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死にぞこないの英雄  作者: 雷帝
過去編
3/9

他の人達:勇者の場合

 さて、模擬戦の後、私達は会議場へと移動しました。

 ここで現状、魔王に関して判明している事など勇者の一行に加わって頂く為の話を行うのですが……。

 に、睨まれてます……。

 原因ははっきりしています。よりにもよって私が説明する際に紹介した法王様……。


 「クリソベリル様の為の儀式の責任者だったガーネット嬢です」


 ………睨まれますよね、それは。

 焦られていたのは分かります。表情も固めでしたし、口調も何時もより早めでした。

 けど!

 「儀式の責任者だったガーネット嬢です」 

 は、ないでしょう!?

 私は単なる「事務の」責任者だっただけです!それも仕事として押し付けられただけです!!

 けれど、今、ここでは私が一番立場が低いので何も言えません……本来ここで説明するはずだったギルド長……恨みますよ。後で書類こっそり増やしておく事にしましょう。 


 会議場で一通りの話を聞かれたクリソベリル様が叫んだ。

 「大分状況は分かったわ……けど大体ね!私は単なる一介の剣士なのよ!!!あいつはどうしたのよ、勇者ジャスパーは!」

 まず最初に蘇らせるのはあいつでしょ!!そう叫ぶ。

 ……伝説の勇者様をあいつ呼ばわり出来るのは今の世ではこの方ぐらいだろうなあ、と思う。

 自分達にしてみれば何百年も前にこの世界を救った伝説の存在だが、この方にしてみれば共に旅をして、共に命を賭け、時には馬鹿もやったであろうが、最後は共に世界を救った仲間なのだ。何より、この方は最初から最後まで勇者様と一緒だったというし、吟遊詩人の語りでは秘密の恋人だったという。

 真実がどうだったのか、本当の事は今では誰も知らないが、勇者様はある国の王族だったという。

 そして、この方はこの方で若くして病で命を落とした。

 その為に勇者様が亡くなっておおよそ百五十年後にかの天才劇作家グロッシュラーが二人の悲恋の物語として描いた『ただ一時の夢』がその伝承を確たるものに……いけません。今はそんな事を考えている場合では。詳しいのは決して私がその劇の大ファンだからではありません。

 頭を切り替えて……。

 「ええと……勇者様はですね……」

 クリソベリル様は魔王討伐後、数年をまたずして病で亡くなられた。当然その後の事はご存知ない訳だし、了承を得て、現在伝わっている勇者様の伝承について語る事にする。

 伝承によると、小国とはいえ、一国の王家に生まれた勇者様はけれども、その立場を投げうち、魔王討伐に志願されたという。

 そして、魔王討伐後は荒れた世界を嘆かれ、王族としての地位を捨て、世界を回り民衆を救ったとされる。

 実は現在の冒険者ギルドの礎を築かれたのも勇者様なのだ。

 元々は勇者様を中心に、困った人々の手助けを行う集団だったのを勇者様が冒険者のギルドとして纏め上げたとされ、その報酬を受け取るという形に対して批難した者に勇者様はこう告げたとされる。

 「無償では長く続かない」

 確かにそのとおりだろう。無報酬で、或いは僅かな金で仕事を引き受ける形ではその人達が生きていた後も続くかは分からない。いや、むしろ組織としては長くは続かないだろう。

 きちんとした仕事としたからこそ、それで生活が成り立つからこそ今の冒険者ギルドがあるのだ。

 そして、ギルドは事実、国が動きづらい事件においても依頼さえあれば即動ける為に民衆からは「まず何かあれば冒険者ギルド」を活用するのが割と一般的になっている。それこそ家の修理や探し物まで依頼金と冒険者の都合が合えば引き受けるギルドは間違いなく勇者様の先見の明と言えよう。

 

 その勇者様も何時かは老い、倒れる時が来る。

 旅の途上、ある村で倒れた勇者様は自らの死に際して、村人に自らの死した後火葬にし、灰を世界に向けて撒いて欲しいと願ったという。

 

 「世界の一部となって、この世界を見守ろう」

 

 亡くなる直前にそう語ったという。

 村人はそれに従い、願い通りにした。その村は現在……。


 「ここです」


 勇者様の没した地という事から次第に人が集まり、巡礼の地となり、今では教会が本部を置く大都市となっている……。

 ただ残念な事はそれ故に儀式が行えないという事であろうか……。

 アンデッド化……は正直問題がある手段ではあるが、もし蘇生だとしても触媒として当人の遺骸が一定の割合で必要となる。

 つまり……。


 「勇者様の遺骸は存在しない為、儀式も不可能だという事になります」

 「ふ~ん……って事は私の死体って!?」

 「?魔法による保存がかけられて、大切に保管されてまいりましたが……」


 そう話すと、頭を抱えて突っ伏してしまわれました……。

 どうされたのでしょう?思わず、他の方々と視線を見合わせてしまいました。




【真実という名の心の声】

 延々何百年も私が死んだ後、大勢の人間に見られ続けてたって事!?

