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ダスボート・ガール! 01


 今年で十八歳になったばかりのヴィルヘルミナには、ひとつの夢があった。


 将来、自分の手で雑貨屋を経営したいというものだ。

 いささか我の強いところがあるヴィルヘルミナは、両親から資金援助を受けようと考えてはいなかった。自分の個人的な将来の夢のために両親に無理はさせられないと思っていたのだ。


 そこで彼女は、働きながら効率的に貯金が出来る就職先はどこかと考え、二等水兵勤務士官候補生に志願した。

 海軍に限らず、不況の世の中にあって水兵の給料はとても安い事で知られていたけれど、士官になるのなら話は別だ。


 最初の半年は他の志願兵と一緒に海兵団で訓練を受けるが、その後は海軍兵学校に入校し、やがて士官になる。

 それに他の陸空軍と違って、海軍は(フネ)に乗り込んでいる限りは物理的に無駄遣いする事ができなくなるのも魅力的だった。


 いつまで海軍の世話になるかはまだ決めかねていたが、退役した後はヴィルヘルミナにまとまった貯金をもたらしてくれるはずだった。

 海軍士官といえばエリートの代名詞でもあるし、世間でも大卒と同じ学歴だとみなされるのも将来にとっては悪くない。


 そんなヴィルヘルミナは現在、十二週間にわたる海兵団の教育訓練課程を終えて同期の新米水兵たちと実習航海課程のために潜水艦へと乗り込んでいたのである。

 この実習航海を終えればヴィルヘルミナも晴れて海軍兵学校へ入校出来るのだ。


 けれども彼女の心は憂鬱そのものだった。

 それもそのはず。新人を現役艦艇に乗り組ませる目的は、海軍の日常業務をいかに効率的に覚えさせられるかである。


 実習航海のために新米水兵を受け入れた潜水艦〈キルベルン〉は、キルン海軍基地を出港すると、実習要員たちにあらゆる雑務を申しつけたのだ。

 新米の水兵が現役潜水艦〈キルベルン〉で出来る事はたかが知れている。乗組員の補助や掃除を命じられたり、あるいは見張員として哨戒任務に駆り出される事である。


    ★


 今現在、ヴィルヘルミナはまさに見張員として、決して広いとは言えない〈キルベルン〉の艦橋(セイルマスト)に立って、キルケとともに周辺海域の監視任務にあたっていた。


 キルン軍港を出港した〈キルベルン〉は運河を通過し、外洋たる荒海(こう かい)を目指した。交通量の多い運河を通過中は熟練の見張員がその任務にあたっていたけれど、いったん運河を通過し終えると、実習航海のために参加していた新兵たちがその任務を引き継いだのである。


 日没時刻を過ぎて〈キルベルン〉の視界は徐々に奪われ、急激に冷え込んでいった。

 見張員に与えられるのは双眼鏡と、無いよりはマシな甲板作業用の防水コートだけである。

 そして傍らには教育担当のキルケが、片時も彼女の行動を見逃すまいと見張っている。


「ほんと、最悪だわ……」


 小さくボソリとヴィルヘルミナは本音を漏らした。


「何か言ったかヴィルヘルミナ二等水兵」

「……いいえ、何でもありませんキルケ兵曹殿」


 正確にはヴィルヘルミナは二等水兵勤務士官候補生だが、海軍兵学校に入るまではただの水兵扱いだ。

 海軍は階級(ホシ)の数より(メンコ)の数だから、ただの水兵から見たキルケは神様である。


「今は任務中だぞヴィルヘルミナ。無駄口を叩いている暇があったら、その糞の役にも立ちゃしねぇ目玉(アイボールセンサー)で周囲をしっかりと監視しろ。ここから先は漁船が多く出張ってきている海域だから、万が一にも接触事故を起こすわけにはいかないからな」


 そんな説教臭い事を言ってくるキルケ。


「……了解であります、キルケ兵曹殿」


 内心の不満をヴィルヘルミナはぐっと堪えて返事をした。


「おう、いい返事だなヴィルヘルミナ二等水兵」

「…………」



次回更新は明日午前10時です!

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