level.74 【してんちょうの ま】 に あの“ひと”が…?
バババーン!
いよぉー!
ぽん。
「この古風なドラムロール……あ、あなたサマは、まさか“本物”……?」
座り心地のよさそうな、
肉厚の支店長専用チェアに偉そうに腰かけていたのは、
やはり〈マのモノ〉イチ偉い“このお方”。
「〈新悪代官サマ〉」
……出ました得意の『超』展開。
ざっくり見積もったところ、サクッと終わりそうもありません。
この後のスケジュールはビッチビチ。
頭の中は真っ白でございます。
「控えろ。頭が高い」
どこからか、男型の声が流れてまいります。
「この声は……? おりんちゃん、立ってください。アレは《???(巨大粘液)》ですぞ」
「し、しかし、本社でお見かけしたままの、忘れもしない“あのお姿”は〈新悪代官サマ〉だ!」
「声がゼンゼン違うでしょ。あのモノは本物ではありません。――出てきなさい! 誰ですか、こんな悪ふざけをするのは! はやく姿を見せなさいッ」
【支店長の間】に高らかに響く笑い声。
どうやら支店長専用チェアの後ろから、それは発せられている模様。
「ククッ、よく出来ているでしょう? 先ほど流した、間に合わせの効果音と、そして物言わぬ、この本物ソックリな見た目の操り人形も。どちらも拙いニセモノです」
「なんと恐れ多いことを」
蛍光灯に照らされて、巨大な両翼が虹色に輝きます。
「陽幻」
その許されざるモノは、
大空の征服者――《鳥人》でございます。
「さすが、おりん様。すべてのモノらを蹴散らして、よくぞ帰還されました。その圧倒的な実力に改めて驚かされます。これは本心です。あなたはどうして、傷ひとつ負っていない」
「条件はお前と同じだ。だが、私の方が有利かもしれん。お前の弟は、ちょうどいい準備運動になったぞ。あっさり片が付いて拍子抜けしたが」
「そうですか。やはり弟は、その器ではなかった」
「……動じないのか。その性根、吐き気がする」
「“そういう存在”でしょう、我らは? 心を動かす必要がない。それは明らかな“ムダ”。おりん様、どうして我らは、これほど感傷的になってしまったのでしょうか? どうしてこれほど〈ニンゲン〉に近づいてしまったのでしょうか? ただただ、“倒されるだけの存在”なのに」
「なにを言ってる。我々が“倒されるだけの存在”……? 意味が不明だ」
「あなたも、本当は気付いているのでしょう? 我らに与えられた『役割』という、決して覆せない“設定”を。その中に居る限り、いつまで経っても私たちは操り人形だ。このニセモノの、出来損ないの〈新悪代官サマ〉のようにねッ!」
陽幻殿は、支店長専用チェアに深く腰かける
《???》の肩に手を掛け、どん、と乱暴に突き上げます。
まるで糸の切れた……人形のように崩れ落ちた《???》は、
抵抗することもなく、だらんと床に寝そべりました。
「私は、あなたとは違う。ルールの外に身を置く――そう決めた。出でよ、ヴェロン支店長より遣わされた〈魔物〉よ! 今こそ、その掟破りの実力を示すのだ!」
かつてない『マガマガしい絶望のオーラ』を感じます。
これほど心が高揚するのは、本当に久しぶり。
本社の心臓部である【サルトン博士の実験室】並みのマガマガしさですな。
『ダークなホール』が、だらんと崩れ落ちる《???》の真ん前に
ふたつ出現いたします。




