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悪代官サマ と ユカイな仲マたち  作者: 中田 春
【 アンゾルゴンのア大灯台 】 編
25/82

level.24 〈マのモノ〉 は がんばるモノ が だいすき。


「仕留め損ねたか」


 

 と、電光石火の攻撃を再度繰り出すルバロバ殿。

 瞬時に詰め寄って、しかし、それは相手を誘うフェイントにございます。

 果てしなく続く攻撃に、やがてしびれを切らした年老いたヒカリモノ、

 まんまと誘い出され、目の前に突然現れたルバロバ殿めがけ、

 手にする“魔剣”を力任せに振り下ろします。



「シャッ、もろたわ!」

 振り下ろされる尋常ならざる攻撃を、

 紙一重で、しかし思惑を内に秘めながら、その死線を本能でくぐります。




   完全に無防備になった、生身の老いたその肉体に、

    極限まで鍛え抜かれたルバロバ殿の壮烈なコブシが――




「ギョギョギョ、ウソでしょッ!」



 まるで見えない巨大な力で押し出されるように、

 ルバロバ殿のカラダがその時、なんと驚くべきことに、

 ふわりと重力に逆らって高々と宙に舞い上がります!




「おおおおおお!」



 今度こそ、満を持して振り下ろされる相手の“魔剣”ッ! 

 罠に掛けたのは、あちらの方でした。

 回避不能の『会心のイチゲキ』をルバロバ殿はそれでも、

 空中でなんとか身をよじり、まさに動物的直感と表現するよりない

 『超』反応で、避けられない致命傷を寸でのところで脱します。




 深く、それでも深々とえぐり取られた脇腹からは、

 ドクドクと絶え間なくあふれ出る大量の血液が大きく広がっていきます。



「……なんじゃ、オイの動きが見えちょるんか、おまん」



 分厚いキンニクの鎧で覆われていても裂傷させる刃にはかないません。

 まして“魔剣”ともなれば、防御を選ぶはナンセンス。

 回避するよりありません。




「大灯台に巣食う〈魔物〉の長よ、次で仕留めさせてもらうぞ」



 じりじりと距離を詰める双方。決着の時が近づいてまいりました。




 壮絶な、その決闘の幕が今――

 と、なぜか急に脱力する年老いたヒカリモノ。



「くっ、“今”になって! ダメだッ、これ以上は抑えきれん。もう少し、あと少しだけ待てないかッ!」



 あの魔剣が、見る見る不気味な輝きを増していきます。

 “淡い薄紅色だった美しい刀身”がその間にすっかりと、

 まるで吸い込まれるように妖しく光る、

 “鮮やかな真紅”に染まっております。




「おおおおおおおおおッ」




 ビシビシと圧迫される、年老いたヒカリモノから発せられていた

 ほとばしる善なるオーラがその瞬間、さらに強くなりました。



「まだまだ、おおおおおおッ!」

「きゃあああ」



 《リトル・ウィッチ》が耐えられず、遥か後方へと流されていきます。

 私もこうして悠長に構えるほど余裕はありません。

 少しでも気を抜けば彼女のように気を失いそう。



 あの真紅に染まった“魔剣”が、淡い色調に戻っています。

 〈ニンゲン〉には過ぎた、呪われし暗黒の兵器を、

 あのモノは“自らが発する光のオーラ”で相殺していたのですな。



「“我が奥義”を継承する者も途絶えた今、この《闇の剣》の呪われし使命も終わりだ。ここで、この私と共に朽ちようぞ」



 老人の瞳は、そこにはない未来を、ただじっと見つめておりました。



「これが“最後”だ――これで仕留める――そして、お前の卑小な生命を、セトに捧ぐ。それがせめてもの、愛する弟子を失った、この愚かな師の償いだ」




 お……お、恐ろしいほどの莫大なエネルギーが

 年老いたヒカリモノに収束していきます!

 それらを束ねる忌まわしきあの“魔剣”から

 闇のオーラと光のオーラの、相反するふたつのオーラを同時に

 ビンビン感じますぞッ!!!!






   「支店長」





 そ、その声は。

「お、おまん……“コノミィ”、生きてたんか!」

「支店長こそ。よかった無事で」



 耳に心地よい女型の甘い声。

 それは彼女に間違いありません。



「あのイチゲキで《ジャジャホース》部隊は全滅いたしました……私、その様子をつぶさに見ておりました……でもこれは、その時の比じゃない」

「コノミィ、なにをしとるんじゃ! それより、とっとと逃げんかい!」


「私、逃げません」


「アホ抜かすな! これはヤバイ、この塔が全部崩れる。だから、はよう逃げェ! おまんの足なら、あっという間じゃ!」



 ゆっくりと、しかし力強く、コノミさんは、

 そこにある未来を見つめて進み出ます。



「ポチィさん、お願いがあります。『設定』を変えてくれませんか?」


 コ、コノミさん、なにを……。


「本当に楽しかった。昨日は、とても最高でした。まさか、あんなに楽しい夜になるなんて思いもしなかった」




「私の昨日を、あなたが楽しく変えてくれたように、“この悲しい結末”を、もう一度あなたの手で変えてくれませんか?」




「アホなこと抜かすな! なにを知った風な口を利いちょるんか! おまんは、なんも分かっちょらん。頭がエエようでアホじゃ、究極にアホウじゃ! 『設定』っちゅうんは、コロコロ変えてええもんやない。成立しなくなる! 壊れるで、すべてが」

「大丈夫ですよ。ポチィさんなら。きっと」



 優しげな微笑みを浮かべながら

  メガネの奥のしっとり濡れたクリッとした瞳を私に向けながら

   コノミさんは申します。



「私の存在を使ってください。どうかそれで……どうか……」

「コノミ……おまん、どこ行く気じゃ……?」




 

 「“ウチの”支店長を頼んますッ」





「コノミィ! なんでや! 行くんやない、勝手に行くんやないで! そんなん許さへん、おまんはオイの……」



 彼女が最後に口にしたのは、切なくなるような……

 我が心に強く訴えかけるような……とても素敵な言葉でした。



 それはきっと、

 彼女の心が生んだ美しいメロディーだったように思えます。


「なれば」



 

 私がたったひとつ、たったひとつ――

 誰よりもできることは。



 そのモノが歩きたいと願っている方向へ。

 背中をそっと押すことにございます。



 いくつもの光が混じり合う、まばゆい閃光の中で、

 彼女は、すうと消えていきました。





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