level.42 よめ に なってください。
「ここにおられましたか」
舞台は月夜の森の中。
ぱっと開けた異空間は、
木々が風に揺らぐ涼やかな音色と、
心地よい清流のせせらぎとが、ただ茫洋と広がっております。
「おりん殿」
いつも凛々しく、弱みを決して見せない彼女。
しかし、まるで鏡面のように輝く泉には、隠しきれない悲しげな表情が
痛々しいほどに、ありのまま映し出されております。
無駄はなにひとつ存在しない、
極限まで研ぎ澄まされた清廉な世界がそこにありました。
「その声は……秘書殿か? すまないが、今は誰とも会いたくない。そこの立て看板に、赤いマジックペンで強調しておいただろう」
「それでも私は、あなたにお会いしたいのです」
彼女は私に背を向けたまま、顔の辺りをごしごし撫でます。
「……強引だな。秘書殿も、私の命令に従わぬのか」
すと、振り返った彼女は、ちょっとだけ悪戯っぽく私を見ておりました。
「最善の一手をお持ちしました。早急にご検討ください」
「最善の一手? そういえば秘書殿は、経営コンサルタント、と申すモノだったな。この【迷いのマの森】支店を“立て直すために大殿が遣わした使者”――ならば、さぞや素晴らしい改善策なのだろう。それを聞いてみたいが、しかし……恐ろしい。もう少しだけ、その結論は待ってくれないか? 今の私に、それを受け止められる余裕はないのだ」
「早い方がよろしいかと。手遅れになる前に」
「なるほど。つくづく思い知らされる。私の都合に、この世界は合わせてくれないのだな」
「“すべて定められたお約束”。選択できる範囲は悲しいことに限定されております。時に、“はい” か “いいえ”のどちらかを選ばなくてはならない、理不尽な選択もございます」
彼女の表情が変化します。
思い当たる節が
きっと彼女がこれまで歩いてきた道の中で、あったのでございましょう。
「聞かせてくれないか、秘書殿」
「私は、“ポチ”と申します。これもまた大切な設定のひとつ」
「そうか。ポチ殿、その最善の一手とやらを私に聞かせてくれ」
「その選択に後悔ございませんか?」
「先にする後悔はない。いつも後になってから気付くものだ。私の心を占めるのは、“迷い”だ」
この場所は、そういった土地にございます。
沈まない月と居続ける夜が、
危ういその美しさを際立たせる“最後の試練の地”――
【迷いのマの森】
「迷っているのは確かだ。私は怖くて仕様がない。だが、それを押し殺して今は前へ進む。ここでポチ殿と会って、その覚悟ができたのだ。私は、どうすればいい? あなたに私の運命をゆだねよう」
とっても、いい顔になりました。
それでこそ、おりんちゃん。
きゅっと引き締まったお尻から伸びる、黄金色の長い尻尾が
柔らかに風になびいております。
ではでは。
彼女とは対照的に、悪人面になる私。
やることが、たくさんありますなあ。
あれもこれも……最後はやっぱり皆で……
ぐへへ。ここぞとばかりに妄想が膨らみます。
「“結婚”してくれませんか?」
「えっ」




