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死にぞこないの英雄  作者: 雷帝
過去編
4/9

他の人達:僧侶の場合+おまけ

 「勇者は分かったわ……じゃあ、僧侶クンツァイトは!!あいつは聖戦士でもあったでしょ!!」


 バンバン!と机を叩きながら怒鳴るクリソベリル様。

 いや、お気持ち分かりますが、落ち着いて下さい。頑丈なはずの机がミシミシいってます……。

 細身に見えても戦士職。筋肉ムッキムキの男性に比べれば劣るとはいえ、そこらの人間では到底太刀打ち出来ません。ましてや、アンデッドとなった事で更に筋力が増大しているのですから……。

 

 「え~、僧侶様は……」


 ここでチラリ、と法王様に視線を向ける。

 ……そうですね、ここは。

 視線が合った事でぎくっとした様子で体を強張らせる法王様に余所行きの笑顔を見せてお願いする。


 「やはり、クンツァイト様の事ですし、法王様にお願いしたいと思うのですが」


 しばし遠い目で上を見上げられた法王様ががっくりと項垂れた。

 とはいえ、別に変な事は言っておりません。

 現状報告などであれば私がメインとなって行えば良い事ですが今、求められているのは伝説の英雄、その中でも僧侶様に関する伝承のお話。当り前といえば当り前の話ですが、冒険者ギルド所属で、通り一遍の伝承しか知らない私より僧侶様に関しての伝承ならば教会、そのトップの方の方が遥かに詳しいでしょう。

 法王様もそれを理解されているからでしょう、割とすんなりと了承していただけました。

 この後もお任せしたい所ですが……さすがに無理でしょうね。


~~~


 「それでは私が代わりにお話させて頂きたいと思います」


 さすがに前に立って説法などは慣れている立場の人間だ。

 立つ前は気が進まない様子があろうとも、こうしていざ立てばそこ等辺は慣れというか、落ち着いた見ていて安心出来る雰囲気を漂わせている。

 僧侶の側は勇者に比べると伝承という意味合いでは物語風味が濃かった。

 最もここら辺は話した人間が、事務的に話したギルド長の秘書か、それとも説法に慣れていて、こういう伝承にも詳しい法王かという差も大きい訳だが。

 以下は伝承の大雑把な中身であるが……。

 クンツァイトの絵姿を法王の従者が目配せを受けて取り出す。

 そこには同時に文字が記されていた。

 伝承によれば、その絵姿を気に入ったクンツァイトが記した文字だという……。

 これが記されたのは魔王討伐の後、しばらく経っての事。

 僧侶クンツァイトは魔王討伐から帰還した当初は神殿に滞在していたらしい。

 だが、やがて勇者がギルドを立ち上げようとしているのを聞くと、それを手伝いに神殿を出た。


 「今の神殿に人助けは難しい」


 そう言い放ったと伝えられ、絵姿の文字もその時記して行ったという。


 『あらたむるを怖れるなかれ。怖れるべきは自らの内に潜む自らが為さずとも誰かが為すであろうとの願望なり』


 その言葉は後の神殿改革の際の合言葉となっている。

 実際、教会も国も民衆も、勇者という他力に頼った。だが、教会が自浄作用で改革を進めねばそれは自らの死へと繋がるだろう……。その為にこの言葉が唱えられ、わずかでも自ら改革の為に動く、という気持ちを忘れぬようにと伝えられた、らしい。

 我々の世界で言うなればカトリックとプロテスタントの関係に近いが、違うのは改革側が主導権を握り、後に主流となった、という所だろうか。現在では交じり合い、それとも共に改革が当然の事となった為に現在の法王含めたトップ達は軒並み昔風に言うならば改革派である。というか、今時旧来派などと言えば大抵の場合、汚職まみれの宗教関係者失格者の暗喩みたいなものになっているのだが……。

 いずれにせよ、熱意を持ってギルド立ち上げに協力した当人は勇者と共に案外長らくギルドに在籍していたらしい。

 また、やがて起きた教会改革に外部から手を貸したのは間違いない。

 ここら辺りは意図的に隠されている部分がある為に、おそらく何らかの意図があって、おそらくは自らが主導的立場に立てば自力で自浄作用が働かせたのではなく、自らの影響に流されてのものとなる可能性が高いと見たのではないか、と今では判断されている。


 ……そして、最期は実は明らかとなっていない。

 ある程度老いた後、当人は霊峰のある山脈、その麓にある小都市の小さな神殿で穏やかに晩年を過ごしていたらしいが、ある時「時が来た」そう告げてふらりと霊峰へと姿を消したという……それを最後に以後姿を見た者はいない。

 当時は霊峰と言われる神の住むとされる山にて最期を迎える事を望む修行者も決して少なくはなかった。

 僧侶クンツァイトもおそらくはそうだったのではないか、と見られているが、結果として霊峰には案外と亡くなった僧侶の遺骸と思われるものが存在している。

 幾つかのものに関しては小さな奉る場が作られて納められているが、何分彼らは最期の瞬間には贅沢な衣など纏ってはいない。むしろ、質素、簡素な衣類を纏っている。当然、どれが誰やらわかる訳がない。

 おそらくこれではないか、と思われるものが幾度か見つかった事はあるらしいのだが……。


 「故に僧侶クンツァイト様の儀式も実質不可能な次第です」


 儀式は何度も行えるようなレベルのものではない。

 「駄目だったか、じゃあ次」とはいかないのだ。故にどれ、と確実に断言出来る状況でもないのに儀式は出来ない訳だ。そもそも本当にあの中にあるのかも分からない訳だし……。


