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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 地獄の城塞 】 四天王編
8/82

level.7  〈闇のモノ〉 してんのう は おびえている!! 


 こうして同じ場所に

 我が社を代表する“エース社員”が一堂に会したのも、

 かれこれ〈かつての悪代官サマ〉がお倒れになって以来。


 

 『超』重要な重役会議は、互いの近況報告に始まって、

 自慢・シュミ・最近のマイブーム――

 そして社員の交換トレードをコッソリ持ちかけたり――

 モーリング支店長に対するアダマちゃんのセクハラ的な行為とか? 

 はたまた脅威となるヒカリモノの特殊能力情報の共有などなど……。



 会議中にもかかわらず、

 咎める上司(もちろん発起人である〈新悪代官サマ〉です!)

 が寛大というか、ダマって静観しているのをイイコトに

 午前のプログラムは自由闊達(じゆうかったつ)な意見交換で

 すべて終わってしまいました。







 お歴々、さすがに積もる話も次第になくなって、

 ようやく資料に目を通し始めた模様。



「つまりオイたちは、今まで通り業務に励め、っちゅうこっちゃろ? 簡単やろ。なにが難しいっちゅうんじゃ」

「まだ、お分かりにならないんですか先輩」

「なんじゃ、いちいちムカつくのう」


 さて、後半戦であります。


「分かりやすく言わんかい」


 あわあわ。

 ついさっき、開始のゴングが自動で鳴りました。


「先輩。筋肉トレーニングを、しばらくお控えになった方がよろしい。頭の大事な部分まで硬化しているようです。私は心配で申し上げているのです」

「ヴェロン、口が過ぎるぞ」


 いやはや心臓に悪い。

 〈ニンゲン〉どもの『聖地』である

 【アンゾルゴンのア大灯台】支店を任されるルバロバ支店長、

 赤い目をギラギラさせて、鋭い牙をギリギリしております。

 今にも飛び掛かって、ヴェロン支店長VSルバロバ支店長の、

 戦慄の一戦がおっ(ぱじ)まりそうですぞ。



「グルルルルル」



 日課でもあり趣味でもある、恐ろしくハードな筋トレで、

 自身の肉体をストイックなまでに、ルバロバ支店長はイジめ抜きます。

 その結果として、このような『超』強靭なフィジカルを得たのですな。



 その一頭一頭が“荒野の狩人”との異名を取る

 《ウルフバック(牙狼)》。

 その『超』強化版である――ルバロバ支店長は

 規格外の圧倒的なパワーとスピードを兼ね備えた

 比類なき近接戦闘のエキスパートにございます。



「ルバロバ殿、私が非礼をお詫びする。ここはコブシを収めてもらいたい」

「おまんは関係なかやろ。謝ってもらう必要なか。引っ込んどけ、モーリング。オイが用のあるんは、あそこの世間知らずじゃ」

「私も同感です。実は、前からハッキリさせておこうと思っておりました。敬意を払うべきは過去の歴史ではなく、現在の状況にございます。時代は流動しているのですよ、先輩」

「どうゆうこっちゃ。オイは頭がよくないけんのォ、分かりやすく言ってみんかい」



「私は、あなたよりも、常に上位におります」

「――ああッ、ヴェロン! もう我慢ならんわ!」 



 きゃ。

 私が、アッ、と気付いた瞬間には、ルバロバ支店長の腰かけていた

 豪奢な細工の木工椅子が遥か彼方へスッ飛んで、

 グシャリと木端微塵に粉砕されておりました。



 あわわわ。

 口の中は泡だらけ。

 ただただ慌てるだけの、私は役に立たないソウショク系にございます。

 この状況を変えるなんて、私なんかじゃムリムリムリーーッ! 



 ダイニングテーブルを挟んで向かい合う格好の

 イケイケ『超』エリート若手社員と、

 若手潰しで名を馳せる実力派の中堅社員。 

 グゴゴゴゴ、と実際に不気味な音を立てて、床のホコリが舞い上がり、

 いよいよ両者とも戦闘態勢に入りました。



 もはや避けられない対立となってしまうのでしょうか?



