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死にぞこないの英雄  作者: 雷帝
過去編
2/9

伝説

 模擬戦闘。

 それに駆り出される事になったのは王に付き従ってきた騎士やギルドの精鋭冒険者達。

 彼らには今回の詳しい事情は伝えられていない。だって、どう言えばいいのか分かりませんし……。


 剣姫クリソベリル様と真実を伝える?

 伝説の御方と分かったら萎縮してしまうのが目に見えています。

 大体……アンデッドなんて言おうものなら彼らでさえ大混乱が起きるのも分かりきっています。

 世間に広まったどんな事になるか……。

 当り前ですが、アンデッドは普通良い顔をされません。というより、普通は討伐対象以外の何者でもありません。

 アンデッドは低位、上位、最上位の三段階に分けられますが、そのいずれもが恐怖や嫌悪の対象です。

 世間一般にアンデッドと言えば思い浮かぶであろう低位アンデッドであるゾンビやスケルトンは見た目がアレですし、最早本能で動く動物と大差ない存在です。

 当り前ですよね。だって…。


 『脳ミソ腐ってるか、頭の中文字通り空っぽなんですもの』

 

 つまり、お腹が減れば、活動に必要な負の生命力が不足すれば相手構わず生き物を襲ってお腹を満たしたり、補充しようとします。無論、人も例外ではありません。

 なまじ人の姿をしているものですから、人を襲い喰らうアンデッドは憎悪される訳です。おまけに彼らは普通の動物と異なり、満足という事を知りません。

 そう、彼らはひたすら自らが滅ぶか、上位に上がるその瞬間までひたすら生命を襲い続けるのです。

 上位と下位の区分は知能があるかどうか、です。

 知恵があれば、例え見た目は普通のゾンビやスケルトンでも、力が大差なくてもグールやグレータースケルトンと呼ばれ上位アンデッドとして区別されます。

 しかし、上位のアンデッドはといえば、これもまた通常は人を襲います。

 負の生命力を溜め込む程、アンデッドは強くなり、そして通常、負の生命力は正の生命力を持つ相手から奪う事でしか補充出来ないからです。

 闇雲には襲わなくなりますが、それはあくまで相手や襲うのに適した時や場所を見極める悪知恵を身につけたからであって、その分非常に性質が悪い存在になります。

 

 ではクリソベリル様も人を襲うのかと言われれば、そんな訳がありません。

 そんな状態では魔王討伐をお願いする事など出来ないではありませんか!

 答えは最上位のアンデッド、その定義にあります。

 最上位のアンデッドは負の生命力を自然から得る事が可能になります。というより、それが出来る存在が最上位とされるのです。

 そうなれば、わざわざ人を襲う必要などありません。中には人を襲う者もいますが、それは必要に駆られてではなく、単なる嗜好によるものです。 

 邪悪な不死の魔法使いのリッチならば実験素材として、吸血鬼の王バンパイアロードならばワイン同様に美味い血の為に人を浚うのです。

 当然ながら、クリソベリル様はそのようなご趣味はありませんから、アンデッドといっても実際に普通の人と異なるのはアンデッドの基本部分……例えば血が流れぬ故の冷たい体であったり、既に年を取らない事や、既に死んでいる為に滅ぼされぬ限り不滅である事。普通の人ならば致命傷レベルの怪我でも大丈夫、子を為せない、通常の回復魔法で回復しないが放っておいても自然から負の生命力を得て再生するといった事のみです。

 ……こうしてみると、やっぱり結構ありますね。

 ……というか、襲いませんよね?クリソベリル様……?お、襲われたら誰も止めれませんし……。

 やめましょう、精神衛生上良くありません。

 しかし、やはり人を襲わないと言われても、アンデッドとは世間一般では恐怖の対象であり、魔物という認識なのです。ましてや伝説の英雄たる剣姫クリソベリル様がアンデッドとして復活した、となれば、このただでさえ魔王が復活したという噂で不安が渦巻いている今、どんな混乱が巻き起こるかなど考えたくもありません。

