level.18 【ふもとの村】.いちっ
松明が煌々と灯っております。
陽は落ち、夜も更けてまいりました。
時折パチパチと松明が爆ぜ、
しんしんと鳴く虫の音が響いております。
まさに厳戒態勢――嵐の前の静けさ、と今は申し上げておきます。
「ポチィさん」
耳元でささやかれる、心地良い女型の甘い声。
インテリメガネの奥で、しっとりと濡れた瞳を
“彼女”は静かに向けておりました。
「警戒しているかもしれません。いつもと様子が違います」
コノミさん、そのォ……。
「今作戦は、隠密行動に適した夜間作戦です。それでも充分に注意してください」
すごく、近いです……。
「ポチィさんお願いします、どうか忘れないでください。隠密・索敵能力に優れた《ホーンダック》部隊が、なす術なく壊滅させられた相手です。ですから……作戦の成功を……それから、あなたの無事を心から……」
え、ええッ!
「コノミ、イッショウケンメイお祈りしておりますッ!」
見かけによらず、大胆……。
力が入って、思わず大声になってしまった不手際は
カワイイのでスルーします。
「だ、誰だッ」
しまったぁ。スルー失敗!
あっさり相手DFにカットされました。
「オイ、出てこい! そこに居るのは何者だッ」
完全パニックになるコノミさんをサッと脇に抱えて、
草むらに身を落とします。メガネが決して外れないように、
しっかりフレームも抑えますぞ。
次第に騒がしさを増していく、固く閉じられた正門の物見やぐら。
そこに居るのは私が初めて見た、
〈ニンゲン〉――という、我々とはまったく別の種族でした。
「鳴らすか? そうした方がいいよな? 本当にそこに居たんだな?」
「先生が言ってたろ。小さな変化も見逃すな、なにか感じたら鳴らせって」
正門の物見やぐらの上で見張りに立つ、
ふたりの〈ニンゲン〉は右往左往して、しばらく考え込んだ後、
やがて備え付けられた小さな銅鑼を狂ったように叩き始めます。
「どうして分かったのでしょう! 見つかったのは、たぶん私たちですよね!」
そうですね。
ええ間違いなく。
「ポチィさんが立てた作戦が……ああッ、私のせいで台無しに……」
「大丈夫ですぞコノミさん、結果オーライです!」
「そうなんですか?」
計画は少しだけ前後しますが、そのくらいの誤差は修正可能。
コノミさんの『メガネないない・コント』は想定の範囲内。
むしろコッソリ期待してました。
「さあ出てくるのです《???》、《リトル・ウィッチ》殿も出番ですぞ!」
「ウソッ。なんか、はやくない? ヤバァ! えーっと台本……台本は……っと」
バッチリ決めてくださいね。
信頼しておりますぞ。
ばばばーん!
(※私の脳内にてお送りしております。実際に効果音はありません)
いよぉー。
(※私の脳内にてお送りしております。実際に効果音は)
ぽん。
(※同上)
静まります。
途端に静寂が訪れました。
物見やぐらの上の〈ニンゲン〉は、銅鑼を叩く手を急に止めます。
どこからか、ゆっくり夜風に流れるは、いつかのあの桜吹雪――
「な、なんだ……アレは」
はらりはらりと揺蕩うように
絶えず舞落ちる美しい調べの中を『偉大なるあのお方』が
ゆっくりと進み出ます。
「誰だ! 止まれ、それ以上近づくな! 〈魔物〉はゼッタイ近寄るな!」
「だあ、だ、誰がァ――誰が〈マのモノ〉じゃッ」
ヒヤヒヤ。声が裏返っておりますぞ。
「やってやる、先生が居なくても俺がやってやる! アイツだけじゃない、アイツだけじゃないんだ。俺だって俺だって【ふもとの村】の人間なんだあああああ!」
「待て。アレは……〈魔物〉じゃない、“人間”だ! やめろ撃つな!」
矢をつがえ、弓の弦をいっぱいに引き絞っておりました
物見やぐらの上の〈ニンゲン〉、その手をゆっくり下ろします。
……ふう。間一髪にございました。
私の背中は汗びっしょり。
「ポチィさん、すごく、痛いです」
はっ。
知らない間にギュギュギュ、ギュッ!と、コノミさんを
力強く抱きしめていたようです。背中だけじゃなくて
それを知ったら私のデリケート部分が急に汗びっしょり。
「汗…すごいです。大丈夫ですかポチィさん! やっぱり本作戦は私のせいで」
「いやいやいや! そりゃもう、現在絶賛進行(侵攻)中にございます。だから落ち着いてコノミさん。そしてメガネはゼッタイ落とさないように。今は探してあげませんよ」
固く閉じられていた正門が、
やがてギギギと音を立てながら内側へ開いていきます。
「人間が村の外に? ふむ。それは怪しいな」
これが〈ニンゲン〉が暮らす空間なのか。
実際に目にするのは、やはり初めてです。
ドキドキ!
さあ、はやくはやくゥ! 『次へ』ですぞ!




