track
あの人がいた。
向こうも気づいてるみたい。
あの女性もいた。
こっちも気づいてる。
でもあの女性はすぐにあの人の方を見た。
恋する少女みたいに。
あるいは獲物を狙う獣みたいに。
あの人は気づいてるのかな?
近くまできた。
久しぶりと言われた。
最近会ったばっかなのに。
うんと返す。
最近会ったばっかなのに。
あの人が苦笑した。
こないだ会ったばかりだろうと。
あの人が言い出したのに。
うんと返す。
話が終わる。
視線をずらす。
……いた。
あの女性がこっちを見てる。
迷ってるみたい。
指をさしてあの人に教える。
気づいてただろうけど。
あの人が苦笑した。
いつも通りさと。
私はあの女性の方に歩いた。
あの人がついてくる。
あの女性が慌てた。
やぁとあの人が話しかける。
こんばんはとあの女性が返す。
少しどもっていたかな。
今日はとあの人が言いかける。
携帯が鳴った。
私のだ。
あの人のもだった。
確認する。
メールだった。
次の依頼だ。
ここから近い。
対象は……。
泣きそうになった。
あの人がどうしたんだいと心配してきた。
黙って背中の鞄を指差す。
声を出したら泣きそうだったから。
代わろうかとあの人が言った。
首を横に振る。
殺人の依頼に誰が殺すかは関係無い。
手段も。
対象の死が重要だから。
それが全てだから。
でもあの人には頼らない。
他の誰にも。
私がやるべきだから。
私の背負うべきものだから。
そして何より、一度頼ったらもう自分ではできなそうだから。
あの女性が抱きしめてきた。
温かい。
涙が漏れた。
声は出さなかった。
あの女性が頭を撫でた。
優しく、慈しむように。
しばらく泣いて落ち着いた。
あの女性が離れた。
もう大丈夫そうねと言って。
そういえば…とあの人が言った。
そして尋ねてきた。
あの狙撃手は君かと。
一瞬迷った。
なんのことか分からなかったから。
そして気づく。
さっきのアレのことだと。
私は頷く。
あの人が笑った。
危うく死ぬところだったと。
射線上にいたのかな。
依頼が被ってるからと言って撃たないでほしいな。
あの人が言った。
それで気づいた。
私は外したのだ。
そして謝る。
そのつもりはなかったとも言った。
あの人は許してくれた。
次の依頼も被ってるのかな。
あの人がそう言って携帯を、依頼内容を見せてきた。
…また同じだった。
頷いて返す。
あの人が考え始める。
少しして口を開いた。
チームを組まないか。
私は頷く。
あの人があの女性の方を向く。
あの女性も誘うみたい。
あの女性が慌てる。
さっき抱きしめてくれた人とは思えないくらいに。
最後には頷いた。
チーム名はどうしようか。
あの人が尋ねる。
trioとあの女性が提案する。
三人組だからか。
あの人が苦笑する。
三つ巴と私が提案する。
特に意味はない。
三という数字で思い浮かんだだけだから。
あの人はまた苦笑した。
trackとあの女性が提案した。
あの人は首をひねる。
そして提案する。
trioとtrackを合わせてtroikaにしようと。
私は頷く。
正直、なんでも良かったから。
あの女性も頷いた。
あの人が宣言する。
じゃあ今から僕たちはtroikaだ、と。