 ……現状でさえ、色んな意味で混乱が巻き起こっているのですから。

 ふう、と阿鼻叫喚の絵図となっている各国・教会のお偉いさんの姿に深い溜息が洩れます。

 ……うちも他人事ではないんですけどね。

 クリソベリル様を含めた勇者を神の化身として崇める教会の一派もあるんですよねえ……彼らがこの事を知ったら……魔王討伐前に人はバラバラになるかもしれません。ばれないよう祈るばかりです……はあ、本当にもう少し何か手はなかったのでしょうか……。


~~~


 「なに、これ?」


 そう問いかけたら連中、こぞって不思議な顔をした。

 模擬戦闘という名の連中にとってみれば伝説の英雄が蘇ったもののちゃんと元通り動けるのかどうか知りたい、という思惑があっての事だろう。もっとも、私からすれば単なる鬱憤晴らしな訳だが、その前に、かつての私の武器や鎧が大事に保管されている、というので教会の総本山の宝物殿に来た訳だけど……。

 飾られていたのは私が使っていたものとはまるで違うキンキラキンの飾り物や、見た事もない武器や防具。

 話を聞いてみれば、教会に伝わる『剣姫クリソベリル由来の品』、だとか。

 

 「私はこんなゲテモノを愛用した覚えはない」


 そう断言した時の教会関係者の驚愕と絶望の顔ときたら……。でも、私は実際これらを使った事はないのだ。

 見覚えがあるものはある。例えば、あの首飾りは私が魔王討伐が終わった後、英雄だ!と祭り上げられた時に教会から贈られたものだ。……もう一度言うが『魔王討伐が終わった後』、だ。

 それにしたって愛用などという品物ではない。

 私は元々貴族の出身だ。王子の乳母なんてものは身元不明の人間がなれるものではない。必然的に下級かもしれないが身元が確かな貴族から選ばれる事になる。

 で、当然、その妹の子なのだから私も貴族出身だ。

 とはいえ、王宮や他貴族の夜会に出る時に身に着けるようならともかく、実際に使うものにまで何で豪華な装飾品をつけなければならないのだ。

 無論、そういう家だってある。実際、私も宝石をゴテゴテと飾り付けた金色のオマルを見た覚えがある。……どこぞの成金豪商の王家への献上品だったはずだが、見た時は心底馬鹿だと思った記憶がある。

 大体、鎧や武器に宝石なんぞつけてどうするというのか。

 さっきからドヤ顔で「自分の所が本物でしょう?」と大国とやらの王とかが出してくるのが実にうざい。

 

 「どうです!これが我が国に伝わるクリソベリル様の」

 「私のじゃないわよ」

 

 固まった。けれど何よ、この長剣。

 確かに実用品らしく質実剛健って感じだけど、私は長剣など使った事はない。

 ただ見覚えはある……これは魔王討伐に参加した勇者の一人が使っていた剣ではなかろうか?

 

 

 結果からいえば、とある田舎の小国の王家が「剣姫ゆかりの品と聞いております…」とおそるおそる出してきたのが私の愛剣だった。

 鎧とかは教会の宝物庫から出てきはしたのだが、「所有者不明」けど「なんか使ってた人がえらい人だったらしいよ?」という事で保管されていたものだった。ここら辺は教会にあった事に感謝だ。教会の場合、聖人などには貧しい生活を送っていた方が結構いるから見た目がみすぼらしくてもそういう話があると、ちゃんと保管してくれるからなあ……他国の王家だったらどうなってたやら。


~~~


 クリソベリル様がご自分の愛剣だと喜ばれたのは簡素な装飾の施された双剣でした。

 しかし、周りが騒然としているのに対し、私達ギルドの面々は別に驚きはしません。ギルドのトップクラスの冒険者で豪華な装飾品の剣なんて使ってる者はまずいないからです。

 例外がいない訳ではありませんが、それはあくまで遺跡で発掘された現代では失われた技術を用いて作られた魔法剣、といった場合です。家に飾っておくのではなく、実用本位で作られたものなら、あんなものでしょう。

 まあ、保管してた当の王は喜色満面ですが。

 何せ、魔王討伐の為に、各国にはそれなりの負担が求められます。

 特に特色ある特産品がある訳でもない小国にとっては相応の負担でも馬鹿にならないものであったでしょうに、長年「剣姫由来の品」と伝えられていた為に延々宝物庫に納められていた武具が「実は剣姫の愛剣だった」となれば、まず間違いなくあの小国が本来担当すべき負担は皆無になるでしょう。

