前編
前編と後編に分かれてます。
なんか貰った。
「なんすか、これ?」
昼下がりの"雷霆騎士団劇場通り事務所"。
劇場通りに面してはいないがそう名づけられた二階建ての事務所。
入ると正面にはキッチンへと続くドアと二階への階段。右手には扉がりそこは来客用のソファが二つとその間にガラスのテーブル。後は私達のデスクだけ。
買出しに行っていたエリルが戻ってきて、入り口に、でん、と置いてあるダンボール。
その前に立っている可憐な私、シオンちゃん、を交互に見る。
送り主は私達の上司である雷霆騎士団の団長殿だ。そして送り先はここ、雷霆騎士団出張所だ。
「知らん。私も何も聞いてないからな。」
本部からは何も聞いてない。
私はそっと耳を当ててみる。
「最近流行の爆弾魔じゃないでしょうね?」
「ははは、まさか……し。」
物音は聞こえない。
「よし、開けてみよう。」
「ちょっと待ってください。……はいOKです。」
エリルは奥に向かったからてっきり何か道具でも持ってくるのかと思いきや、衝立の後ろに隠れている。
「おい、何がOKなんだ?」
「さささ、早く開けて下さいよ。」
「しょうがないな。」
私は一つ息を吐くと、素早くダンボールを持って行き、
「ちょ、何してるんですか!?」
慌てるエリルの前で破るようにダンボールを開けた!
脱兎の如く逃げた私。しかし何も起きない。恐る恐る戻ってみると、エリルが倒れていた。
巡回から戻ってきたオスカーにもダンボールの中身を見せる。
「しかし、たかだかダンボール一つで退屈しませんね。」
「だろ? ホントに失神してたからな、エリルは。な?」
オスカーが貰ってきたお饅頭を食べながら、さっきの事を話している。
「う、うるさいな。仕方ないだろう、三日前に"疾風騎士団港湾事務所"に爆弾送りつけられたってニュースがあったんだし!」
「はいはい。そういう事にしておくよ。」
オスカーは冷静にお饅頭を食べている。
「まったくお前等には危機感が無いんじゃないか!? よし、俺が危機感を持って行動しないとどうなるか説明してやる!!」
エリルの言い訳タイムスタート。
「へ~これが新素材を使った制服なのかー。」
それを無視して私はダンボールから中身を取り出す。
手触りはイイ感じだ。軽く動きやすそうだ。引っ張っても伸縮性は充分。
一緒に入っていた資料に防刃に優れているとか。
「ちょ、まだ何も始まってませんよっ、はい注目!」
立ち上がり何かを始めようとしていたエリルを見上げる。
「ああ、いいよ。続けて。」
私の目線は再び新制服へ。
「結構良さそうですね。」
「うん。後はどこまで信頼出来るかってのと。」
「それ以外に何かありますか?」
「デザインだな。どうみてもジャージだろ?」
「それは……まだ開発中なんじゃないんですか?」
色は赤、青、黒の三色が入っている。それはいい。選ぶ楽しさがあるからな。
同じサイズは三着づつ入っている。それもいい。洗濯できるしな。
しかし、サイズ毎に一色しかないって……なんの為のカラーバリエーションだよ!
せめてそこも三色揃えろよ! ずっと同じの着てると思われるだろ!!
本部にも女は居るだろう、なぜそれに気付かなかったのだ……。
とりあえず着てみた。
「どうみても部活ですね。」
赤の私、青のオスカー、黒のエリル。
三人が鏡の前に立つその姿は、オスカーの言う通りまさしく部活。
「三人でランニングでも行くか?」
「どうぞ、俺は資料まとめるんで。」
「あ、俺は掃除してますね。」
ノリの悪い奴等だ。
私もデスクに向かおうとすると、
「あれ、ランニングは?」
「え?」
「え?」
あれ、私行かなくちゃいけないの?
きょとんとしか顔で私をみる二人。
「「いってらっしゃーい。」」
……まじかよ。
「じゃ、行って来る。時間になったら帰って良いぞ。」
私は小銭をポケットに突っ込み事務所を後にした。