level.22 〈りとる・うぃっち〉 は みてしまった。
「強い、なんて強さなんだ……この〈魔物〉……」
いきなり正念場でした!
最上階マイナス・イチ――
ここは【アンゾルゴンのア大灯台】支店の二十九階
【支店長の間】にございます。
「おう、ポチ。えらい遅かったのう。もう終わりそうやぞ」
「完全に寝坊しました! まことに申しワケございません!」
「別にエエ。おまんは、それだけの仕事をした」
あの若いヒカリモノ、私が到着した時には虫の息にございました。
矢尽き、刀折れ、
身に着ける《皮の鎧》は無残に引き裂かれております。
「どうしても、君を助けたかった」
その純真無垢な視線の先には、
“ナイス人型長身バディ”に恐れ多くも大変身したままの
あの紫色の《???》が。
「最後に……君の名前を、オイラに教えてくれないか……?」
ピュアですな。イイハナシにございます。
「我、我の、名前?」
ど、どうした《???》!
別にお前までピュアになることはないのですぞッ!
「そう……君は……咲き誇る美しい君は、誰なんだ……?」
「我は、我に名前など、あるものか」
「名前が……ない?」
「“ない”ものは、“ない”。それは“必要がない”」
「そんなこと、ない。“必要ない”ことは、この世界に存在しないんだ……じゃあ君は、どうしてオイラの前に現れたんだ……どうして君と、オイラは出会ってしまったんだ……?」
ハイそこまで。ストップ・ザ・ワールド。
「オイラたちの、この出会いは……無意味なのか……?」
お口にチャックしませんな。
しょうがない。
たった今、なんの前触れもなく今になって“パッ”と閃いたような、
このチート的な『超』ヒキョー・スキル――実は使いたくありません!
しかし、しかァし!
私の〈仲マ〉が未曾有の危機的状況に陥っている今、ここで使わずいつ使う?
今でしょ。
さあ、これが私のニュースキル――
『コントロール・S』発動だあッ!
「どうして……どうして……」
「どうしてもこうしても、ありませんぞ。そういうのは、ご自分の賢い頭の中だけに、コッソリとどめておいてください。勝手に出力されては困ります。ルバロバ殿、もうひとりのヒカリモノは来店しているのですか?」
「え……“先生”が、ここに……?」
たくましく盛り上がった肩のキンニクを、コリコリとルバロバ殿は鳴らします。
「おまんはエサじゃ。ただの弱いエサじゃ。本当のオイの狙いは、そっちの“オセッカイなヒカリモノ”じゃけんのォ。勝手に教育的指導されたら困るんじゃ。ちょうど、今のおまんみたいに」
「そんな“先生”……こんなオイラのために……」
ガハハハハ。
ゲスに笑う私とルバロバ殿。
悪役がピッタリ板に付いてきましたぞ。
「必要ないことは、この世界に存在しな、い?」
ムムムッ。眉間ピクピク。
「どうして我には、我には名前が――」
「ハイ、混乱しましたね。でしょうね。こういうのがあるから困るんですよ、そちらの若いヒカリモノさん。ウチは、そういう店じゃないんです。ねえ支店長?」
「そうじゃ。勝手におさわり禁止じゃ」
「……わ、我は我はッ!」
「おうポチ、どうするんじゃ。崩壊しよるぞ、あのケッタイな《スライム》。まあこれを機に、本社のサルトンによう言うとくんじゃな。ヘタに脳ミソをイジくると、ああなるぞって。中途半端がイチバンよくないんじゃ、まったく」
「既に手を打ちました。あらゆる『設定』は今、“完全に私のコントロール下”にあります」
「あとは“書き換える”だけ、っちゅうヤツか。そっちは便利な能力じゃのう。なんでも思い通りになるんか?」
「私は、あと押しするだけ。それにコレは、覚えたてホヤホヤのニュースキル。発動したのは、今回が初めてにございます」
「まあエエ。しかし、ホンマにケッタイな《スライム》じゃ。知らなくてもエエことがある、それが分からんヤツはアホじゃ。賢いようでズレちょる。知るアホ、余計な混乱を産む、じゃ」
と、視線を感じます……。
「どういうこと」
そこに居たのは《リトル・ウィッチ》。
自分の存在が、こちらもちょっと気になる女の子にござい。
「ポチサマは、ナニモノなの?」
まさに状況は、第二秘書は聞いちゃった状態。
「混乱するとか、知らない方がエエって、なに?」
ルバロバ殿が余計なことを口走るから。
「――はあ。困りましたな《リトル・ウィッチ》殿。ルバロバ殿が申すように、知らない方がエエこともあるんですよ」
「なにそれ、意味分かんない」
「それでよいのです。今のあなたの感覚は、とても正しい。そういうのはシャットアウト、可能な限り拒否してください」
「ダメ、だ……それは間違っている……」
虫の息のヒカリモノ、息も絶え絶えに、実に余計なことを口走りますな。
「君は……君も……本当は気付いているんだろ? だってオイラたちは」
おやすみなさい、あなたは永遠にねッ!
「ぐあッ」
静かになりました。
「教えてポチサマ。アタイ――ううん、アタイだけじゃない。どうしてアタイたちは、“この世界に生まれて”――」
「シャラァァァァップ(訳:オダマリなさい)!!!!!!!!」
静まりますな。
たくさん声を出しましたから。
「あなたも、やっぱり急いでいるようですね」
「急ぐ? それは、考えてはいけないことなの?」
「もっと、もっとあなたがオトナになって、もう少しだけ――あともう少し、あなたの心にゆとりができたら、その問いに挑戦するのもいいでしょう。でも今はダメです。もっともっと、あなたは自分の世界を広げる“必要がある”……と私も“必要がある”と思わず申し上げました。ええ、確かに“必要はある”んですけど、でも“必要はなくてもイイ”んですよ」
《リトル・ウィッチ》の上で輝く、たくさんの『?』マーク。
それでオーケイ。バッチグウ。
「時が来れば分かります。今は、今だけで結構です。となりを歩いてくれますか? 共に、その問いに私と徐々に挑戦していきましょう」




