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2100.5.18 歓迎パーティ

 国道410号から再び分離し、県道89号を先へと進んだ。

 つくづく、千葉県はなだらかである。おかげで条件がいい所がなかなか見つからず、そうこうしてるうちに時間も時間だし、次に現れた名もない里山の、(こちら)側の中腹(つまりはほぼ水平面)にてキャンプを張ることにしたのだった。


 まず、かまどの位置を決め、そこを中央とした。各人のテントを周囲に適当に距離を開けて設置する。今回はわざと遠めにした。それは隠しサインで、旧来メンバーはさりげなく同様の位置取りをする。そんな皆にトノは無意識につられて――逆に都合よさげに――鼻歌まじりに自分のテントを遠慮なく、藪の中、奥側に張ったのだった。


 火を起こし、鍋をかけ――

 闇の中、赤々と照らされる皆の顔。雰囲気がよろしくなる。

 さっそく、各世界で一番流行ってる歌の披露とか、時事ニュース、ヤバいネタ話とか(立場がらみでワンサカと)出た。こういうときイキイキとしだすのがマーチでありエマであり、ミラ、アキラ、ヨコヅナ、そしてトノも身を乗り出すほどのノリノリさで、ようするに全員なのだった。

 ヨコヅナのダンスなんか初めて見た。笑い転げちまったよ。あんなまね、()()()()()()()()()()()()()()だろうさ!

(そのあとエマが踊ろうとし、俺は風紀の掟を強引に発動しなければならなくなり、頭を抱えるハメになったのはよい思い出になってくれるのだろうか? いやシャレにならんのだ)

 今の時代、伝統文化の継承という意味合いしかない“アルコールの香りを楽しむ”ことも、(仕方なく)少しだけは解禁した。大歓迎するアダルト組で、そんなわけで鍋を囲んでのパーティは、(途中、トノのチョンボもあったものの、かえって)大変な盛り上がりを見せたのだった。


 記念すべき夜を、大トリとしてシメてくれと、リーダー(おれ)に一興を求める声が出て慌ててしまった。なにか一芸を披露せよと言われてもだ、トリックの他に見世物はないし、それなら俺よりうまい奴がいる。かといって無難に歌なんてガラじゃないし、じっさい人に聞かせられるノドではないことを、悲痛なまでに自覚してる。(なぜニヤニヤしてる? アネゴ!)

 せっつかれて焦っていると、主役たるトノから助け舟が出た。

「得意だという“ポエム”を一つ、披露してみたらいかがでしょう」

「う……」

 残りの皆がそれこそあっという間に賛同してしまい、さらに汗の量が増える状況に追い込まれたのだった。

 詩作なんて、即興でできることでない。特に俺にとっては。「うう……」

 ところが困り果てる寸前になって、アイデアが浮かんだのだ。


 俺は隠しポケットからお守り袋を取り出すと、中から“それ”を出して、みなに見せた。息をのむような、低い驚きの声があがる。そりゃそうだろう、それは、“プラチナコイン”だったのだから。

「――それって、噂に聞く、“旅人のコイン”なのでしょうか?」

「そうです」

 皆は、俺の実家が、()()()()()()()1()km()()()()()小さな温泉旅館だということを、知っている。

「しかも“プラチナ”」

「そうだ、ね」

「――」

 絶句である。そりゃそうだろう、それが意味するものを覚えてしまえばだ。

「もう15年くらい前のことだ。チビッコだった俺にはもう、ぼんやりとした記憶しかないんだが、一人の旅人が、リアルで、ウチに宿泊してくれたんだ。

 どういうわけだか、俺はその人に懐いてしまって、とどのつまり一つの約束を交わしたのさ。

 俺は、おじさんのような旅人になる。(おじさん、と呼ばれてしょげてたな)

 だからおじさんは、今度は、旅人(ケイバー)として、ふたたびこの旅館に泊まってくれること!

 そして数か月後、我が家の帳場に、このコインが、()()()()()()()にされてあったのさ」

 みな、ことの重さに押しつぶされている。ただ一人、トノだけが、これが新人の強みというものか、言葉を発したのだった。

「ケイバー・ショウの、ルーツ。そのお方は、いわばお師匠さんなわけですね」

「そうなるなぁ……」

「大変感慨深いお話を聞かせて頂きました。で、すが……。そもそものリクエストとは、どうゆう関連があるのでしょう」

「その人は、俺の旅人としての師匠てことになるが、同時に詩作の師匠でもあったんだよ」

「がぜん興味深くなりました!」

「今も続けているけど、そのころ、ロビーに、“旅ノート”を置いてたのさ。そこにおじさんが記帳してくれた、詩、らしきモノが、俺の詩の原点となった。

 今宵はそれを、紹介しようと思う――」

 謹聴、謹聴というわざとらしい声が笑顔とともに飛び交う。焚き火を反射し、闇夜に妖しいまでにきらめくコインを再び袋の中に戻し、俺は一口喉を湿らす。やおら語り始めたのだった。

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