level.29 よめ(?) は ひかり かがやいている!!
ひんやりとしたものが、そっと額に当てられております。
とても心地よい。
溜まりに溜まった肉体的・精神的疲労が
すうと抜けていく気がします。
「オンバルキルガラゴレウラレレ」
なにか聞こえてきますな。
「バレルエイブルアングラソルティ」
柔らかい物体が当てられた額から『だいれくと』……ではなくて、
直接響いてまいります。
まるで浸透していくように温かな力がとめどなく、
このちんけな私に流れ込んできますぞ。
「オレラルガレルナパガベエケアレッテ」
どこの言葉でしょう?
まったく聞いた覚えがありません。
「ペペペラララベレレルルルパッパ」
「はっ、ここは!」
「意識が戻ったか」
「……はあ、なんとか。どうも親切にありがとうございます、どこかの見知らぬ誰かさま――っと、そうだ! あ、あなたっ、それよりも“お約束”を破って、勝手に『かたかな』を!」
こっ、この“お方”は……。
「どうした? カタカナがどうしたのだ?」
「あなた様はもしや……その類稀なるお美しさ……も、もー、“りん”」
月夜に映える黄金色の長い髪。
そして同じく、きゅっと引き締まったお尻から伸びる黄金色の、
ふさふさした長い尻尾。
のぞき見える首元には、光沢のある紫色の『すかーふ』が
しゅっとお洒落に巻かれておりました。
「そうだ。私が“モーリング”だ。お前は、初めて見る顔だな」
初めてではありません。
『第一回まのもの重役みーでぃんぐ』で一度お会いしております――
いえ、お見かけしております、とやはり訂正。
これ以上ないほどに、“あの方”は
高嶺の花にございますので。
こんな私など、比べれば塵も同然。
「その若さで、この最重要地区【迷いのまの森】支店を任される、“もーりんぐ”支店長……」
「“おりん”でいい。この地のモノはそう呼ぶ。私もその方が、しっくりくる」
おりんちゃん。
では私も、おりんちゃんと是非、(心の中で)呼ばせていただきますぞ!
ええ、ええ、そのお美しいご尊顔は、よぉーーく存じております。
『ぷろまいど』も複数枚、実はこっそり所持しております。
自慢気に申しますが、持っているのは市場に出回っていない
『超』貴重な『ぷらいべーと・しょっと』にござい。
「……あはん。じゃなくて、うおっほん! ごほんごほん。なんでもございません。おりん殿、おりん殿でよろしいですね? 私は、どうしてここに居るのでしょうか?」
目の前に広がるのは、水底までくっきりと透ける美しい泉。
まるで鏡のような水面には満天の星々が映り込み、絶えることのない清水が
地下から、こんこんと湧いております。
鬱蒼とした密林地帯は開け、
ぽっかりとその箇所だけ、明らかに雰囲気が違っておりました。
不快度指数『まっくす』の、“じゅくじゅくしさ”とは一切無縁の、
神聖な趣があります。
「確か、森の中で倒れちゃったような」
「ああ。頭からガブリと一気にやられた手口を見ると《食人木》にやられたようだ。〈ニンゲン〉だけでなく、我ら〈マのモノ〉も、ヤツにとっては攻撃対象になるからな。噛み癖があって困っている」
噛み癖ですか。それはまた迷惑な。
徐々に『ぶらっくあうと』した当時のほろ苦い記憶が蘇ってまいります。
本社から徒歩で【迷いのまの森】に到着した私は
着任して早々に数多の化け物たちに追っかけられて
そして逃走中に『黄金大甲虫』を発見して――
「そうだ、私の『黄金大甲虫』っ!」
「なんのことだ?」
後ろの『ぽけっと』を大慌てで探ります。
が、持ち物は、すっからかーーん。 なぜ?
「残念だったな。この森で倒れたモノの、すべての持ち物は土へ還る。例外はない。それがこの森の、“不変のお約束”というヤツだ」
「鍛え上げた武器もですか! ようやく手に入れた『ふしぎな○○○』もっ!」
「当然」
冗談ではありません。不親切設計にもほどがあります。
一度折れた心は戻りませんぞ。
「な、なんて『ぷろふぇっしょなる仕様のだんじょん』なんだ……『救済しすてむ』がないことには、私のような軟弱者は手が出せません」
「簡単には持って行かせない。この森で手にするアイテムは、どれも希少価値の高いモノばかり。難攻不落の【迷いのマの森】支店の伝統だ」
なるほど。
それは素敵な伝統ですな。
では『ごーるど』もやっぱり無理ですか?
いくら粘っても駄目ですよね?
来月の給料日まで、私はなにも買えません……とほほ。
「こんな“辺鄙な場所”へ、お前はなにをしに来た? 観光か?」
「……そ、そうでした……ここに来た目的は観光ではないのです。『黄金大甲虫』なんて、どうでもいい! お小遣いがないのは毎月のことっ!」
楽しみにしていた
『季刊実話~こんな俺に誰がした~』の最新刊は、
しばらくお預け。諦めて仕事に専念いたします。
「おりん殿。実は私、〈新悪代官様〉の第一秘書を務めております――“ポチ”と申します」
「第一秘書? そうか……大殿の使いか。それは大義であった。例の“査察”というヤツだな? 了承した、自由にいたせ。腕の立つモノを誰か護衛に付けよう」
と、こちらも毎度のことですが
いいところで『強制いべんと』に阻まれます。
「おりん様ぁ! 大変でございますぅ!」
名門と誉れ高い『狐一族』に《野孤》という下っ端がおります。
大慌てで向こうから駆けてくる小さな〈まのもの〉は、その下っ端にござい。
首に巻く『すかーふ』の色は赤。
「騒々しいぞ。今は取り込み中だ」
「にぃ、にぃ、にぃ、〈にんげん〉が来ましたぁ! もっとも浅い、入り口付近の第一深層にて発見ですぅ」
「万能資源『 POW 』を求め、不届きな〈ニンゲン〉どもがやって来る――こんなのは毎度のこと。許しがたいが、今では珍しくもない。大殿の使いが来ているところだ、いちいち騒ぐな」
「それは、そうなんですけぉ。人相書きに似た〈にんげん〉の姿がありましてぇ」
「……常習犯か」