 と、ここで“ドゴン”。

 すかさず“パコン”。

 一方がすさまじいです。



「やめんかいルバロバ」

「いいかげんにしろヴェロン」



 同時に止めたのは、

 こちらも規格外の実力と良識を兼ね備える偉大なお二方。



「オ、オヤジどのォ……さすがにイッパツが……イッパツがハンパなかァ」

「頭冷やせえオロカモノ。ガキ相手に、本気になってどうするぅ」

「いえ、アダマサマ。悪いのはすべて“コイツ”にございます。ルバロバ殿には、一切の落ち度はありません。お怒りになるのは当然です」


 するとバツの悪そうな渋い表情を

 あのお方のとなりの席の“このコイツ”は顔いっぱいに浮かべます。

 聡明なモーリング支店長が、スリッパでパコンと軽めに済ませたのは、

 “このコイツ”にとっておそらく、そちらの方がよりダメージが大きいと

 瞬時に計算したからでございましょう。

 さすがご近所同士。

 扱いが手慣れております。



 「会議を先に進めたいが、よろしいか?」



 モーリング支店長は立ち上がったまま、

 私が『 OTAKU 』でパチパチ製作した資料の束を手に

 冷静になったお二方を席に着かせます。

 痛そうな『超』ビック・タンコブを頭のてっぺんに作りました

 ルバロバ支店長は、新しいパイプ椅子が《リトル・ウィッチ》によって

 運ばれてまいります。

 ずいぶんグレードダウンしましたな。



「ザッと私が目を通したところ、気になる箇所が二点ありました」



 どきっ。


「ひとつは、“各支店の経営状態のチェックをおこなう”という一点」


 びくっ。


「そしてもうひとつは、“専属コンサルタント”主導による経営合理化を進めるという一点」


 気づきましたか。

 さすがはモーリング支店長。


「……分からんわ、やっぱりサッパリ分からん。頼むモーリング、オイにも分かるように、簡単に説明しちゃくれんか?」

「つまり」



 この“コイツ”――

 いえ、ヴェロン支店長が、モーリング支店長を遮って、

 よく動くそのお口を動かします。



 ドキドキ。ケンカはやめてくださいね。



「無能は消えろ、ということです」

「ああん」


 またかよ!

 こりねえな“このコイツ”、そういうキャラ設定いらねえよ!


「私が説明いたしますルバロバ殿。我々が任される支店に外部の誰か――つまり、本社側の〈マのモノ〉がやって来て、我々の仕事を実際に確認するということです」

「なんじゃ、そりゃ。そんなことは今までなかった。オイたちを信用せんちゅうことか?」


 すると〈闇のモノ〉四天王、

 小さいシルエットながらも“絶大な存在感”を放つ

 『超』巨大オーダーメイド玉座におわす

 我が社のトップに視線を向けます。



 「あの新しい六十七代目は」



 我らが〈新悪代官サマ〉、微動だにしません。

 ピクリともしません。

 まばたきもしません。

 呼吸もいたしておりません。



 しかしなぜか……

 あの冷酷無慈悲な“なにかを超越しちゃったような視線”の前では

 そうそうたる顔ぶれのエース社員一同

 ガツンと打ち付けられるように威圧されます。



「で――でででェ! だ、誰が来るっちゅうんか! ま……まさか……あそこの六十七代目が直々にウチに来るワケなかやろ? ぜ、ぜぜぜ絶対ムリやでウチは! 部屋せまいし! あんなバケモノ椅子が入るスペースなかァ! 誰か違うヤツを、できることなら頼んます! あの娘じゃなかったら誰でもエエ!」



 グサッと刺さってえぐります。

 〈新悪代官サマ〉の『マ(がん)』の威力……ハンパなかァ。

 マジハンパなかァ……。

 見た目は〈ニンゲン〉の女の子っぽいのに。

 どうしてツッコミを誰も入れない。



 バババーン!



