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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 地獄の城塞 】序編
6/82

level.5  《りとる・うぃっち》 が 〈仲マ〉 に なった!!


「ポチサマ」


 ううむ。


 実にナイスなキャッチング・コピーの完成であります。

 こりゃあ目にしたモノの心臓をギュギュギュッと

 ワシ掴みすること間違いなし。

 流行語大賞も ユメモノガタリ ではありませんぞ。



「ポチサマ」



 ではもう一度。今度は声に出して、レッツ・キャッチング。

 イチ、ニノ、さんハイ!



 「〈悪代官サマ〉とユカイな〈仲マ〉たちッ」



 おお。バッチリ決まりました。

 まさにこのストーリーを、ありのままに表現しちゃった気がします。

 どこかで聞いた気がするのは気のせいです。

 パクリじゃなくてリスペクト。そしてオマージュと申して濁します。

 それは皆サマのご指摘を受ける前に、

 このハナシの根幹に関わることなので、先んじて白状しておきます。



「ポチ、サマ……」



 たくさん来てくれるといいなあ。


「ポチ、サマ!」



 これは世界を暗黒に染め上げる活動の、まず初めの第一歩。

 案内状を各支店に一斉送信して

 『超』重要な『第一回〈マのモノ〉重役ミーティング』。

 あっちのモノは来てくれるかな? 

 そっちのモノはどうだろう? 

 大陸ごとにちらばった、各支店を任されるボスクラスの〈マのモノ〉が

 一堂に集結するなんて……


 

 考えるだけで、キューキョクにおぞましいィィィ!



 おそらく各部屋に備え付けられた『邪悪度メーター(非売品)』は

 今世紀最高の値を間違いなく更新することでしょう。




 「ゴラア、ポチィ! アタイを完全ムシすんなッ」




 はっとリアルに返ります! 

 なんと大きな、ねこなで声。柔らかくはありません。

 寝不足でフラフラの頭が、おかげでキンキンいたします。

 ここは【うす暗い部屋】の片隅。とっても狭いのですが

 このたび、めでたく私のオフィスとなりました。

 仕事の道具であり、またシュミの道具でもある『 OTAKU 』を

 ひとりコッソリ持ち込んで【うす暗い部屋】にてパチパチしていると

 いつかのあの《リトル・ウィッチ(小悪魔的少女)》が

 私の後ろに立っておりました。



「な、なんでございやしょ?」



 動揺しまくり。

 サッと素早く手のひらサイズの『 NEZUMI 』を握りなおし、

 ダブルクリックで最小化(※注:最大化します)! この慌てよう。

 別にムフフなサイトを見ていたワケではございませんが。


「なにそれ」


 《リトル・ウィッチ》が尋ねます。

 当然の反応ですな。

 私が操作するこの未知の道具は、この世界の技術力に照らし合わせると

 完全にオーバー・テクノロジーでありますので。


「これは世にも不思議な、ビックリハコにございます」

「ビックリハコ? ハコなの?」



 ハコにございます。

 箱ですな。



「色々なモノが飛び出します。ですから『ビックリハコ』にございます」



 それを聞いた《リトル・ウィッチ》、

 大量の「ヘー」と「フーン」が飛び出ます。

 たびたび画面を覗き込んでくる〈マのモノ〉たちに

 何度詳しく説明しても、まったく理に解しません。



 ッていうか、それほど彼らは興味ナシ。いつもホネ折り損にございます。

 くたびれるだけくたびれて、残るは必ずマイナス面。

 そんな不毛なやり取りから導き出された最良の回答が、

  この『ビックリハコ』にございます。



「へえー。ビックリ」



 こちらも興味ナッシング。

 機械オンチの反応は、世界共通ですな。



「ねえポチ、サマ」

「なんでしょう?」



 すると《リトル・ウィッチ》、

 『 OTAKU 』に向かう私の後ろで、急にモジモジいたします。

 ねこのように愛くるしい彼女の小顔が、うすぼんやりと照らされて

 なんだか疲れた表情が正面の『 OTAKU 』画面に映り込みます。



「眠れないのですか?」

「……ポチ、サマ」

「ポチで結構です《リトル・ウィッチ》殿」

「ポチ」

「はい」


「……ううん、ダメ。やっぱりポチサマ、ポチサマだよ。ねえポチサマ?」

「ううむ。やはり、まだ慣れません。名前を頂いたのは昨日の今日ですし。しかし《リトル・ウィッチ》殿がそうしたいなら、ご自由にお呼びください。私になにか御用ですか?」



 回転チェアをクルリと回し、

 振り返って《リトル・ウィッチ》をしげしげと見つめます。


 

 なにやら、ただならぬ雰囲気……

 なにかの間違いが起こりそうな予感?

