level.3 《りとる・うぃっち》 が こっちを じぃーー!!
〈マのモノ〉は、がんばるモノが大好きです。
シミひとつない赤絨毯が伸びる【果てしない恐怖の一本道】は、
ドキドキワクワクの【悪代官サマの間】へと続いております。
引き返すなら今のうち。
これより先、回復施設やセーブポイントは一切ありませんぞ。
はて?
やけに大勢の〈マのモノ〉とすれ違いますな。
いつもは閑散としている【果てしない恐怖の一本道】なのですが
やはり“今日”は、ちょっと事情が違う様子。
いつになく慌ただしく通り過ぎる《ダーティーモンク(暴力神官)》。
ジロジロと、意味ありげな視線を送るキケン行為は絶対NG。
まず間違いなく、からまれます。
髪の毛の下から、そっと覗き見ましょう。
〈マのモノ〉の大半は髪の毛ないんですけどね。
おっと。
華奢な肩をいからせて、キュートなオシリをプリプリさせて、
向こうから歩いてくるのは〈マのモノ〉垂涎のマト、
大人気アイドルグループの
《リトル・ウィッチーズ(小悪魔的少女団)》のメンバーですな。
ふてくされております、ふてくされておりますぞッ!
“小悪魔的な彼女たち”に一体なにがあったのでしょうか……?
「あのう」
イチバン後ろを歩くメンバーのひとりを捕まえて、控えめに尋ねます。
「お、お代官サマは……?」
「ああん」
コワッ。
「もォ、申し遅れましたァ! 私、決して怪しい〈マのモノ〉ではなくて〈新悪代官サマ〉が降臨なさる『超』・『超』・『超』ビック☆イベントの準備を任されておりました――」
「〈新悪代官サマ〉がなに! あんた〈新悪代官サマ〉のなんなワケッ」
ゴキゲンななめウシロ。
「で、ですから、『召喚の儀』の準備を」
「代官サマ代官サマ……あんたもやっぱり〈新悪代官サマ〉……」
「無事に降臨なされたのですかッ!」
そうしますと《リトル・ウィッチ》、
キュートな小顔を真っ赤にしまして、ポコポコポコと、ねこぱんち。
なんとも愛らしいキャラクターですな。
ねこ耳にキュン、谷間にクラリ、もうメロメロでございます。
ツマとムスメが居りますので、このムフフな場面はサイレントモードで。
「プンプン! もう、プンプンなんだからねッ!」
「そのォ……どうして《リトル・ウィッチ》殿は、それほどにプンプンしておられるのですか?」
「ああムカつく! “必要ない”って言われたからよ。身の回りのお世話を申し出たアタイたちを、〈新悪代官サマ〉はアッサリお断りになったの。それに品がないとか下品とか、幼稚とか稚拙とか、まるで本物の悪魔のようにアタイたちを罵るの。ホント信じらんない! これは《リトル・ウィッチーズ(小悪魔的少女団)》結成以来の屈辱だわ!」
はあ。なんと、もったいない。
「アイツ、ナニサマなのよ!」
〈新悪代官サマ〉です。
タタタッ、とまた誰かが近づいてまいります。
この軽快さは二足歩行タイプの〈マのモノ〉ですな。
四足歩行タイプは、もっとドタドタいたしますので。
「おうい、そこのモノ」
すると《リトル・ウィッチ》、
やれやれといったカンジで、けだるそうに振り返ります。
さすがアイドル。なんてったッてアイドル。
どこから取り出したのか、サインペンのフタをキュッと外しまして、
営業スマイルのカウントダウンに入ります。
正真正銘のプロであります。
「お前じゃない、ソッチ」
二足歩行の《リザードマン》、しかし空気をまったく読みません。
あっち行けと言わんばかりに、準備オッケーの《リトル・ウィッチ》を
ムキムキの腕で押しのけますな。
メンバーひとりでは、やはりこんなもの。
彼女たちは複数形で、
大人気アイドル《リトル・ウィッチーズ》なのでございます。
なにかの拍子に華々しくソロデビューしたところで、
ねこぱんちをポコポコ繰り出すしか能がありません。無能であります。
「〈新悪代官サマ〉の『召還の儀』を任されたのは、あんたか?」
「そうです! 誉れあるお役目を仰せつかりました、わ、わ、わ、私は――」
「すぐに来てくれ。サルトン博士がお呼びだ」
ただならぬ雰囲気でこの《リザードマン》、
ドスの効いた金色の瞳で私をギロリ。
なんともなしに《リトル・ウィッチ》がつられます。
コイツ、本当は“ナニモノ”なんだ……
興味ゼロだった私に、彼女は一転して興味津々であります。
と、そして……
後ろに居たのか紫色の《???(巨大粘液)》。
まったくストーリーに絡んでこないので存在を忘れておりました。
我が社の心臓部である【サルトン実験室】を崩壊させた
紫色の《???》、なにが気に入ったのか不明ですが
私ソックリの姿をかたくなにキープしたまま
まさに影のごとくピッタリ寄り添っております。
おかげで【果てしない恐怖の一本道】に敷かれた美しい赤絨毯が
ヤツの粘液でジュクジュクジュク……。
もはや見る影もなし。
おお恐ろしや。
“あとの祭り”が盛大に開催中でございます。
そうして私がモタモタしておりますと
痛いくらいにグイグイ腕を引かれます。
「い、一体どうしたのですか? あれほど鳴り止まなかった歓声が、先ほどからまったく聞こえてこないのです。なんだか慌ただしいようですし、【悪代官サマの間】で一体なにが……?」
「とにかく来い」
まるで重石を乗せたように口の固い《リザードマン》の大きな背中は
これから我が身に振りかかる“未曾有の災難”を予想させるものでした。