2100.5.19 ゲスト
翌、am4:55。
快晴の、青白む空のもと、俺らは息を合わせたようにかまどの前に集合した。
静かに、おはようの挨拶。ご苦労さんと言葉をかけ、気だるげなエマ、ヨコヅナとバトンタッチする。とくに会話もなく、二人はわざとらしく、眠そうにテントに歩いて行ったのだった……。
席に座り、あらためて火に薪をくれた。
「どうです? ひょっとして低血圧とか、またはチーム行動とか、何かキツい所あったりはしませんでしたか?」
気遣ってみたのだった。相手はまるで余裕なふうに応える。
「問題ありません。もう暖かいですしね。こんなとき爬虫類人の体はポテンシャルが尋常じゃないのです。やろうと思ったら、一週間くらい平気で徹夜できますよ」
「それはそれは」うらやましい。くしゃみする。
ぱちぱちと火が音を立てた。ヤカンを見ると、たっぷりのお湯になっている。自然、俺は習性で、コーヒーを淹れる作業をはじめていたのだった。あっ、と気づいて振り向く。朝っぱらからコーヒー、大丈夫ですか、と尋ねる。トノはこくん、と頷いたのだった。そして、分かってるふうに微笑するのだ。
俺はもう訊くことにした。
「――メンバー、どう思いました?」
トノは一呼吸おいてから答えはじめた。
「年長組は崩れそうで崩れませんね。なかなか芯がしっかりしている。さすが身分はダテではなかった。リラックスしてるふうで、役目を忘れていない。事実、近づけなかったですね。(微笑)
逆に若年組は、見張りとしては、少々隙が目立ちました。これは貴方に守られた、平和なチームだという証拠と言えるでしょう。
あの二人、無邪気におしゃべりを楽しむ姿を見てて、こちらもほっこりとされられましたよ。――知ってました? マーチ君といっしょに遊ぶことを“火遊び”。ミラ君で遊ぶことを“水遊び”と言うんですって。うーん、まこと若い人は言葉づくりが巧みだ」
紳士的に笑う。俺は苦笑する。
「覗き見とは、なかなか高雅な趣味をお持ちだ。二人には、それとなく指導しときましょう。――それにしてもマーチのやつは、ちと口が過ぎるようだ」
「口が素直なのは人が素直だからでしょう」
そして続けて言った。
「今回のシフト、私の人としての資質を計るためのものでしょう?」
「……」
「見張りをわざわざ危険な“すくみ”のペアにしたのは、最後、私と貴殿のペアを、さりげなく実現するためだ。むろん、怠りはない。今もきちんと、エマ嬢の監視の目が注がれているはずです」
苦笑いして、それへの答とする。トノは満足げに続けた。
「そして、これは私も同様に主張したいことなのです。私だって皆さんのことが知りたい。この一夜は、貴方がたの人間性を見せていただくよい機会を与えてもらった、と解釈しています」
コーヒーに口を付けた。トノもそうする。
美味しいです。ありがとう。
「ちなみに、バディを組むとして、誰と、“合いそう”と感じられました?」
よどみなく即答する。
「エマ嬢。魅力的(笑)。あの子は、“おっかない”」
「裏ボスですからね」
「チーム・ニコリ。よくこれだけのメンツが揃ったものです」
これには深く同意である。頷いて、そして意を決して言葉にしたのだった。
「貴方もその一員なんですよ。おかげで、ロイヤルストレートフラッシュの完成です。それも、文字どおりの“ロイヤル”だ」
トノは居住まいを正して一つ、低頭したのだった。
「あらためて、名誉なことと受け止めましょう。というわけでリーダー、もうそろそろ丁寧語は結構です」
俺は、相応しくあれと、応じたのだった。
「こちらのこともショウと呼び捨てで。では、トノ。気づいていると思うけど」
「ええ、お客さん、ですね」
二人して顔を未明の林に向ける。やがてガサガサと――
そこから焚き火の明かりの前に現れた一人のパーソンを、二人して恭しく、立ち上がって迎えたのだった。
「どうぞ、ようこそ……」
am7時すぎ。
俺は皆の前でその人物の肩に手をやり、紹介した。
「“ゲスト”だ」
その人物はペコリとお辞儀する。愛嬌のある笑顔で、可愛らしいハキハキした声で語り出した。
「はじめまして。名を“ぜんぴまろ”と申します。ようやく皆様に追いつけました。どうぞ御旅の後尾にお加えくだされませ。よろしゅうお願い申し上げます」両手を合わせて一礼する。
白い着物に黒い旅袴。くりくり坊主。
小僧様であった。
そして、博学な皆である。“ぜんぴまろ”の名に、大いに目を丸くさせていたのだった。
にやけそうになるのを堪える。えへん、と咳をし、軽く説明した。
「旅のラスボスは有名人なんだけどな。今回はスタート地点にも、タレントがいらっしゃった、てことだ。よろしく頼む。
じゃ、朝飯にかかろうぜ!」
いよいよ旅のゴールに向けて、俺は朝一番の号令をかけたのだった。




