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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 地獄の城塞 】序編
5/82

level.4 《新悪代官サマ》 が “ろぐいん” しました。


「開門、開門!」



 このスケールの壮大さに、いつもながら卒倒されます。



 深い眠りに就かれました〈かつての悪代官サマ〉は、

 それはそれは――

 見上げるほどの“大入道”でございました。

 この『超』重量級『超』巨大扉は、

 ヤル気満々で乗り込んできた『ヒカリモノ』に緊張感をプラスすると

 同時に〈かつての悪代官サマ〉の体型に合わせた

 〈マのモノ〉技術班の精鋭が、総力を結集して完成させた

 “オーダーメイド仕様”となっております。



 そりゃもう〈かつての悪代官サマ〉といえば、

 言わずと知れた“グレイト・ブギョー”! 



 あの“オーダーメイド玉座”からオシリをひょいと浮かしまして、

 ポリポリポリ……と少しお掻きになるだけで

 真下のダンスパーティー会場が恐ろしく揺れたものです。



 


 我に返ります。“なう”でございますな。

 あの拒絶感(きょぜつかん)がハンパない、【悪代官サマの間】と

 【果てしない恐怖の一本道】を隔てる『超』重量級『超』巨大扉は

 グググググと、やがて重い腰を上げていきます。



 中の様子が見えるに従って次第に昂揚感に包まれまして、

 今はアゲアゲ『↑』 でございますな。

 ワクワク・ドキドキ! 

 はやく私も仲間に入れてほしいッ。





 グググググと、恐ろしいほどのローディングの後で

 『超』重量級『超』巨大扉は、なんとも中途半端に開閉されました。

 省エネですな。

 狭間は《リザードマン》の背中の付け根から生える見事な両翼が

 ギリギリ通れるか通れないかのビミョーなあたり。



「ごくろうさん」



 意外に紳士な《リザードマン》が労をねぎらいます。

 驚くべきことに『超』重量級『超』巨大扉の“動力”は、

 なんと力自慢の〈マのモノ〉たち。

 裏方の皆様、いつもごくろうさまです。

 最先端のエコ技術と、誰かが言ったとか、言わないとか。

 うたい文句は「百パーセント再生可能なエネルギー」。


 モノは言いようですな。




 巨大ドアノブに呪われたようにグルグル巻きつけられた

 ブットイ鋼鉄の鎖をムキになって引っ張るのは

 毛づくろい大好き《ミートキャット(大化猫)》。

 力量に劣る分、こちらは物量作戦に出ております。



 先ほどから【悪代官サマの間】を賑わすのは

 ヤレ引けソレ引けの大合唱。

 派手に太鼓を打ち鳴らし、熱気を団扇(うちわ)で逃がしますぅ。

 オマツリ大好き《ミートキャット》、それワッショイワッショイ!



 そんな騒がしいヤツらと一緒に、かなり控えめに続きますのは、

 甘ったるい匂いが大好物――趣味はオカシヅクリとポプリの調合、

 騒がしい場所はちょっと苦手。

 〈マのモノ〉ナンバーワンのオトメちゃん

  《ビックフット(熊男)》にございます。



 一見すると『超』ロンゲ。

 体臭がこもりそうですが、そこは大人のエチケット。

 近くを通るとイイ匂いがいたします。

 趣味と実益を兼ねているワケですな。


 《ビックフット》が作る“特製ポプリ”は品薄状態が続いており

 悪質なマガイモノが出る始末。

 広報によれば「秘伝の製法でお作りしているために大量生産は不可能」

 とのこと。プレミア価格とマガイモノに泣かされる日々は

 まだまだ続くと思われる。



「はぐれないように、俺の後に続け」



 なんと頼もしい、そのお言葉。

 いつもの三割増しで《リザードマン》がイケメンに見えますな。

 はちきれんばかりに【悪代官サマの間】に集結した

 有象無象の〈マのモノ〉を《リザードマン》はムキムキの腕で

 これでもかと力いっぱい押しのけます。



 しかし〈かつての悪代官サマ〉の『降臨イベント』時とは、

 えらい違いよう。ピリリと肌を刺すような緊張感がカケラも

 ありゃしません。




 この大群衆の先に〈新悪代官サマ〉が本当に居られるのでしょうか?