「今度はなんじゃあ! はあ、びっくらこいたァ」


 と、ルバロバ支店長が遮ったのでもう一度――バババーン・いよぉー! 


「どこから流れてくるの?」


 と、モーリング支店長が遮ったのでもう一度――バババーン・いよぉー!


「……」


 ヴェロン支店長は無言ですが念のためもう一度――バババーン・いよぉー!


 

 ポン、と古風なドラムロールが上の方から三度流れてまいります。

 すると呼応するように大量の桜吹雪が、ジャンジャンわんさと、

 そこらじゅうに降り始めました。



「ふぉっふぉ。これは見事な」



 と、【豊穣のジョーの湖】支店長のアダマちゃん。

 デッカイ甲羅から伸ばしたブットイ首をフリフリさせて

 しみじみ幻想的な光景を眺めております。

 やはりイイですな。



 ひらひらと、桜吹雪が舞う中で、舞台の上には『アノ方』が。


 

 すると魂が――

 まるでどこか別世界から、たった今“イン”してきたように――

 オーダーメイド玉座にちょこんと腰かけていた〈新悪代官サマ〉は

 流れるように華麗にお立ちになり

 その“ナイス人型長身バディ”を我々に見せつけるように

 ほそっこい腰に手を当てて、ツカツカと近づいてまいります。




「沙汰を申し伝える」



 しゃ、しゃべった!

 広大な【悪代官サマの間】によく響く、その美しい声を聞いた途端、

 〈闇のモノ〉四天王のお歴々が、ザッ! と反射的に

 その場に素早く身を落とし、深く、深ァ~く、高みから見下ろす

 〈新悪代官サマ〉に頭を垂れます。




「各支店の業務状況は厳正なるチェックが済み次第、迅速なる『聖域なき経営合理化』を進める。なお、本社が派遣する“専属コンサルタント”主導の元で実施する」



 ちゃんと生きてるッ。

 ああ動いてよかった〈新悪代官サマ〉……。

 等身大フィギアかもしれないと疑い始めていたところです。

 ハラハラしましたぞ。



「お、恐れながら!」


 恐縮するモーリング支店長が、とても新鮮なカンジ。



 ――ギロリ。



 奥底に突き刺さって、しかしえぐられます。

 もはや二の句は継げないご様子のモーリング支店長。

 ウチの代表取締役、まったく容赦ありません。

 出番はココゾとばかりに、

 その“絶大なる存在感”を社員一同に見せつけます。



「よいか」



「ははーーーっ!(その場の全社員ひれ伏す)」


 これにて一件落着。

 本日のプログラムはすべて終了いたしました。

 我らが〈新悪代官サマ〉は、ゼッタイ唯一無二の存在でありますゆえに。

 「右」と言えばミギ。

 「左」と言えばヒダリなのでございます。

 『↓』を向くことは決して許されません。



 おそらく四天王のお歴々が気になさるのは

 派遣される“専属コンサルタント”の存在でしょう。

 確かに私がパチパチいたしました。

 しっかりウチの『 OTAKU 』も覚えております。



  その人選や果たして――



 なにか……まだ重大な発表がされそうな予感が

 ビンビン、ビィィーーーーーン!

 遥かな高みから我らを見下ろす〈新悪代官サマ〉、

 まったく変わらぬ冷酷無慈悲なその『マ(がん)』で

 控えッぱなしの我々を、まるで打ち捨てられたゴミのように

 ガンミしておりますぞ! 



 さて。

 ごくりと、その瞬間がやがて訪れまして

 つられて誰もが大量のツバを呑み込みますな。



 「ポチ」



 ッて私ですか! ええーーっ! 

 〈新悪代官サマ〉のご指示の通りに、

 私はビジネス文書化しただけですけどォー!  

 そんなのムリムリ絶対ムリィ、やったことありませェん! 



 こんな私が、

 我が社をバリバリに立て直す“専属コンサルタント”に就任なんて

 いやあ恐れ多くて困ったなあ、できるかなあ?



 「泳げ」

  へ? 



  およ……げ……?

 



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