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2100.5.18 市境

 ――フジ・エンジンは今日も平和に光球を降下させ続けている。

 いま光球は、底に消えた瞬間、即、天井に生じていて、つまり合間なく稼働していた。インターバルがないその有様は、何より()()が、平行世界すべてが融合された共通空間なのであることを、如実に知らしめていたのだった。


 県道89号は本格的に山の中に入って行き、上下左右に――いや前後左右にうねまくりはじめた。幅も狭くなる。垂直(まっすぐ)に突き進むことができなくなり、自然とペースが落ちたのだった。突っ切るわけいかない。忍耐を強いられる。――知らない人は分からないと思うが、説明すると、山って、それも多様な木々が生い茂る山なんて、なかなかに山中を突破できるものでないのだ。それが例え里山だとしてもだ。その植生の分厚さを軽んじてはだめ。お疑いなら、一度、お近くの森に、お出かけになってみたらいい。そして突破を試みてみたらいい。一発でわかるだろうから。(その際は、ちゃんと長袖、長ズボンを着用することです)


 現実、緑が豊かな地方の旅は、舗装道路を頼りにするしかない。今、その通路(ルート)が狭くなって、自然とチームのスピードが落ちたのだった。

 でも、急ぐ旅ではないし、今回は、チョット都合もある。安全を優先させて、一人ずつゆっくりと降下(ディセント)を繰り返した。

 ヨコヅナとトノはあえて藪の中に突入していたが、彼らは、まぁ、ほっとけばいい。


 鴨川市の市境を南房総市に抜けた。境は峠で、当然だか現世だとここから()()となる。いま道は、ますます()となり、ますますの神経を求められたのだった。見た目の景色から錯覚し、平地のつもりで足を進めれば、容赦なくスリップを誘われ、地面たる壁面に身体を打ち付けることになる。

 ほどなく、県道は国道410号と合流。

 その先へ少し進んだところで、足がとまった。

「うわ……」

 皆の口から異口同音の言葉が出る。

 その先、一面の泥土だった。

 安房中央(あわちゅうおう)ダムを始めとする近在のダム湖が全部、その水瓶をぶちまけ、山を洗い谷を流したのだろう。行く手は見事にぬかるみの大地だった。これがあるから山間のルートは侮れない。しぶとい魚がエラ呼吸している。土の匂いが5月の日差しにぷんぷん立ちこめている――


 そもそも今回のステージは、地形的、距離的に、半日もあれば余裕で走破できる難易度が低いステージだった。

 何とならば、今回の趣旨は、歓迎ケイビングであり、チームの一通りのことを、できるだけ楽しんで体験してもらいたかったからだ。そのためにここを選んだのである。

 だから、朝も遅めの出発だったし、わざわざ一泊もする。この旨はあらかじめメンバーに伝えてあり同意もしてもらっている。

 皆に心の余裕があったのは確かだった。

「――大丈夫、この規模なら数時間で問題なく乾く。それまで大休止を取ります」

 俺は半分ホッとしながら宣言した。

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