 何て羞恥プレイ……!


 ……そうか、逃げやがったな、あいつ。

 勇者の話を聞いて、大体想定がついた。。

 その功績と時の経過で現在では美化されているようだが、あいつはそんな甘ったるい事を言うような男ではない。

 大方、後々時間が過ぎる間に捏造された話だろう。

 元々大国の間に挟まれた小国の次男として生まれた男だ。小国で双方の大国の圧力という面倒はあったが、同時に仲の悪い両国の中間に立っての交易拠点でもあった為にかなり裕福な国でもあった。

 だが、同時にそんな立場を維持するには無能では勤まらない。

 両国が我慢ならず戦争に突入してしまえば、その間で国はあっという間に溶けて消えてしまうだろう。

 それ故に王には有能極まりない人間か、逆に有能な下に投げっぱなしの怠惰な無能、けれども自分が贅沢してれば下の邪魔はしないのいずれかが必須だった。

 で、見事なまでに勇者の時は、長男が無能、次男こと勇者が有能だった。

 こうなると、臣下にとっては長男の方が自分が権限を握れる事になる。役得もかなり美味しい。

 もちろん、そんな連中ばかりではなく、次男の実力を認めて彼を押す者も決して少なくはなかった。


 結果、国が割れかけた。


 ここで問題だったのは長男のバックにいたのが両大国……の傍らにある第三の大国の王家出身だった事だ。

 仲の悪い両大国が戦争に突入しないのはこの第三の大国に漁夫の利を浚われる事を怖れている事もあった。

 一方、次男の母はその小国の貴族出身。

 下手に次男を押すとこの第三の大国が何かしらの干渉をしてくるかもしれない。

 けれども次男をそのまま排除したらしたで、国の貴族達に動揺が走る可能性がある。

 だが、結果からいえば、大国が動くのが早かった。

 教会に働きかける事で、全てにおいて優秀な才能を示していた次男を勇者の一人に認定させたのだ。

 勇者。

 今では勇者といえばジャスパーの事を指すみたいな事になってるが、当時はそんな事はなかった。

 じゃあ、何かといえば、教会が魔王を討伐する可能性のある存在を神託によって探し出す、というものだった。

 本来の「神託」はれっきとした魔法なのだが、この時本当に「神託」が行われて、彼が選ばれたのかは疑わしい。タイミングが余りに良すぎたからだ。

 けれど、彼を含め百人の教会曰く『特に魔王を討伐出来る可能性が高い者達』が選出された、されてしまった。

 当時は魔王の侵攻が次第に強まっていたし、魔王の討伐は各国共通の目的になっていた。それだけに「神託」の魔法を願われた教会の権威が高まっていたし、各国が共同して選ばれた者という名の暗殺者を持ち上げていた。そんな中で「勇者なんかやりません」なんて言えるもんじゃない。

 で、結果から言えば、百人の内九十九人は死んだ。ジャスパーだけが生き残り、魔王を討伐した。

 と言ってもジャスパーが他の者を騙した訳じゃない。

 あいつがしたのは一つだけ。

 他の勇者達を説得し、百のバラバラな勇者のチームではなく、勇者達による軍という一つの組織として魔王に挑んだのだ。

 ある者へは利を説き、ある者へは情に訴え、勇者達による協力体制を築き上げ、勇者とその護衛や仲間による総勢千弱の軍は一丸となって戦った。

 結果から言えば、それは正しかったのだろう。そこまでやって、けれども最後まで生き延びたのは僅かに五名。

 その中にジャスパー当人がいたのは本人の幸運と腕としか言いようがない。事実、最後に五人が生き延びたと言ったが、最初からジャスパーの仲間だったのは私だけ。後の三人は別の勇者の仲間や部下だった。ジャスパーと最初から一緒だった仲間も四人中二人が死んだ。

