note ダンジョン (6)ステージ
お待ちかね、さぁ――
ゲートイン後の世界だ。そこには貴方だけの世界が広がっている!
その領域は日本全土!(ゾーンアウトを問わなくば!)
現在時のニッポンから、ヒトだけが取り除かれた、人によっては欲望にまみれたユートピアな世界が、貴方の目の前に無防備に横たわっている。そう、何をしたっていい! 物もヒミツも、盗り放題だ――!
異空間が日本人限定なのが多少のなぐさめ。(苦笑)
10世界が融合してるんで、一つとしてマトモなモノはないんだろうけど、逆に価値が高まったアイテムなんかが見つかることもあるんだし。
トレジャーハンターなんて職業が自然発生したゆえんである。(代表は、かつてのチーム・サタン)
まさにこれぞ異空間、だと言えよう。……そうかな?(笑)
いや――?
いや――!
違う。なんと言っても――
異空間を異空間たらしめている最大の特徴は、なんと言ってもだ――
大地が――
日本全土が――傾斜してる、てことだろうさ!
スタート地点からゴール地点方向へ、直線が真っ直ぐ落ちる方向に、大地が36°、傾いているのである!
――いやスマン、本当にすまん。誤解を与えた。
ゲートイン直後、眼前に広がるその光景はまったく尋常たるものだ。今までの景色がそのまま(水平に)続いているだけで、どこも変わって見えてる所はない。
ただ、その後。
5、6歩前進したところで――ちなみにこの狭い平地領域を“テラス”という――突如、その作用に襲われて、あなたはイヤでも思い知らされることになる。
重力の引く向きが、“直下”90°から、“前方斜め下”、正確に54°斜め下方向に、変転してしまったことを、だ。
これは体感的に、大地の傾きが、前方に36°沈み込んでしまっているということ。
水平面と信じていた平地の上で、地平線の向こうへと、重力によって引きずられるという怪奇現象に急襲され、平衡感覚が狂わされた貴方は否応なくパニックに襲われる。
順応が遅れ、実際に転げ落ちる人もいる。
かろうじて“斜面なる水平面”に踏みとどまり、爪先立ちするような感覚で重力に直立することができたならば、貴方はその眼前の光景に――前面に青空を見て――笑い狂うことになるかもしれない!
そこでようやく――
道路上のすべてのもの、自動車、自転車、あるいは置き看板、ベンチ、ゴミ箱のたぐいが、すべて、地面の向こうへ転がり落ちていることに――その時になって貴方は気付くのだ。
一つのステージは、渚を出た瞬間に生じる。
まさに出来たて。
ステージ内では現在進行形で、川や湖が逆流し溢れかえり、建築物は物によっては倒壊したりで、実に惨憺たる有り様――
10世界の融合ぐあい(融合の狂い度合い)も、“下”に進むにつれ、瘴気が溜まるように濃いものとなり、“底”、すなわちゴール付近では、いわゆる魔界のような凄惨なる様相を呈すことになる。
思い出してくれ。セーフゾーンは、トンネル形状の空間だった。
それが下向きになっている。
ゆえにこの異空間を――
“ダンジョン”
と、称すことになったのだ。
この異空間行が、初期そうそうに“ケイビング”と呼ばれ、定着したのも無理からぬことだったろう。
傾斜領域は、テラスからゴール直前まで続く。
貴方はこの大斜面世界を、転げ落ちて死傷しないよう努めながら降下し、ゴールを目指さねばならないのであった――




