守るために花見に出かけることにする。
「会えるかな、たぶんいるよな~」と、そんな期待を胸にバスに乗る。寺に着くと、やはり桜の開花に合わせ、大勢の参拝客で境内はにぎわっていた。私は桜の花は後回しといわんばかりに猫ちゃんを探す。
「いないなあ……どこだろう?」参道でゴロンゴロンしている他の猫を横目に、さらにあの猫ちゃんの捜索に乗り出す。春の日差しが心地良く、とても暖かい。
「早く会いたい」そんな気持ちで胸がいっぱいになる。探し始めて1時間ほどたった頃、猫ちゃんがカップルにかわいがられているのをようやく見つける。しかし、カップルの間に割って入ることもできず、私はカップルが立ち去るのをじっと待ち続けた。
「早く触りたいなあ……まだかなあ」と、いい年をしたオバちゃんが、一匹の猫にすっかり骨抜きにされていた。そして待つこと、さらに30分。猫ちゃんはやっと自由の身になり私の元へ!
「良かった、今日も会えたねえ。本当に良かった」と、猫ちゃんにスリスリ攻撃をする私。
「そうだ、花見をしよう!」そう言って私は、もっとも見晴らしの良い参道脇のベンチを陣取ると、猫ちゃんも膝の上へヒョイっと乗ってくる。「いい眺めだねえ……」猫ちゃんを膝に乗せ、桜を愛でるその瞬間、このまま時間が止まってしまえばいいのにと、そんなふうに考えてしまう。
そしてこんな日にはハッピーなサプライズも。ひと組みの花嫁さんと花婿さんの写真撮影がちょうどこの日は行われていた。幸せ色の桜をバックにさらに幸せ気分で満たされる。猫ちゃんとの至福の時間に私は癒されまくり、素敵な花見タイムはあっという間に過ぎていく。桜はまだ咲いたばかりだ。猫ちゃんとの花見は、まだまだ楽しめそうだった。
つづく