表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 迷いのマの森 】 編
60/82

level.59 “きつね の はなよめ” → “わたし の よめ”

「すべての条件は満たされた。今こそ人間との新たな契りを結ばれたし」



 心ここにあらず、といった若者は

 おりんちゃんが現れたと知ると吸い寄せられるように

 顔をそちらへ向けます。



「すまない。なにも知らないお前を、今回はダシに使わせてもらうぞ」

「ああ、ああ」



 あの若者、口をパクパクさせるものの、言葉を発することが出来ません。

 正常な状態ではないことは誰の目にも明らか。 



「お、お、オイラ……は……」



「ほう。その精神力は大したものだ。バットステータスの『魅了』を付加されておきながら、わずかだが自己を保てるとは。しかし、見るがいい。お前の状態を気にする〈ニンゲン〉はおらぬ。これは我ら〈マのモノ〉と〈ニンゲン〉との間で古来より続く、お約束なのだ」



 おりんちゃんは、設けられた宴席に優雅に腰かけます。

 続いて私もすとん。

 目の前には〈ニンゲン〉がこしらえた回復アイテムが

 ちょこんと並んでおりますな。

 希少な素材を使っているのか、どれも量少なめ。



「ご両者、盃に誓いの口づけを」



 白き衣を纏う〈ニンゲン〉が桃色の花びらを浮かべた水を示します。

 それを見て、おりんちゃんが盃を手に取り、グイと誓いの口づけ。



「ん? どうした『花婿』殿、そなたも誓いの口づけを。もちろん『狐の花嫁』のぷっくりとした魅力的なクチビル……ではなくて、目の前の盃にだが」



 あの若者、動きません。

 おりんちゃんの『魅了』が、まさか効いてない?


 いえいえ、そんなことはありません。

 ヤツのステータスにはきちーーんと、

 『魅了』の状態異常が付加されております。

 その証拠に下の備考欄に『❤』表示。



「オイラは……オイラは……」

 こ、これは。

「こんなことは……やっぱりダメ、だ」


「なかなか面白い。各パラメータの値を見る限り、お前は完全に、紛れもなく“ザコ”だが、ここには明記されていない“ナゾの力”で、お前はこの私の『魅了』を解こうとしているのか」

「おりんちゃん、楽しんでいる場合ではありませんぞ。まことに遺憾ながら、まことに遺憾ながらァ! 私としては、“ゼッタイに”イヤなのですがッ! さらにムフフなことをこの若者に」


「ば、バカを申せ! この神聖な【奥の社】の前でハレンチ行為は禁止だッ!」

「そんなこと言っている場合ですか! こんなドンデン返し的な展開は、そちら側にとっても不都合でしょう! 協力しなさい〈ニンゲン〉!」

「いいや、なにがなんでも禁止、それは禁止ッ! そもそも『魅了の術』が完璧だったら、こんな事態はないはず。だからそっちでなんとかいたせ!」



 なんて頭の固い連中……。

 おりんちゃん、その気にさせるように流し目、とか無理ですか?



「ステータス項目に『❤』が表示されているということは、間違いなくヤツは私に『魅了』されている。だからなにをやったところでムダだ。というか、したくない」

「じゃあどうして『花婿』は、『狐の花嫁』に従おうとしないんだ!」

「私が知るワケないだろう。そういうイベントと思うしかない。もしくは」



 あっ。

 そうか、この若者も。




「お約束――つまり、設定を壊すモノ、だとしたら」




 その時、にわかに騒がしくなりました。

「なにごとだ! ええい混雑時を見計らって、また強制イベントか! この物語の書き手は、本当にこのパターンばかり。どうして懲りないのか。おそらく最後まで続けるつもりだぞ」

「……血の匂いがする。オイそこな〈ニンゲン〉、この茶番をサッサと終わらせてくれないか。私が欲しいのは『契約の証の品』だ。ここで起きたことは一切口外しない」

「しかし、そなたにとっては最重要な『懐妊イベント』もこの後あるのだぞ? もちろん、その“エッチイ”演出上、【向こうの離れ】の方で勝手にやってもらうが」




「な……な、なにを……なにをふざけたことをッ! このようなザコ臭のする〈ニンゲン〉とエッチイことなど本当は最初ッから、“心の底”からお断りだッ! 私にだって……その、好みがある。だから(チラリ)……とか。さ、さあ、とっとと出せ! さもないと食い殺すぞッ」

「ひいいいい。なぜ急に、そんなに顔を真っ赤にいたす! お、落ち着いてください『狐の花嫁』様ァ!」



 美人が怒ると、とんでもなく恐ろしいのですな。

 ジリジリと、白き衣を纏う〈ニンゲン〉を壁際まで追いつめて

 おりんちゃんが鬼の形相で『契約の証の品』を強く要求します。

 向こうの戦闘の壮絶さを物語る剣戟の音が強くなりました。

 こちらに徐々に迫っているのでしょう。



「誓いの儀式は、多少のハプニングがございましたが、完了したと“みなします”! くれぐれも口外されませんよう。それでは『狐の花嫁』、これが我ら〈ニンゲン〉との『契約の証の品』」



 おお、これが。



 すごく……すごく……

 なんかすごくギトギト輝いています……うぷっ! 

 なんだかソレを見た途端、酸っぱい胃液が自然にこみ上げて――うッ!

 急に自分のコレステロール値が心配になりました……。



「これぞ狐の大好物(とされている)。別名・狐ホイホイ。クッキングペーパーで拭き取っても、拭き取っても、たっぷり滴る黄金色の動物性油は、あの幻の珍獣から採取したコダワリの」

「サッサとよこせ」

「ど、どうぞ。使用方法は説明書を参照するように。失敗しても二度とアゲませんから。こんなに強烈なニオイを、我々も二度と嗅ぎたくありません。製造過程が大変なのですぞ」



 おりんちゃんが握る、その『物体X』から耐えがたい強烈な芳香が。

 直に触れている彼女の手が、すごく心配です。

 私の敏感な鼻センサーは、そのヤバさを如実に示すように

 瞬時に計測不能のエマージェンシーを点灯させました。




「今作戦の目的は達成した。支店へ帰るぞ、ポチ殿。すぐに撤収、引きアゲだ!」

「精いっぱいお供します!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