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死にぞこないの英雄  作者: 雷帝
開幕編
6/9

新たな仲間

 「はっはっは、なあに、大船に乗ったつもりで任せておきたまえ!」


 ……目の前で大笑しているバカがいる。

 チラリ、と視線をガーネットに向けるが、彼女は目を逸らす。

 ……本当にコレが勇者なの!?


 スフェーンとの再会は気が重くなるものだった。

 幸いだったのは、私が今の彼と昔の彼を同じ人物だと感じられなかった事だろうか。千年の月日による外見と性格の変質と記憶の忘却は私に彼がスフェーンという名の別人であるという印象を強く与えていた。

 これで彼が記憶をしっかりと覚えており、懐かしい話を、思い出話をする事が出来ていれば『ああ、スフェーンだ』と思えていたかもしれない。

 だが、あれでは……いや、やめよう。

 そう考えても、やっぱりあの待遇は何なのよ……。仕方ない、事情も分かる、けれど……一番堪えるのは当人が自分の環境を理解出来ていない事なのよね……。


 しかし、だ!

 そんな沈んだ気持ちを目の前の男は、いや勇者パーティは吹き飛ばしやがった……。

 くれた、と言う気持ちにはなれない。

 まず、今代の勇者フローベルグ。

 見た目は金髪緑眼、かなりの色男、だ。勇者に選ばれるだけあって剣の才能においても魔法の才能においても幼少時より優れた才を示し続けてきた、という……まずもってカタログスペックだけなら勇者と呼ばれて何ら不思議ではあるまい。

 しかし……妙に軽薄なのだ。

 

 「何だね、じっと見つめられては照れるじゃないか……いやいや!僕に惚れるのは分かるが、僕のこの身は勇者!魔王を倒すのに命を賭ける僕なんかに惚れてはいけないよ。ああ、伝説の英雄すら虜にしてしまうとは!何て罪な僕!!」


 ……私にまともに視線すら向けず、一人芝居をしている。

 これだけ思い込めれば大したものだ。

 

 「こら、フローベルグ!お前は何という事を言っておるのだ!!」


 そう割り込んできたのは老人だ。

 この老人の名はクリストバル。勇者パーティの一員であり、元はとある大国の将軍。

 武人の名門の引退した当主らしく老いて尚肉体的には頑健そのもの、といった感じだ、感じだが。

 

 「惚れておるのはわしの方に決まっておるだろう!いや、伝説で美しさを語られてはおられましたが、まこと美しい。この一命を賭してこの度の戦いに挑む老骨も年甲斐もなく……ぬお!?」

 「いやあ、とりあえずお近づきのしるしに一つ」


 あ、勇者が老将軍に蹴りいれて、老将軍がどっからともなく取り出してた花束すかさず奪い取って私に差し出してるよ……。

 目の前でやられると冷たい視線で見るしかないわね、本当に。あ、将軍が反撃した。


 「何をするんじゃあ!!」

 「はっはっは!いい女は早いもの勝ちだよ!!」


 老将軍の飛び蹴りを受けて吹っ飛んだけど、かろやかな身のこなしで空中で体勢を整えて足から着地。老将軍の着地寸前に瞬時に間合いを詰め、その足を払うが、老将軍はすかさず片手を地面につき、足技で勇者の追撃を防いでいる。

 傍目に見ていて、レベル高いけれど、やっている事が何と言えばいいのやら……。

 この二人、いいコンビね。

 それに、ちゃんと冗談で済む範囲に抑えているのが分かるし……。

 そう、威力やスピードは確かに常人のそれからすればそれこそ致命傷レベルの攻防だが、彼らはこれでも手加減している。十分以上に。自分もそれなりのレベルのつもりだったし、一流と呼ばれる者の命を賭けた姿も見てきた。それから見て、確かに腕はいいと思える、腕は……だが……。

 

 (さすがに前回の百人に対抗可能なレベルには思えない……)

 

 しかし、神託では今回のメンバーだけ……。勇者はわずかに一名。

 確かに、今回は前回よりは遥かにマシだ。

 前回は「魔王」という存在そのものが初出現だった為に、全てが後手後手に回った。

 各国の協力体制も遅れに遅れた。

 まず、魔王という存在なんて想定していなかったから、最初期において魔族が活発化している、程度の感覚でしかなかった。

 もちろん、世界全体で見れば異常な状況だったのだけれど、一国一地域で見ればそこまで異常だと誰も認識していなかったのだ。結果、国が一つ滅びるまでまともに異常だと取られる事がなかった。

 国が滅んでようやく、各国とも動き出したが、当時は冒険者ギルドなんてものはなく、得られた情報も各国上層部ごとに秘匿した為に情報の統合は遅々として進まず、魔の領域は更に伸張。大国と呼ばれていた国すら滅びるに至った。それでも、まだ人の側は協調出来ず、エルフなどの異種族もまた自分達に関係ない、という態度を貫いていた。

 結局、彼らがようやく協調らしきものが出来るようになったのは、他ならぬ『魔王』の宣言。

 

 「意志ある者達に告ぐ。我は魔王。我に屈せよ。さすれば存在は残してやろう」


 この後が大混乱だった。

 本当に魔王などというものがいるのか、そこまでの力があるのか……混乱につぐ混乱。追い詰められた者、或いは自分だけは生き残りたいと願う者からの裏切りも次々と発生。

 現在の亜種族の内、闇の種族はこの時その原型が生まれたと言われている。

 正確には裏切ったせいで、魔王が倒れたといっても今更帰るに帰れない者達が仕方なく魔族の領域で暮らす内に魔を体内に取り込んで変質したもの、というのが正しい。かように魔族が長年存在する地では次第に土地や植物自体が変質していく。