~~~

【クリソベリル視点】


 (……あいつらしいっちゃあいつらしいか)


 彼女の知る僧侶クンツァイトは割と破天荒な人物だった。

 と、同時に信仰篤い人物でもあった。

 そもそも信仰心が篤いという事はイコールで回復魔法の効果に直結する。つまり、信仰心のなかった奴はそもそも回復魔法なんか使えない。

 まあ、現在がどうか知らないが、当時はかなーり教会も腐敗しており、信仰心ではなく寄付金の額次第で上に行けるかどうかが決まっていた。

 実際、クンツァイトがそもそも勇者一行に加わる事になったのも、当時の腐敗司教を殴り倒してしまった事が原因だ。

 本来なら処罰を受ける所だが、クンツァイトは当時教会では割かし知られた男だった。地位こそ低くとも、民衆からの信頼度は高くそんじょそこらの司教程度が処罰を喚いたぐらいで処罰してはただでさえ不信感を持たれ始めている当の教会への信頼が大幅に削れかねない、という状況だった。

 が、司教自身の怒りを無視する訳にもいかない。

 司教自身はその当時の領主の三男だった、当然金でその地位を買ったのだ。

 結果、教会は魔王討伐の勇者の従者に、教会の聖騎士を支える僧侶の一人として選出した。これならば、魔王討伐の旅で生きて帰ってくる可能性はそれなりに低く、生きて帰ってくればそれはそれで如何にそれなりの大領主とはいえ文句がつけられない。


 話から推定するに、おそらくどこぞの街でそれなりの地位を与えられて、しばらくは大人しくしていたのだろう。

 改革を進める事もある程度は出来たのかもしれない。

 だが、結局そう簡単に変わるはずもなく、おそらくはまた何かやらかして飛び出したのだろう。

 で、冒険者ギルドの原型を勇者が作ったと聞いたのを幸いと転がり込んだ、という所か……、とクリソベリルは当たりをつける。

 実の所その通りであったりする。

 

 人間、年を取れば性格も変わる。

 穏やかな人物となる者もいるし、気難しい人物となる場合もある。

 しかし、クンツァイトの絵姿という奴を先程見せられたが、失笑するのを抑えるのに必死だった。

 絵姿には痩せ気味の長身の髭の男、けれどなかなかの色男が描かれていた、のだが……。


 (……あいつって筋肉ダルマだったもんねえ)


 伊達に魔王討伐で生き延びた訳ではない。

 当人は実際は豪腕の素手格闘術の達人でもあった。その頑強さがあってこそ、彼は僧侶で唯一の生還者となったのだ。

 してみると……。


 (後の時代で改革が起きた時、あいつの名前を借りたって事かなあ?)


 まあ、大方そんな所だろう、と目星をつける。

 あの絵姿とやらも実際は当時から伝わっていた適当な絵に、当時の標語とでもいうべきものを後に書き込んだのだろう。改革を行う以上、それで利益を享受してる上層部に歯向かう場面は出てくるはずで、その際に偉い人物の名前を借りるのはよくある手だ。

 晩年に関しては確定は出来ない。あいつがあの後、どんな風に老いていったのか、どんな人物となっていったのかは分からないからだ。

 色々あって久しぶりに会った昔なじみに「お前、変わったな」と言われる事になるのもまたよくある事。

 ただ……。


 (案外、あいつらしいかもしれない)


 ふとそう思えた。

 ただ……あいつも儀式不可能という点には溜息をつくしかなかったが。


~~~

おまけ


 「あ、そういえば盗賊ならぬ怪盗に関しては何か伝わってない?」


 「か、怪盗、ですか!?ああ、いえ、盗賊の方に関しては名前も伝わっていないんですよ……勇者様の仲間にそういう方がいて、魔王城のトラップを突破する手助けはされた、と記録に残ってはいるのですが……」


 「ふうん……」


 さすが。まんまと逃げ切ってみせた、って所かな?

 義賊として名高く、それ故に魔王という存在に挑む彼らを助けてくれた男。

 別れる最後の瞬間まで名乗る事も、マスクで隠された顔も見せる事のなかった男だった。

 怪盗サーペンティン。

 クリソベリルが生きていた当時、颯爽と現れ、弱いものいじめの騎士団を双方に怪我一つなくあしらい、スケベな無法貴族に恥極まる姿をよりにもよって王城の姫君に曝け出す羽目に陥らせ、腐敗司教からごっそり財産どころか毎度のメシまで盗み出して強制ダイエットさせつつ貧しい人々を救い、と同時にとにかく派手でエンターテイメントを愛する男だった。

 魔王討伐において、当初盗賊の技など誰も考えていなかった為に魔王城のトラップに窮地に陥った時、どこからともなくマントを翻し現れ、魔法の仕掛けも含まれたあらゆるトラップを解除しきって、勇者達を魔王の玉座へと導いてくれた男だった。

 多大な功績として、正に勇者の一人として評価されるべき存在であったが、魔王討伐を終えた一行に対して。


 「所詮私は裏社会の存在だ。表に出るのは辞退させて頂くよ。何時か縁があればまた会おうじゃないか」


 そう言い残して何も求める事なく消えた男だった。

 怪盗サーペンティン。

 その名を勇者の一人の名として見る事はない。

 だが、庶民の間で今も尚、吟遊詩人の歌う人気高く語り継がれる物語の主人公とされる伝説の義賊である。

 

後は魔法使いが登場して、過去の勇者パーティについては終わりとなります

その後は、いよいよ今の勇者と出会い、冒険の旅となる予定です


感想もとむ!

こうした方がいいんじゃない?って改善点やこういう話があれば良かったなどありましたら是非!

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