 ザックザク切り裂くナイフのように突き進む《リザードマン》に

 続いて私。そして寄り添うように紫色の《???》。

 触れる〈マのモノ〉すべてをジュクジュクに濡らし上げながら

 ヤツはわずかな隙間にもぐり込みます。

 もはやイヤガラセの領域を完全に超えております。

 顔が私ソックリなのがたまらない。



 さらにその後に、なぜか付いてくる《リトル・ウィッチ》。

 床を飛び散った紫色の『ベトベトしたもの』を

 迷惑そうにあっちへヒョイ、こっちへヒョイ。

 すってんころりんサア大変!



 足元ばかりに気を取られてはいけませんぞ。

 既にジュクジュクになった立ち見の〈マのモノ〉に

 知らず知らずの内に接触して彼女の薄着が次第に

 あらぬ方向へと透けてまいります。


 ワクワクするのは自分だけでございましょうか。

 やはり妄想はサイレントモードで。





 グイグイグイ。

 まるでブルドーザーのように群衆を力強くかき分ける《リザードマン》の

 向こうに、またもおなじみ『超』巨大“オーダーメイド玉座”が次第に

 見えてまいります。


 そこで私、はっとします。

 


 誰も居ない――なぜ? どうして?





 【悪代官サマの間】のもっとも目立つところにて

  我が物顔に鎮座する“オーダーメイド玉座”は

   スッカラカンにございました……。

 


 青くなってまいります――

 さあああと、血の気が引いていくのが分かります――


 こりゃヤバイ。

 〈新悪代官サマ〉をお迎えする『召還の儀』は失敗だ……。



 準備のすべてを任されていた私を、

 この《リザードマン》は“ボコボコ”にする気だッ!



 と、ここで突然、《リザードマン》が振り返ります。



「ひええ」

 そりゃこうなりますぞ。

 紫色の《???》が、真っ青になった私を不思議そうにジロリ。

 不健康そうなのは、お互いサマでございます。

「準備はいいか」


 ええッ! 


「問題ないな?」

「ま、まだ心の準備が……」


 ギロリと威圧するように睨みを効かせ、やはり《リザードマン》は

 問答無用に、私のほそっこい腕を力強くグイグイグイ。


「や、やめてください、わ、私には、ツマもムスメもハハオヤもォ!」

「――失礼するぞ。許してくれ皆のモノ、これはサルトン博士の命令なのだ」


 まるでブルドーザー……が、“この世界”に存在するかは知りませんが、

 とにかくそんなカンジで《リザードマン》は大勢の〈マのモノ〉たちを

 傍若無人に薙いでいきます。



「なに、なんなのよあんたたち!」

「ちゃんと並びなさいよ! さっきからずーっと私たちは『秘書オーディション』の順番を待ってるんだから!」



 あちこちから大ブーイング。

 殴られるし蹴られるし。しどい。

 《リザードマン》の後ろの私に

 すべての“ツケ”が降りかかってまいります。

 公開リンチは既に始まっているワケですな。



「サルトン博士、連れてまいりました。このモノで間違いございませんか」



 今日のために新調した晴れ着がズタボロ……タンコブで前が見えません。

 こんな情けない姿で帰ったら、ツマの恐ろしい“オチオキ”が

 待っていることは間違いなし。

 泣きっ面にハチ。

 こぼれ落ちるそのナミダは、ただのナミダではございますまい。

 血のナミダにございます。




「遅かったじゃねえかコノヤロウ。〈新悪代官サマ〉このモノですッ!」


 え?



