2100.5.19 富山
富山は、二本の角を生やした鬼の頭のような形している。右側が北峰で349m。左側が南峰で342mだ。
最寄りの駅は南房総市、海沿いの岩井駅。ハイキングするならここからスタートするのが正道だろう。で、この海側(西側)を山の正面と仮にすると、背面にあたる東側には、頂上まで(正確には二峰の鞍部にまで)舗装道路が通じてあり――これは、山の正面から段差のキッついキッつい登山道を真面目にえんえん2時間かけてヒイコラよじ登ってきた者を最後の最後で愕然とさせる、とってもエゲツない仕組みとなっているのであった。
今、東側から攻める俺らは当然至極、フツーにその舗装林道をありがたく遠慮なく使わせていただく。加えて今、斜度も浅くなっている。足取りも軽やかに駆け上がったのだった。
鞍部到達。目指すは当然、最高峰たる北峰である。
南北方向はほぼ水平移動だ。俺らは100mを歩き、ついにその領域に足を踏み入れたのだった。
「推参――」
丸く開けた山頂公園。
武者震い。
われ人の子なれど、わが勇気と力をもちて強王の前に押し進む。
どうしようもなく、にやけてしまう。
顔の筋肉が不遜につり上がるのを自覚する。
不敵に見やるその先に――
公園の、その向こう端の、平らかに安定するその場所に――奴らがいた。
この旅のラスボスが8体、火を囲み、車座に座り、俺を――俺らを、待ち構えていたのだった!
房総半島――
安房国、富山(とやま)――とくれば。
そのキャラがなんだか、もうお分かりだろう。そう、超有名タレント――
『南総里見八太伝』の、マッスルムキムキな、素敵な皆様方だったんです。
「待ァちかねたわェえええええィィィ……ッ」今ひとりが酒杯を放り捨て、膝を立て、白足袋、わらじ履きの片足を地にたんッと着き、歌舞伎のように見得を切り、ギョロリと目を剥き、雷のような大音声を発する。
それを合図に各々、刀を取り弓を取り、薙刀、槍を取り、さながら舞のごとくにひとさし振るや、ピタリと形を極め付ける。やァやァ――!
「太江親兵衛仁」
「太川荘助義任」
「太村大角礼儀」
「太坂毛野胤智」
「太山道節忠与」
「太飼現八信道」
「太塚信乃戍孝」
「太田小文吾悌順」
堂々、豪奢に名乗りを上げたのだった。堪らず俺は一歩踏み出て応えたのだ。
「日小里組組頭、日小里ショウタ――!」
おおう――!
――!
「彼らが今まで酒肴にしていたものをご覧ください……」
トノが囁いてくる。火の上で串刺しにされ、ジュウジュウと脂を滴らせている肉の塊は、どうにも恐竜のように見えたのだった。
「ティラノサウルス……。私の世界では現存で、しかも史上最強野獣として恐れられているんです。それが、あんなに美味しそうに……」顔が青ざめて(?)いる。
どう慰めたものか悩むところだ。
「ダンジョン史は50年を越える。対して新参1.5年では、アドバンテージは簡単に埋められないんだろう」
「ぐううむ……」
「で、どのようにするのかぇ?」エマが今一度、確認を求める。
俺は特に、トノに、そしてぜんぴまろ様に理解してもらえるよう答えた。
「ラスボス突破はチームのカラーにより、あるいは状況により毎回かわります。ケースバイケースです。現代の重火器による圧倒的攻撃力でもって相手を跡形もなく粉砕することもありますし、それじゃつまらんと、相手と相応の武力でガチ勝負を楽しむことも多々あります。
逆に争いを拒否し、ハイスピードですり抜けて行っちゃうことも全然アリです。思想、信念の違いなんです。これが正しい、というものはない。
今回は歓迎ケイビングということもあり、穏やかに、平和的に、戦闘を回避してもよかったんですが、それだとラスボスの“お宝”がゲットできません。つまらない、とまでは言いませんが……チーム・ニコリの新人歓迎会としては、正直、物足りない。少し、さみしい思いがするのが、否めません。
ここら辺で我がチームの実力を見せつけ、誇ってみたい所でもありますし。
ですから――挑みます。
血を見るような野蛮なことをせずに、われらがチーム、新人トノに益々ホレてもらえるよう、スマートに制圧してご覧にいれたいと思います」
「その意気やよし」
ぜんぴまろ様がニコリとされ、合掌しつつ、さらに問いの言葉をかけてきたのだった。
「具体的にはどうされますのじゃ?」
当然の質問に、俺もまた晴れやかな顔で答える。合掌し返し、
「脅迫します」
うしろで皆が、ずっこけて尻餅をついたのだった。




