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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 アンゾルゴンのア大灯台 】 編
26/82

level.25 【アンゾルゴンのア大灯台】 編   おわり。




「ここは……オイラは、生きているのか……?」



 決して破られるはずのない二十九階の側壁に

 巨大な大穴が口を開けております。



 すべてを流す強風が大穴から吹き込んで、

  外界の匂いを塔の中へと、優しく届けてまいります。




 そのなんと清々しく、まるでむせ返るように濃密な

  “眼下に広がる大草原の碧さ”


 そして垣間見える天上の

  “突き抜けるような透明の青さ”




 【アンゾルゴンのア大灯台】支店で勤務するすべての〈マのモノ〉たちが、

  壁に開けられた大穴の傍に集まっておりました。




 それはまるで、“大切な誰か”との別れを惜しむかのように、

 それぞれが、ジッと一点を見つめております。


「まさか……先生が!」


 やがて意識を取り戻した若いヒカリモノ、

 近くに転がっている自身の折れた剣を手にする余裕もなく

 ヨロヨロとなんとか立ち上がると、大勢の〈マのモノ〉たちが集う

 大穴の元へ、ゆっくりゆっくり近づいてまいります。




「先生」




 敵意が存在しないことに気付いたのか

 そこに居りました〈マのモノ〉たちは


 自分らが来た道を経て

 今――そこへ辿り着こうとする青年に道を譲るように

 そっと身を引き、彼の意思のままに無言で送り出します



「先生……オイラは」



  吹き込んでくる風が、

  青年の髪も頬も厳しく打ち付けます。



「未熟者でしたッ!」



 青年は声を荒げます。

「どうして、どうして先生は……どうして……こんなに弱いオイラを選んだのですか!」


 答えるモノは、おりません。



 ただただ、厳しい風が絶えず若者を打ち付けるのみにございます。



「先生を倒したヤツは、誰だ」

 敵意が向けられます。

「あんなに強い先生を、倒したヤツは誰だッ!」



 激しい憎悪を、その若いヒカリモノは我々に向けますな。



「オイじゃ」



 すると若いヒカリモノ、

 すぐとなりに居りますルバロバ支店長に視線を移します。



「お前か」

「だったら、どうする。武器はあるんか? 呪文は使えるんか? どっちにしたって、おまんには殺される気がせえへん。なんべんやってもムダじゃ」



 キッ、と激しい感情を露わにしました若いヒカリモノ、

 ルバロバ支店長の分厚過ぎるキンニク・ボディをポコリと殴ります。

 ダメージはモチロンありません。痛くもかゆくもない状態。

 それをあの若いヒカリモノ、何度も何度も繰り返しますな。



 抑えきれない感情を、思い切りぶつける子供のように、

 彼は無我夢中で殴ります。


「エエ加減にせい」


 ルバロバ支店長は彼のクビに手を掛け、なんと片腕で軽々と

 若いヒカリモノを持ち上げます。


「ホンマに、まったくムダじゃ。こんな〈ニンゲン〉のガキのために、わざわざ来て、そして死ぬんじゃからのォ。これ以上ない時間のムダ遣いじゃ」

「く……ムダじゃ、ない……この世界には……だってなにひとつ……」

「くだらんわ」



 まるで人形のように、

 若いヒカリモノのカラダが後方へ飛んでまいります。



「急に萎えたわ。こんなヤツに、あとにも先にも“脅威”なんぞ、なか。ヤメじゃヤメじゃ。おまんを殺すのが、ムダじゃ。まったく価値がない。ウチは“会社”じゃけんのォ、利益を産まんことは、ゼッタイやらんのじゃ」

「オイラにはお前を殺す理由がある、だからオイラと戦え、今すぐ戦え!」

「オイには、ない」

「うぉぉぉぉ!」



 またも激情に身を任せる青年。

 しかし、それはもう、生死を懸けた戦闘とは無縁の、

 ただの“遊び”にございました。




「おまんは“すべては意味がある”、とか奇妙なことを抜かしたのォ」



「……そうだ。先生が、オイラに教えてくれた。“意味のない”ことは、“ない”。その言葉がオイラを救ってくれたんだ」

「おまんの存在は、意味があるんか?」

「え……ある、と思う。いや、きっとあるんだ。今は、その本当の意味は分からないけど。だって、この世界にオイラが生まれてきたんだから」

「じゃあ、オイがそれを否定しちゃる。ええか――おまんの存在は“なにひとつ意味がない”。まったく“無価値”じゃ。だから、おまんをここでオイが殺したところで利益を産まん。働くだけムダ、ソンソンじゃ」




「お前に……〈魔物〉なんかに……オイラたち人間のなにが分かるッ! 人間は人間は……もっと複雑なんだッ! お前たちと違って『感じる心』があるんだッ! もっともっとたくさんの、豊かな感情があるんだ! 大切な人を失って悲しむオイラの気持ちが〈魔物〉のお前に分かるもんか!」

「分からん。ああ、まったく分からんわ」



 ルバロバ殿……あなたは……。



「オイたちにとって、なにより大切なのは本社を守ることじゃ。そのための犠牲は当然。“誰が”眠りに就いたところで、オイたちはまったく動じない。それはオイが死んでもそうじゃ。それが当然だからじゃ」

「やっぱりな。お前たちは、やっぱりケダモノだ」

「そうじゃ。まさに『ケダモノ』っちゅうヤツや。――だがな、よう聞け、そこのクソッタレでアホな〈ニンゲン〉。それはオイたちに『憎しみ』っちゅうパラメータが設定されてないからじゃ」

「憎しみ……?」



「勘違いするなよ〈ニンゲン〉ども。その項目が存在しとったら、とっくの昔にオイたちが、おまんらを滅ぼしちょるけェの」



 ルバロバ殿は、青年に向かってズンズン近づきます。



「だから、おまんは」

「なんだ……オイラを、どうする気だ……や、やめろ……」

「とっとと帰れッ!」



 またも青年のクビ根っこを鷲掴みにしたルバロバ殿、

 やはりそのまま軽々と持ち上げ、

 側壁に開いた大穴めがけてヒュウウウウと問答無用に放り投げます。



「よろしいのですか?」

「エエ。そういう設定にしたのは、おまんじゃろ」



 塔の最上階マイナス・イチの、

 信じられない高さから放り出された若いヒカリモノ。


 その無事や、果たしていかに……?



「脅威になるやもしれませんぞ。回避不能な『大いなる災厄』となる恐れが」

「だからなんじゃ。これがオイの“コダワリ”じゃ。誰にも文句を言われたくなか」



 ルバロバ殿は申されます。



「忘れとった。オイは……なんと情けなか。この支店のモットー、『開かれたダンジョン』っちゅう【アンゾルゴンのア大灯台】支店に脈々と受け継がれてきた“誇り高い精神”を。【ふもとの村】がなんじゃい。そこにワラワラ居るんは、さっきのガキじゃ。なにを恐れる必要があるか。そんなのムダじゃムダじゃ。そんなモノはオイが、もっともっと強くなって、ボコボコに叩き潰せばエエんじゃ。恐れる必要はなか」



「それがオイの」


 そして、この物語の最後。


 ルバロバ殿が口にしたのは――

 やはり切なくなるような

 今は亡き、“大切な誰か”に訴えかけるような

 とっても素敵な言葉でした。



「ココを守ってくれた、すべてのモノに対する、オイのささやかな償いじゃ」





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