 お陰で魔王が倒れた後もなかなか魔族の領域は減らず、この世界でも尚大国数カ国分に匹敵する領域が「魔の領域」とされている。別に人が暮らせない訳ではなく、人が暮らしていれば今度は逆に次第に元の風景に戻っていくのだが……ここら辺は魔族と人側、どちらもどちらの領域で暮らせるというちょっと分からない部分があると同時に、こうした変質した植物や動物の素材は加工すればそれまでとはまた異なる効果を生み出す為、魔の領域が人には危険(当たり前なのだが、魔の勢力が強い場所でないと魔族色に染まる訳がない)なので、結構な高値で取引されており、冒険者にとっての危険を冒してでも取りに行く品の一つでもあったりする。

 それに、魔の領域が厳然とした存在として残っているのも悪い事ばかりではなく、人の国がそこまで対立が酷くない原因でもあったりする。さすがに人や人側についた種族全ての敵みたいな奴が目の前にいれば、まだ手を握れる相手とはそこまで破綻した関係にならないものだ。

 話を戻すが、勇者が『神託』によって選出されるに至ったのも、もう王道ではどうにもならなくなったからだったりする。現在では何やら良いように装飾された物語になっているようではあるのだが。尚、クリソベリルがこれらの物語を読んだ際、「これはジャスパーがやったんじゃなく、別の勇者が…」とかいったものもあったのだが、彼女が黙っているのは全ての物語に関してどうだったか分からないからだったりする。下手に指摘して「じゃあこれは?」となっても面倒なだけだ。

 まあ、全ての勇者が何をやっていたのかなんて当時でも誰も知らなかっただろうし、後世に追加された物語だってあるだろうから仕方ないのだが。

 いずれにせよ、そうした窮地を考えれば今の、魔王が復活か新たに即位したかそこ等辺は不明だが、出現した事を早々に掴み、各国が一致した体制を築けている現状は相当マシと言える。前は魔王が大勢力を築いていた為にそっちの軍を残る各国の軍勢が決死の覚悟で誘き寄せていた。要はそっちが本命と見える大軍を囮とした勇者という一騎当千の小集団を魔王の下へと送り込んだのだ。

 けど……。


 (幾ら何でも) 「おーっと!将軍が勇者の両足を抱え込み、回転している!ジャイアントスイングとでも呼ぶべきか!!」

 (これだけの人数では) 「投げました!勇者吹っ飛んでいきます!おっと、柱を体を捻って回避しつつ柱を掴み回転を試みているぞ!!」

 (魔王の所へ) 「ああーっ!柱折れました!さすがにあの勢いでは耐え切れなかったか!!そこへ追ってきた将軍が両足でスタンプ!!」

 (辿りつくだけでも) 「おっと顔面が床にめり込んだ勇者、後頭部に乗る将軍の足を引っつかんで引いた!!」

 (無理がある) 「油断していたか!?後頭部を床にたたきつけた将軍、のた打ち回っている!!非道!非道だ!!老人を労わる気が全くありません、この勇者!!」

 (以前よりは少ないとはいえ部下がいない訳が…) 「さあ、勇者地面から顔を引っこ抜き立ち上がる!!将軍もまた」


 「……うるさい」


 回転しつつ相手の体に触れる。

 僅かな緊張感と共に体に力が入る。その力を崩す。

 体のバランスが崩れそうになった事を感知して、咄嗟に耐えようと体に更なる力が入るが、それは狙い通り。

 そのまま相手の力に自分の力を上乗せし、投げ飛ばす。

 投げ飛ばした方向は再度突っ込んだ勇者と老将軍の方向、絶妙のタイミングで叩き込まれた当人は勇者と老将軍を巻き込みつつ一塊になって転がる。

 

 「これは参りました!!実況はどうやら困難になりそうです!!」

 「……こいつもか、魔法使いは確かに言葉は達者なものが多いけど、これは何か違うでしょう…!!」


 がっくりとうなだれるクリソベリルだった。 

 本当はこんな連中と旅をする、というのはやりたくない。やりたくないが、魔王が出現したと聞いては放っておく訳にもいかない。

 他のメンバーを探すにしても、「神託」でこの面々が選ばれた以上、他に面子を探した所で魔王を倒せる確率は相当下がる。というか、あるかどうか疑問だ。そもそもクリソベリルはあくまで異質な存在だ。それは他ならぬ彼女自身が重々承知している。

 このパーティは彼女がアンデッドである事を知っている。

 当初は知った上で、場を和ませるジョークの類かと思いきや、すぐに素だと理解した。

 というより、見るからに歴戦の老兵、といった風情の老将軍の従者が苦笑しながら「あいすみません。どうも将軍は女癖が悪くて」と言ってきたからなのだが。

 

 「……君だけはまともでいてくれよ」

 「は、はあ……」

 「む、俺はまともではない、と?」

 「……服装を見てから言え」

 「む……仲間からも言われるのだが、そんなに変だろうか?」

 

 しみじみと呆然とした様子ながら、伝説の英雄と接してコチンコチンの僧侶の少年に優しく声をかけると傍らの盗賊が平然とした様子で言う。

 盗賊は……。


 「服のセンスだけはどうにかして」

 「む?」


 ピッチピチの虹色全身タイツ。

 これで世に知れた冒険者ギルド所属の盗賊だというのだから困る。

 ガーネットに聞けば、一応あれも強力な防具ではあるらしいのだが、ああいう類の服ばかり身に着ける上、彼ならばもっと安定したものを持っているはず、なのだが……。

 趣味がね?

 何とも言いがたい気持ちのままクリソベリルは先を考えて重い溜息をつきたい気分だった。

 

   

という一行です

次回は魔王側の描写予定です

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