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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 迷いのマの森 】 編
59/82

level.58 “わたし の よめ” → “きつね の はなよめ” 


「私で本当によろしいのですか……?」

「よい」

「こ、光栄ですが、やはり背中に刺さるような『狐一族』の視線が」

「よい」

「し、しかしですなァ」

「あなたは私の決定が間違っていると言うのか」

「そんなことはありません! ただ――」

「ならば、堂々としていろ」



 殺気立つ『狐一族』。

 オロオロする《リトル・ウィッチ》。

 黙って前を見つめる《猫男》。

「ポチ殿」


 

 おりんちゃんは。



「その……手を……」



 

 思わず、掴みかけます。

 しかし私のとなりで小さく震える、華奢なその細い手は

 決して触れてはいけない至高の芸術作品のような思いが

 私にはしたのです。


 


 ……葛藤が、次第に強くなってまいります。

 そんなところへ、彼女が悪戯っぽく私の指先にチョンと触れます。



 驚いた私を見る彼女は、やはり楽しげでした。



「からかっておりますな。まさか、このために私を連れたのですか?」

「フフフ。さあ、どうでしょう」

「まいりましょうか。エスコートさせてください」



 とても誇らしく、

 おりんちゃんの手をそっと取ります。



「最後にもう一度、確認させてください」



 彼女の澄んだ瞳が私に向けられます。



「その選択に後悔ございませんか?」

「私は、もう迷わない。自分の選択を誰より信じているから。だからポチ殿も」





「――ありがとうございます。これで私も、“彼ら”と心置きなく戦えます」




 しゃん。しゃん。

 前へと進み出ます。

 白い砂利の大海を分かつ、一本の細い道の上を彼女と

 ゆっくり歩いていきます。

 まるで、なにかに挑みかかるように、着実にふたりで歩を進めます。




「遠方より大義であった。我らと異形のモノをつなぐ、美しい『狐の花嫁』よ」



 そうでしたか。

 だから彼女が発する波動は、あんなにも清らかなのですね。

 〈マのモノ〉らしからぬ聖なる波動は

 彼女が〈ニンゲン〉の血を引いているから……。



「そなたの訪問を心より歓迎いたす。さあ、(ちぎ)りの席へと進まれよ」



 白き衣を纏った〈ニンゲン〉が、さらに奥へと誘います。

 神聖な【奥の社】の前に設けられた宴席には

 ぽつんと腰かける、あの若者がおりますな。



「すべての条件は満たされた。今こそ人間との新たな契りを結ばれたし」




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