 あっちのフラグがビンビンですぞ。



「ねえ、ポチサマ」

「はい」



 ちょっと凛々しく。あのイケメンな《リザードマン》をかなり意識して。


「なんですか! この私に、こんな夜更けにどんなご用件でしょうかッ!」



「ポチサマはどうしてポチサマなの?」

「は?」

「ポチサマはどうしてポチサマなの?」



 同じことを続けて二度言いましたぞ。きっと重要なセリフなのですな。



「ポチサマはどうして」

「もういいです分かりました。三度目はさすがに結構です。短いですし」

「聞こえてないのかなあと思って。どうしてポチサマはポチサマなの?」


 はあ。


 うーん。


 そうですか。



 どうして……と急に聞かれたところで困ります。

 とある古典の『超』有名恋愛劇の主人公も、おそらくポカン。

 実際に言われてみるとリアルに引きます。



「それは〈新悪代官サマ〉が命名されたのです。ポチ、と。意味はありません」

「そこなの! ねえアタイは誰?」

「え」

「アタイの名を言ってみろッ」



 なんだか回答を間違えると、ヒサンな目に遭うかもしれません。

 入力を促すメッセージが世紀末なカンジです。

 ここはシンチョーに。



「あ、あなたサマは……たぶん……《リトル・ウィッチ》サマで……」



「うーん」


 そうしますと《リトル・ウィッチ》、

 ねこの額ほどの眉間にシワを寄せます。


「うーん」

 タメます。

「うーん」

 まだタメます。

「うーん」

 まだまだ。

「うーん」

 はやくしてよ。どっちなの!

「ザンネン」

 えっ、不正解だった?

「そうなんだよねえ」

 どっちじゃい!



「ねえ聞いてポチサマ。アタイは《リトル・ウィッチ》、アイドルグループ《リトル・ウィッチーズ》のメンバー。それ以上でもそれ以下でもない。他のメンバーだってアタイとなにも変わらない。ひとりひとりは《リトル・ウィッチ》、どこにでも居るフツウの〈マのモノ〉」



「はあ。そうですな」

「そうですな、じゃなくて! 聞いてる? マジメに話してるんだけど」


 もちろん聞いておりますぞ。

 こちらの処理能力が追い付かないだけで。


「なんだかキモチがヘンなの。すごくモヤモヤしてる」


 オナカが痛いのかな。

 だって、いつも薄着だし。


「なんか……イヤ」

「おクスリもらってきましょうか?」


 するとポコポコねこぱんち。ヨッ、待ってましたァ! 

 誰も居ないのをイイコトに、ココゾとばかりにデレデレいたします。



「アタイは、ポチサマみたいに“特別”じゃない」



「“特別”……なのですか私?」

「たぶん」

「はあ、そうなのですか」

「ほら、やっぱり聞いてないじゃん! この話題に興味ナシ?」

「いえいえ! 決してそんなことはありませんぞ」

「……ホントに興味あんの?」

「あると言えばあるような」


 ないと言えばないような。


 うーん。やっぱり、まったく理に解しません。

 実は私、本音を申しますれば、質問の意味が分かっておりません。

 彼女が一体なにを悩んでいるのか、その辺がサッパリ不明。

 何度考えたところで理解不能にございます。


 

 すると《リトル・ウィッチ》、

 そんな私の『?』を手に取るように

 忠実にマインドをリーディングしております。

 彼女がキレるのも納得。

 おそらく機械オンチだけじゃなく

 門外漢の反応の鈍さに自然と募るイライラは、

 どの分野も共通なのでございましょうな。



「アタイなんてポチサマと違って、ボロボロになるまで働かされて、どうせ最後はポイッて、どこかの【毒の沼地】に捨てられる運命なんだろうな」



 彼女も整理しましたようで、最良の回答を導き出したようですな。

 私にもよく分かります。

 『ビックリハコ』でお前には充分、と見切りをつけちゃう心境ですな。

 完全にナメております。



「なにか、シカクとか取った方がいいのかな」


 シカク……資格。資格でございますね。

 カタカナ表記では分かりにくい箇所が多々ございます。



 サンカクはお呼びでないようで(笑)。



「《リトル・ウィッチ》殿」



 私も、ひとつひとつ頭の中で整理しながら、ゆっくりと彼女に申します。

 相手に伝わるであろう、これが最良なる言葉を慎重に吟味して。



「今日の私も昨日の私も代わり映えいたしません。私は見ての通りのソウショク系。できることは限られる、フツウの〈マのモノ〉にございます」

「ちゃんと名前があるじゃん。アタイと違って」

「まだ……《リトル・ウィッチ》殿が欲しい回答を、今の私は持ち合わせておりませんが、名前なんぞ無用の長物にございます。あってもなくても、そのことひとつで変わりゃしません。変わったとすれば《リトル・ウィッチ》殿が、大きく変わられたのではありませんか?」

「アタイが?」

「はい」



 いぶかしげに彼女は見ておりますな。

「なれば」



 彼女が本当に欲しいのは。



「私がここで保証しましょう。キッパリと断言いたします」


 誰もが納得するような

 完全無欠の回答ではございますまい。



 私にたったひとつ、たったひとつ――

 誰よりもできることがあるとすれば。



「名前がなくとも自由自在に変われます」




 そのモノが歩きたいと願っている方向に

 背中をそっと押すことにございます。




「あなたはきっと、この瞬間に、世界にたったひとりの《リトル・ウィッチ》になったのでございます。一緒に仕事をしてくれますか?」




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