 王が喜ぶのも当り前です。

 しかし、勇者にまつわる逸話の品に関しては皆さん戦々恐々ですね。

 それはそうかもしれません。何しろその時代を生き、最も勇者様の傍にいた方が証人です。もし、「それは違う」と言われたらどうしよう、これまで国宝としてきたのに今更「じゃあ本当は何だったんだ?」という事になりかねません。

 まあ、ご本人がそのような事に興味がないらしく、さっさと体を動かしたいと言われて皆さんがそそくさと移動したのは見なかった事に致しましょう。


~~~


 さて、いざ模擬戦闘が始まった訳ですが……。

 そこに現出したのはある意味、異様な光景でした。

  

 「もう終わり?」


 困ったようにクリソベリル様が首を傾げておられるのですが……。 

 確かにこれだけ見れば可愛らしいお姿なのですが……。

 ……周囲に屈強な騎士や冒険者が荒い息でゴロゴロ転がってるのを見るとどうにも妙な感じです。

 

 「これは凄いな……」

 「と、言われますと?」

 

 傍らにいるのはギルドの訓練責任者です。

 ギルド長はクリソベリル様復活ならぬアンデッド化の儀式に参加して現在ダウン中です。

 まあ、今回に関してはそれで良かったのでしょう。ギルド長は魔術師であり、魔法に関してはエキスパートでも剣技に関しては……。


 「うむ、クリソベリル様は殆ど動いておらぬ……」

 「えっ?」


 そんな事はないでしょう?

 常に舞われていたではありませんか……ええ、伝説は間違っていました。

 クリソベリル様は舞うように戦い、舞の如き戦いは精霊を惹きつける。そう吟遊詩人は歌います。

 ですが、違います。

 クリソベリル様の戦いは舞うように、ではありません。正に舞そのものです。

 それは剣舞であり、同時に精霊に捧げる舞であり、しかし紛れも泣く戦いなのです。

 最初は一対一でした。

 しかし、まるで相手になりません。

 剣を打ち合う音すら立てず、相手の剣が巻き上げられ或いは空を舞い、或いは地面に落とされて騎士が、冒険者が呆然としているという光景が繰り広げられました。

 彼らはいずれも王の護衛としてついてきた騎士であったり、十分な経験を積んだ熟練の冒険者です。腕には問題がない、はずなのですが……。あの光景を見ると何だかその気持ちが揺らいでしまいそうです。

 この時点では舞には見えませんでした。仕方ありません。近づいて始まった、と思った次の瞬間にはもう終わっているのですから。

 最終的にやむをえず、クリソベリル様対十名全員、という戦いになって初めて戦いとなり……その前が前ですので全員本気でかかっている騎士や冒険者があしらわれるその姿は正に舞いでした……クリソベリル様が舞う剣舞の参加者であるようにあしらわれ、流される。激しく打ち合う音など響かずそれが続き……遂に彼らは全員が疲れ、へばってしまったのです。

 でも、あれで動いていない、とは一体?


 「……剣を打ち合うのではなく流す。真っ向打ち合わず完璧に受け流している為に体力の消耗を抑え、更には、その場を僅かに円を描くように動くのみ。よく見てみるがいい……周囲は荒れているがクリソベリル様のいる場所は綺麗なものだ」

 「えっ?」


 慌てて見て、絶句しました。

 周囲は走り回った、いえ走りまわされた騎士や冒険者によって荒らされていましたが、反面クリソベリル様の足元は均されたように綺麗なままでした。

 周囲もそれを理解したか、或いは傍にいる護衛に教えられたのでしょう……皆さん驚きの声を上げたり、絶句されています。

 場が驚きに包まれる中、クリソベリル様だけが詰まらなそうに静かに佇んでいました……。

 

 「これが……」


 英雄、これが伝説の剣姫。

 事情を知らぬ者に聞こえぬよう後の言葉を飲み込み、私はただその光景を見つめる事しか出来なかったのです。


やはりサクサク書けるとはいえ、純粋に字数がある程度かさばると時間がかかりますね……

次からは2、3日に一話のペースで投稿したいと思ってます


2話目投稿

現代では「~が~したと伝えられる」なんてものでも、実際に当人が生きていれば「え?違うよ」なんて事は幾らでもあるんじゃないかと思います

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