 本当に魔王は強かった。

 ただ、一つだけ言えるのは「神託」も案外馬鹿にしたものじゃない、って事か。

 実際、色んな奴がいたけれど、あの時あそこにいたのは全員が紛れもない「勇者」であり、「勇者の仲間達」だった。

 私を幾度となく口説いた魔法に長けた、けれど小太りのいささかナルシストの大商人の三男がいた。

 彼が本気で私に惚れていたと知ったのは、私が魔王の一撃で死に掛けた時、彼が庇って致命傷を負った時だった。


 「惚れた女の為に死ぬのも悪くない。少なくとも、惚れた女が目の前で死ぬよりはずっとマシだな」


 体が千切れかけ、激痛に苛まれていただろうに、それでも彼はそう言って私の腕の中で笑って死んだ。

 農民出身の少年で、特に優れた所も何もない、凡庸な少年がいた。

 勇者側に不利になりつつあった戦況をひっくり返したのは命と引き換えに彼が魔王に与えた一撃のお陰だった。

 虚勢を張る者だっていたけれど、誰一人としてあの強大な死の化身とでもいうべき魔王との戦いから逃げる者はおらず、命をかけて戦い抜いた。

 そうして、最後に残った勇者ジャスパーの一撃が遂に魔王を倒した。

 ……もっとも、話を聞く限り、現代には百人の勇者、なんて話は伝えられていないようだ。それどころか、他の勇者が成し遂げた事もジャスパーが成し遂げた事になっている。……おそらくは長い時の間に、勇者にまつわる伝説がジャスパーというたった一人生き残った勇者に集約され、他の勇者達は忘れ去られたのだろう。

 他の勇者の仲間だった最後に残った連中も、何度か入れ替わって最後に付き従った連中、って事になってるし。

 

 とりあえず、その話はおいておこう。

 帰った私達を待っていたのは歓迎式典という名の狂騒。

 そりゃあ魔王という脅威が去って嬉しいのは分かるが、こちらの都合も考えろと怒鳴りたくなるような有様。ジャスパーの故郷の王国でも以前は第一王子に媚びへつらってた連中が掌返してジャスパーに日参して来る有様だ。私とジャスパーが付き合っていない事を知るなり、双方に山のような縁談が舞い込んだのも忌々しい思い出だ。二人して、「いっそ二人で偽装結婚するか」と真剣に話し合った事もある。

 もっとも当の本人が小国の王を継ぐ事はなかった。

 だって、小国の王になって苦労するより、大国の王女の婿になって王位を継ぐって話だってあったんだから。むしろ、そういう縁談が雪崩れ込んだお陰で、却って王につく気が失せたとか言っていた。勇者として野宿や誰も王位を巡る陰険な争いに絡んでこない自由を楽しんだ彼はそういう生活に嫌気が指したらしい。

 王家の一人としての生活しか知らなかった勇者が、それ以外を知り、それまでの金はあるけれど命の危険があって、陰謀と人のどろどろした欲望に満ちた世界が嫌になった訳だ。

 おおかた、地位を捨て、民を救う為に、なんて下りだって実際はさっさと逃げ出して、気楽に世界を回っていた、という所だろう。


 で、私自身が死後……私の場合は病気で割りと若い内というか、魔王との戦いが終わってほんの三年後に死んだ訳だけど、まあ、それは納得してる。元々、魔王討伐前に病にかかった事も、それが死病な事も知っていた。せめてもの慰めは苦痛とかがない事ではあったが、どうせ病気で死ぬならと思って参加した魔王討伐だったし。まあ、私の病はどうでもいい、問題は私の死んだ後だ。

 死んだ後、公開されてたって……なんて傍迷惑な!当人の都合も考えろと言いたい。自分の死体をずーっと大勢の実も知らぬ人に崇められるなんて冗談ではない!少なくとも私は。

 勇者はそんな様子見せられて、自分が死んだ後どうなるか察したんだろうな。間違いなく、同じ目に遭うって。

 おそらくは死期を悟った後、勇者の顔を知らない村にでも行って、遺言辺りで自分の遺骸に関して言い残したんじゃなかろうか。例え遺言で遺した所で勇者が死んだって知られれば、遺言が捻じ曲げられて使われる事は推測出来るし。

 いや、そもそも火葬が一般的な場所とかわざわざ探して行った可能性もあるか……。

 で、教会とか世間の連中が行き先突き止めた時には後の祭りという訳だ。

 勇者自身の遺言だから、村人に文句言う訳にもいかないし。 

 しかし……一人逃げられた気分だ。全く!せめて私の死体もきっちり何とか処分してくれたっていいでしょうに!!ジャスパーの奴!!


伝説とか現実とかって結構違うよね

当人が生きてれば、「俺こんな恥ずかしい事言った覚えねえよ!?」なんてあるかも……


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