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後編

 はぁはぁ……疲れた。早く帰ってシャワー浴びたい。ご飯食べたい。

外に出た時は夕暮れだったからすっかり陽も落ち、今は街灯が通りを照らしている。

事務所は暗く二人はすでに帰っているんだろう。

鍵は当然掛かって……いない?

 人の気配は……感じられない。耳を澄ますが……物音もしない。

もし誰か居るとしても私がドアを開けた音を聞いて身を潜めているかもしれない。

このまま帰ろうかとしたが、物取りに遭いました、なんて報告したら団長の雷どころじゃなく鉄槌が下るな。

雷霆騎士団だけに雷が落ちる……あんまり上手くないな。

そんな事はどうでもいい。

 ゆっくりと事務所に入る。中は真っ暗で眼は効かない。

しかし何処に何があるか位は覚えている。

壁を背にゆっくりと進む。もし誰も居なかったらそれはそれでいい。

もし居たのなら私の動きは分かっているだろう。

そのまま逃げるのなら面倒な事にはならない。

逃げないのなら、

「面倒な事になるな!」

 暗闇からの襲撃。壁に突き刺さる何か。

確認する間もなく影が動く。正面に大きな影が現れる。暗闇でもはっきりと分かるソレは明らかな敵意を持っていた。

 すぐにその場を離れる。

直後に私のいた場所に影が覆い被さる。

剣の場所はいつもの場所。私のデスクに近い棚に立て掛けてある。

そこまで行けば私にも反撃のチャンスはある。

暗くてもどこに何があるのかは分かる。後で気配を感じた。

風が斬られる感覚。

「うおっ!」

 エリルのデスクの上を転げ回り、目的地である棚まで飛ぶ。

剣を手に取り正面に振り下ろす。

衝撃と金属音。それが闇に響く。

さてこれで私に負けは無い。はず。

後はこの泥棒を捕まえるだけだ。

しかし暗くては面倒。電灯のスイッチは……ここから向かえば五歩。

泥簿の気配は……いるな。私の左正面に。デスクを挟んでいるからすぐには近づけないだろう。

が、デスクに上るのに大した手間はかからない。

私に何か動きがあればすぐに間合いを詰めてくるだろう。

相手はまだ私の剣の間合いを掴めていない。

おそらく武器が何かも分かっていないだろう。

ここで電灯をつければ不利になるかもしれないが、暗闇から一転しての照明の明るさは一瞬の虚を突けるかもしれない。

その一瞬があれば私の勝ちだ。

ゆっくりと確実にスイッチに向かう。手探りでスイッチを確認。

相手は正面にいる。私の思惑には気付いているだろう。

泥棒がデスクに飛び乗り一気に踏み込んでくる。

闇に煌く白い刃。激突する刃が火花を散らす。それから数合打ち合う。

力は感じない。が速度はある。刀身はそれほど長くはないか……?

突きを後に下がり避け、同時にスイッチを押す。

闇を白く染める光。私より暗闇にいた泥棒の動きが鈍る。

しかし剣は迷い無く私を狙っている。弾いて剣を喉元に突ける。

「ここをどこだと思ってるの?」

 泥棒は小柄な男。黒い服を着ていて黒いニット帽からは銀色の髪が見えている。

泥棒は答えない。持っている小剣が答えのようだ。

突き出される小剣。弾いてもくるっと逆手に持ち替え連撃に来る。

この連撃は……受けるのも手間だ。

「せぃっ!?」

 斬られた! そう思った。が、斬られた痛みは無い。

小剣が当たった衝撃はあったが斬られてはいない。

「このジャージ中々……いい物かもっ!?」

 連続で受けるのは色々とヤバイ。

受けた一撃の痛みは避ける事を怠った罰。

今度は私の番。半歩下がり間合いを取る。詰めれば下がる。壁を背にするがこれ以上は近寄らせない。

今は耐えて耐えて……決定的なチャンスを待つ。

 突き出される剣。受けるにも避けるにも変幻自在に動く軌道は読みづらい。

泥棒が踏み込んだ時、タイミングを合わせて、

「うらあああああああ!」

 右腕の下に体を入れてその右腕を掴み、投げ飛ばす。

狙いは壁に投げ飛ばし投げ飛ばされた泥棒を見下ろし、

「チェックメイト。」

 そうなる予定だ。

しかし、現実は違った。

泥棒は窓へと飛び、ガラスは砕け外の風が室内に入ってくる。

「しまっ!」

 追いかけ窓から私も飛び出す。

泥棒は背中から叩きつけられたにも関わらずすぐに立ち上がった。

窓から飛び出し、剣を上段から振り下ろす。

距離タイミングは合致している。

「どらあああああああ!」

 振り下ろされる剣は迷い無く振り下ろされる。

剣は泥棒の鼻先を掠めて道に敷き詰められてある石畳に当たる。

泥棒はそのまま意識を失い倒れる。

大通りから少し離れているとはいえ、人通りが無いわけではない。

「シオンちゃん何があったの?」

 近くに住むおばちゃんが心配そうに窓から見ていた。

「ん、大丈夫大丈夫。」

 私は気絶している泥棒を引っ張りながら答える。

「そう、それならいいけど。何か遭ったら大変じゃない?」

「私が負ける訳ないでしょ?」

 力こぶをを見せるとおばちゃんは笑って、

「そうね、エリルちゃんやオスカーちゃんも"隊長は人の皮を被った野獣"って言ってたし大丈夫よね。」

 ……アイツ等。

「じゃおばちゃん。おやすみ。」

 おばちゃんは窓を閉じ、道行く人も物珍しげに私を見ている。

私は夜空を見上げる。月が明るく星がちらちらと夜空を彩っている、


 事務所に戻りまだ意識を失っている泥棒を縛り上げる。

「どうすんだ、これ?」

 砕けた壁。散らばった書類。壁には穴がありデスクは踏み荒らされている。

私は窓際の自分のデスクに座る。割れた窓から見る月はいつもより綺麗に見えた。

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