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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 迷いのマの森 】 編
43/82

level.42 よめ に なってください。



「ここにおられましたか」



 舞台は月夜の森の中。

 ぱっと開けた異空間は、

 木々が風に揺らぐ涼やかな音色と、

 心地よい清流のせせらぎとが、ただ茫洋と広がっております。



「おりん殿」



 いつも凛々しく、弱みを決して見せない彼女。

 しかし、まるで鏡面のように輝く泉には、隠しきれない悲しげな表情が

 痛々しいほどに、ありのまま映し出されております。




 無駄はなにひとつ存在しない、

 極限まで研ぎ澄まされた清廉な世界がそこにありました。




「その声は……秘書殿か? すまないが、今は誰とも会いたくない。そこの立て看板に、赤いマジックペンで強調しておいただろう」

「それでも私は、あなたにお会いしたいのです」



 彼女は私に背を向けたまま、顔の辺りをごしごし撫でます。



「……強引だな。秘書殿も、私の命令に従わぬのか」

 すと、振り返った彼女は、ちょっとだけ悪戯っぽく私を見ておりました。



「最善の一手をお持ちしました。早急にご検討ください」

「最善の一手? そういえば秘書殿は、経営コンサルタント、と申すモノだったな。この【迷いのマの森】支店を“立て直すために大殿が遣わした使者”――ならば、さぞや素晴らしい改善策なのだろう。それを聞いてみたいが、しかし……恐ろしい。もう少しだけ、その結論は待ってくれないか? 今の私に、それを受け止められる余裕はないのだ」

「早い方がよろしいかと。手遅れになる前に」




「なるほど。つくづく思い知らされる。私の都合に、この世界は合わせてくれないのだな」

「“すべて定められたお約束”。選択できる範囲は悲しいことに限定されております。時に、“はい” か “いいえ”のどちらかを選ばなくてはならない、理不尽な選択もございます」



 彼女の表情が変化します。

 思い当たる節が

 きっと彼女がこれまで歩いてきた道の中で、あったのでございましょう。



「聞かせてくれないか、秘書殿」

「私は、“ポチ”と申します。これもまた大切な設定のひとつ」

「そうか。ポチ殿、その最善の一手とやらを私に聞かせてくれ」

「その選択に後悔ございませんか?」

「先にする後悔はない。いつも後になってから気付くものだ。私の心を占めるのは、“迷い”だ」



 この場所は、そういった土地にございます。



 沈まない月と居続ける夜が、

 危ういその美しさを際立たせる“最後の試練の地”――



    【迷いのマの森】



「迷っているのは確かだ。私は怖くて仕様がない。だが、それを押し殺して今は前へ進む。ここでポチ殿と会って、その覚悟ができたのだ。私は、どうすればいい? あなたに私の運命をゆだねよう」



 とっても、いい顔になりました。

 それでこそ、おりんちゃん。

 きゅっと引き締まったお尻から伸びる、黄金色の長い尻尾が

 柔らかに風になびいております。


 ではでは。


 彼女とは対照的に、悪人面になる私。

 やることが、たくさんありますなあ。

 あれもこれも……最後はやっぱり皆で……

 ぐへへ。ここぞとばかりに妄想が膨らみます。




「“結婚”してくれませんか?」

「えっ」




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