 風が当たらぬように、静かにそっとそーっと、

 コワレモノを扱うようにタンコブだらけの顔を上げますッてェと、

 “オーダーメイド王座”の前には

 ちょこんと細身のシルエット……。



「ゴラア! ボケーッと突ッ立ってんじゃねえぞ! オイ坊主、ここに居られる御仁を、誰だと心得るゥ――いいかよく聞けェ、ここに居られるのは我ら〈マのモノ〉のジュクジュクしい明日を導く、マガマガしさの大権化(だいごんげ)ェ」



 サルトン博士、いつも以上に芝居がかっております。



「神妙にせいやァァ!!!! あの最高にムカつく『ヒカリモノ』どもを、完膚なきまでに叩きのめし、“ついでに”全世界をケチョンケチョンに、絶望の淵に叩き落とすゥ――」




    バババーン・いよぉー! 




 ポンと、どこからか流れてくる古風なドラムロール。

 ちょうどよく天井から、ジャンジャカ降ってくる大量の桜吹雪が舞台に

 フェードインいたします。






「〈新悪代官サマ〉にあられるぞォォォ!」  






 あ……悪代官サマ……このお方が、我らを束ねる新たなトップ……。

 そして六十七代目の、我が社の“代表取締役”を継ぐ偉大なるお方……。


()が高ェェェ、控えろ、控えろォォォ!」


 ざぶんざぶんと、まるで波打つような桜の大波が

 呆けている私に襲い掛かってまいります。

 ――くらあ! 降らす量を完全に間違えてますぞッ。



 し……しかし……あれが、あれが我らの、唯一にして絶対の……。



 それにしては〈ニンゲン〉っぽくないか?

「それでは〈新悪代官サマ〉、そこのモノはいかがでしょ? カラダは情けないくらい貧相ですが、打たれ強さは〈マのモノ〉イチッ。不景気なのはツラだけです」


 ひでえ。




 と、やがて“ナイス人型長身バディ”の〈新悪代官サマ〉、

 ボケーッと突ッ立っている私にズンズン向かってきて

 なんとガッツリ肉薄して見下ろしますな。




 ひやあ、近い近いッ! お近づきが過ぎます!




 なんだか……全身がゾックゾク。もう視線がヤバイ……。

 こりゃあ冷たすぎッ、目で殺されるゥ!

 そこらへんに打ち捨てられた、まるで“ゴミ”のように

 このチンケな私を見ておりますぞッ!



 しかしどう見ても〈ニンゲン〉の女の子のような。



「それでェ……そのォ……どうでございましょ?」



 揉み手をし、注意深く顔色をうかがうサルトン博士を筆頭に

 《リザードマン》も《ビックフット》も

 大勢の《ミートキャット》も他のモノも

 まったく〈マのモノ〉らしからぬ〈新悪代官サマ〉の

 “ナイス人型長身バディ”を気にする素振りがありません。

 


 ホワイ? 

 いえ、そういう設定。仕様にござい。



「オイ」



 ビクッ!


 だ。

 だだだ、だって、だってだってェ! 

 やっぱり誰がどう見たって〈ニンゲン〉の女の子……じゃなくてェ! 


 無事に(?)我らの前に降臨なされた〈新悪代官サマ〉、

 ジロジロと『超』がつくほど冷や汗ダラダラの私を真上から

 ガンミいたしまして、突き出た私の長いアゴを

 その細くてしなやかな指をいっぱいに広げてガツッ!!!!

 といきなりワシ掴みます。



 と、吐息が。

 あま……い、でもやっぱコワッ! 

 美しさにトゲがあり過ぎッ、刺さって裂けちゃう!



 「お前」



 ドキドキッ、バクバクッ! 

 私の隠された野性が危険信号を灯しました。

 これ以上の精神の高揚は、生命活動に深刻な支障をきたします。



 「お前は今から」



 私は。

 た。

 たった今から、な、なんでございましょう! 

 それになんだか私、〈新悪代官サマ〉を見つめていたら急にクラクラして

 まいりましたァァァ!

 天井からパラパラと、先ほどから桜吹雪がイイカンジに降り続いて

 いつの間にか心はピュアだった学生時代?



 まさかこれが……。

 幾多の“RPG史”に脈々と受け継がれる

 『私の運命のお相手』という、定番中の定番な、

 スンゲェ甘酸っぱい設定では!?




 「ポチだ」




 ポ……ち……?



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