第2話 数式は男女の複雑な三角関係をあらわしている
「xとyに、zまで出てきたら、やっぱり難しそうだね」
教室の机で数学の教科書をながめながら、友人はつぶやいた。
「ねえ、やみこは解ける――って、やみこ?」
その隣の席で、やみこは唇をふるわせながら青ざめていた。
「ど、どうしたの、やみこ」
「……三角関係だ」
「えっ」
「『x、y、zの値を求めよ』って、三角関係。4xと12yだけなら簡単だったのに、7zが入ってきたことで悲劇の様相を呈しているの。4xは12yのことを求めていて、でも12yにはその気がなくて、むしろ7zのことを求めていたのに、その7zがじつは4xのことを求めていたから――」
「な、なに言ってるのやみこ……?」
「4xは熱意のある7zに少しずつ惹かれて、そしたら12yは4xに嫉妬して、でもそれを自覚できずに『なんで私、こんな気持ちに……あんなヤツ、どうでもよかったのに』って。そうしてふと見せた悲しそうな顔がまた4xの恋心に火をつけて、でも7zは4xのどっちつかずの態度に業を煮やしてついに12yを呼びつけて――ああ、こんな数式、だれにも解けるわけがない……」
「やみこ、落ち着きなよ。恋愛小説の読みすぎだよ」
「私、こんな複雑な問題、とても見ていられない。もう帰る」
「あっ、帰っちゃダメ!」