第8話 「また明日ね」は死亡フラグ
「やみこ、一日に何度も帰ろうとしちゃだめだよ……」
疲れ切った表情で友人が愚痴をこぼす。
その横をとぼとぼと歩くやみこは、うつむきがちなまま口を開いた。
「だって学校にいると不安になることが多すぎるし……私、臆病だし……」
「臆病っていうか、いつも考えすぎなんだよ、やみこは。想像力をはたらかせるのもいいけど、あんまり深く考えないことも大事だと思うよ?」
「でも、どうしても考えちゃうし、考えたら嫌な想像しか出てこないし、それが本当になったら私、耐えられないし」
「ならないよ……。前田先生が人の心を読めるとか、絶対ありえないし。あ、週末のグランドワン、また誘うからね」
「だから行かないって言ったのに」
「ダメだよ、やみこ。一回来たら安全だって分かるから。あ、じゃあ私、こっちだから。また明日ね!」
「また明日ね……」
やみこはつぶやきながら、急に表情を青ざめさせた。
「えっ、やみこ? どうしたの」
「フラグ……フラグが立っちゃった……」
「なに。なんのフラグ?」
「『また明日ね』って言いながら別れたら、もう二度と会えないの。この前読んだ小説に、そう書いてあった」
友人はさすがにため息をついた。
「やみこ、小説の設定を現実に持ち込むくせ、やめた方がいいよ……。あ、やば。塾の時間に遅れる。じゃあ、また明日ね」
「あっ」
やみこをふり返りながら走る友人。
その右手が「バイバイ」と少しだけ横に振れたとき。
丁字路へとびだした彼女に、右からやってきた一台のトラックが猛スピードでつっこんできた。
友人の体が、まるで人形のように力なく宙を舞った。